最終章 ヤンキースの黄昏と強者の戦略

未分類
11 /22 2015
カーショウ グリンキー 柳 ハレン ベケット。この豪華なメンバーが今から2年前の2013LADにおけるスターターである。

5枚揃っている時点であったにもかかわらず、LADは更に田中へポスティングを入札し巨額のオファーを出したと報道されました。「まだ補強を続行するのかLAD、これはできる!」と唸りつつ、NYYとの動きにおけるコントラストが余りに鮮やかだったので強烈な記憶が残っています。ふつうのチームであれば5本揃っていればスターターの補強は一先ず終了となるはずですが、田中へのスーパーエース級のオファーで更に畳み掛ける姿勢は紛れもなくLADの高い戦略性を示すものでした。ハルなら絶対に仕掛けなどできるはずもありません。カノ放出したからその財政的なスペースでもって田中へというNYYの戦力の逐次投入路線とはまさに一線を画するものであり、金がある以上波状攻撃を仕掛けて満々たる戦力を擁して相手を叩き潰すといったLADの強者の戦略が明らかになったシーンでした。

2年前のNYYは大補強などと喧伝されていますしそれを真に受けている方も多いようですが、その実は腰が入ってない見せ掛けだけものでありました。ほんとうの大補強であれば大幅にペイロールは増えるはずです。しかし実際は15%増に過ぎません。カノを確保した上でのものなら大補強という喧伝も大いにわかりますが、よく見ると実際のペイロールの数値に劇的なまでの大きな変化はなかったのです。それは未だにハルが贅沢税ラインを一度は切る意向を明らかにしていることからもわかります。贅沢税ラインを切るつもりなら2億ドルの周辺を上下するしかありません。大補強と言いつつ所詮いつでも切れるような範囲内の動きだったということです。繰り返しますがここ10年NYYペイロールはほぼ横ばいです。


見せ掛けの大補強でも勝てなかったことを受けて「金をかけたからといって必ずしも勝てるわけでもない」というハルのもっともらしい理屈は一見正しそうです。スモールマーケットのKCが勝ち3億ドルでもWS進出がならなかったLADがそれをよく示している。だから必ずしも金をかける必要もないという、このもっともと思える巧妙な論理にコロッとだまされる人も少なくありません。しかしハルの行動の本質を透視する限り、このハルの詭弁は、単にNYYグループの利益第一主義を正当化する実に都合のいい論理のすり替えであることを的確に見抜いていかなくてはなりません。「金をかけたから必ずしも勝てるわけでもない」ことはたしかです。それは認めます。しかし「金を的確にかけた方が間違いなくチームは強くなる」こともまた確かなことなのです。この緊縮財政を肯定するハルの論理のすり替えをきっちりと抑える程度の洞察力は身につけておきたいところです。意外とコロッと「金をかけたから必ずしも勝てるわけでもない」というハルの論理を真に受けている方が見受けられます。他のチームには余力はあまりないが、NYYには十二分に財政力はあるので全く事情が違う点を決して見落としてはなりません。


1億8900万ドルという贅沢税ラインについても、それがひとつの抵抗ラインとしてNYYに対しては機能していましたが、明らかにNYYよりも収入が低いLADは容易くそのラインを跨いでNYYのペイロールを抜き去って行きました。まるで「贅沢税のライン?そんなもので俺たちを止められはしないぜ」と言っているかのような鮮やかな贅沢税ラインのスルー。強者はこうでなくてはなりません。結果、積極投資の姿勢によってドジャースタジアムには観客動員においてもMLB1位の座をヤンキースタジアムから奪い取ると共に一躍、ペイロールMLB1位の座も獲得しました。ここにNYYの緊縮均衡とは180度違う拡大均衡を目論むLADの強者の戦略があります。

NYYよりも遥かに凌駕するペイロール3億ドル、贅沢税完全スルーのLADの方がなんとなく金満であると思い込んでいた人も多かったのではないでしょうか。他ならぬ私自身、NYYの方が金満であることは知ってはいましたが数字を調べるまで実に曖昧としていました。収入にしてもLADよりも圧倒的にNYYの方が多いという事実についても繰り返し強調しておきます。贅沢税ラインへの頑ななまでの拘りからもハルにとってはヤンキース帝国の復活などよりも経営者にとって黒字をたたき出すことが何よりの大事な仕事であるという一貫したポリシーが透けて見えます。ちなみに気づいている人もいるかもしれませんが、2014カノのWARが5.0超であり、NYYセカンドWAR0.0でした。つまりNYY2014にカノがいれば5勝分上積みできたと見なしてもいいわけですが、カノがいれば2014もPOに進出できた勝利数に届いていたことを意味しています。


かつて長嶋巨人が4番ばかりを集め世界最強打線なるものを掲げて、全く機能しなかったことがありました。強者の戦略と言えばそうですが金を無暗に使えば、それで強くなるというものではないという教訓がここにあります。ベースボールというゲームは投打の総合力が最終的にものをいう競技であり、四番の代わりに、一人でも強力なクローザーを補強したら楽にあのシーズンも勝てたとは言われています。金を使う方向性が間違えばこうなるという最たる例と言ってもいいでしょう。ジョージ・スタインブレナーのNYYが長嶋巨人と比べてまだましだったのは、ジョージ・スタインブレナーの時代のNYYは各チームの四番だけでなくエースを集めていた点にあります。(メジャーであるから3番という表現の方がいいのかもしれませんが)13年連続でPO進出という成果も出しました。

しかしジョージ・スタインブレナーの手法には問題点もありました。POにおいて強さをなかなか発揮できなかったことです。CORE4を中心にトーリが信条とするスモールベースボールが最大限機能した1990年代後半の黄金期こそ、まさに2015のKCのような繋ぎを大事とする全員野球のその方向性、色合いを一にするものであり、この両者には短期決戦において強いチームの共通する<ベースボールの質>としか表現できないものが備わっていたことは確かです。このスモールな組織性が十全に機能していた1990年台後半の黄金期NYYにジョージの「大艦巨砲主義」が入り、NYYの<ベースボールの質>が変質したことによってPOではなかなか勝ち抜けなくなったその可能性について、改めて考える余地はあるのではないかと思うのです
レギュラーズンを勝ち抜くには戦力としての総合力が必要です。WAR0.0で162試合のシーズンで勝率.320、 52勝が期待出来る。WARで言うと一つの目安として最低トータル40以上は必要であり45もあればPOには確実出れる戦力は整っていると考えていいです。ジョージの手法における最大の問題点は戦力のボリューム、quantityだけにフォーカスされていた「大艦巨砲主義」にあったのではないのか。たしかに戦力さえあればレギュラーシーズンは勝ち抜ける・・・。レギュラーシーズンで大事なのは<戦力>の絶対的な量、quantityです。しかしPOに出てくるチームは一定の戦力は持っているわけであり、短期決戦の勝負の行く末を決する可能性のあるquality<ベースボールの質>について考える必要があります。「なぜOAKはプレーオフで勝てないのか?」でも示したように、短期決戦では単純にWARが大きければそれで勝てるというものではありません。

全体とは量quantity×質qualityで表現されます。
フリードマン指揮するLADの動きを見ていると、未だほんとうの成果は出ていませんが量quantity×質qualityのふたつについてはっきりとターゲットに入れて試行錯誤を重ねていることが感じられます。同じ金を使うにしてもジョージの手法とここがLADの強者の戦略については大きく違います。ジョージの大砲ぶち込み主義も決して悪くはないですが、どうしてもベースボールの質としてはキメが粗くなります。真に強いチームとはレギュラーシーズンを勝ち抜くだけでなく、短期決戦においても無類の強さを発揮するようでなければ本物ではないとも再三にわたって言ってきました。真に強いチーム作りには戦力のボリュームだけでなく、ベースボールの質についても十分ケアするような補強戦略が大事になってくるということです。STLなどはカージナルウェイという<ベースボールの質>をマイナーの最下層まで浸透させて、生え抜きとFAの絶妙なコラボレーションによって戦力を整えつつ近年においてWS制覇を何度もし強豪の地位を占めています。単純な確率で言えば30年に一回優勝できればいいわけですから、その勝利の生産性の高さは目を見張るものがあります。短期決戦を運次第という考え方はいずれ確実に時代遅れになるでしょう。もっとベースモールの質においてキメの細かいものを追求する段階へMLBの歴史も突入するということです。それこそが進化の証です。

結論としてはハル主導によるNYYの行く末は、たしかにリーグ1位のペイロールは確保しており、暗黒の時代ということもないでしょうし絶対に優勝できないとは言いませんが、採用している戦略が間違っている以上決して明るいというわけでもありません。まさに文字通りタイトル通りのNYYは黄昏を迎えようとしている。状況は絶えず変動するのでその不確定要素を一々ここに書くことはできませんが、明らかに改善の予兆であるという事があれば随時記事でもupしていきます。 ガードナーやミラーの一件にしてもスモールマーケットの弱者ならトレードでもわかるが、ビックマーケットの強者なら彼らを戦力として確保しつつ、積極的にFAで補強するという発想を本来はするべきです。しかし現時点ではハルはArodやサバシアの契約が切れる時期を見計らって贅沢税回避に対してあくまでターゲット絞り込んでいるようなので、コストを制限し効率重視で弱者の戦略を相も変わらず採用しようとしています。戦略を研究している者からすると、ものすごいセンスの悪さを感じます。


現在MLBには強者の戦略を採用できるチームはNYYとLADしかありません。現時点において、LADが取っている強者の戦略を断然支持します。LADはこれからどれだけベースボールの質を多様でキメ細かくできるかが大きなポイントになってくるはずです。キャッシュマンもGMとしては並の能力は持っていると見ています。ましてジラルディについては監督としては優秀な部類に間違いなくカテゴライズされる人物です。批判をGMや監督に振り向ける人もいますが、向けるべき批判の矛先はちょっと違う気がするんですね。SEAはGMの能力に大きな原因があったし、WSHは監督の能力に大きな原因があったように、NYYはオーナーに大きな原因があります。各チームによって実はネックとなっている部分が違うのであり、この点については正確に見抜いてゆく努力が必要です。なんでもかんでも無茶苦茶な批判をすればいいというものでもありません。少なくともジラルディは最優秀ではないにしても間違いなく優秀な監督の一人です。いずれ彼を擁護する記事を書くとしましょう。



大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。