「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代を超えて ポストフライボール革命 レッドソックスの戦略

フライボール
10 /16 2018


これまでの常識を打ち壊してフライボールを打ち上げろ、そにに打撃の革命的な大きな活路がある」とするライターたちによる論旨のコラムを目にして、2018年の5月、当ブログではあまりに内容が浅はかであると断じてきました。すっかり手垢のついた内容でもあり、メジャーにおける最先端にある考えではないことを「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」という記事で詳細に示しました。

何が駄目かというと、フライボールを全面的に肯定する実にペラペラな内容であり、そこにはフライボールを相対化し眺めるといった視点がまるで皆無であったからです。(もっともヤフコメ民やJ民などはフライボールの記事にすっかり色めき立っており、当ブログとは全く正反対の反応でした)

その記事のポイントを挙げるとすれば二つあります。

①フライボール率ではなく、打球速度こそが攻撃において重要なスタッツである。
②ライターが言うように無暗にフライボールを上げても必ずしも攻撃力が高まるものではない、フライボールに頼らない攻撃スタイルにも、深い焦点を当てるべきである。

打球速度の速い打球、ボールをハードヒットすることが何より大事であり、同時にホームランに頼らない攻撃スタイル、もっと簡潔に言えば、「スモールベースボールに新たな光を投じるべきである」と。グラウンドボールの中にもまたフライボールやラインドライブにもない見過ごされがちな長所は隠れており、さまざまな種類の打球に対しての細やかな目配りをし状況に適応することによって、より厚みのある攻撃が可能になる。フライボールにのみ目を奪われている限り、最先端のトレンドを読むことはできない。

そしてボストンの攻撃スタイルの根幹を成すのが、この2点であることはJDマルティネスの言葉や、コーラ監督の多彩な攻撃スタイルを見てもはっきりわかるはずです。己の誠実さというものに照らして偽りなく率直に話せば、シーズン開幕当初に行った個人的な分析結果に対する確かな手ごたえを与えてくれた唯一のチームこそが、ボストンでした。

ALDSでもヒットエンドラン、奇襲の単独スティール、積極的なダブルスティール、右方向への進塁打、意表をついた送りバント兼セーフティバント、外野飛球やボテボテの内野ゴロでの得点など、フライボールありきではないボストンの攻撃はヤンキースに比べて実にバリエーションが豊富であったと言えます。一方、ヤンキースは個々の打者が来たボールをフライボールで打ち返すといったものであり、ホームランが打てれば勝つが、打てなければ負けるというベースボールを実に単純なゲームへと変質させていました。

2014年当時、フライボールについてすでにオークランドが実践していたことを当ブログは分析しはっきり掴んでいました。快進撃を続けていた2014年8月まで遡ってオークランドの攻撃セイバー分析をしてみてください。数字がはっきり物語っています。かれこれ4年も前から出現したフライボールが今更、時代の最先端などということはあり得ないことなのです。

そして時代は必ず繰り返します。かつて流行し、古びてしまったものが装いを新たに現代に蘇ることは野球に限ったことでもありません。短期決戦になればなるほど、キャッチャーの捕球能力や隙のない走塁など細やかなプレーが、投手力や打撃力と並んで、勝負を分ける重要なポイントとなることが明らかになってきます。

ワイルドカード制が出来てからというもの連覇は少なくなった中、直近で3連覇したのはトーリ率いるヤンキースでした。オールドスクールのトーリの野球こそはまさしくスモールベースボールでした。そして短期決戦において何連覇もするチームが日本にもあります。それが隙のない野球の代名詞でもあったのが西武黄金期です。日米問わず、連覇をするにはするだけの運だけでも力だけでもない重要なキーとなるものがある。

リーグ優勝のみならず、短期決戦にも強く連覇するチームの特徴とは一体何なのか?

ワイルドカード制の時代において、安定して何度も世界一になろうと思うならば、セイバーメトリクス的に戦力を整えることはもちろん大事です。しかしそれだけでは絶対に何かが足りない。同じような戦力をもった強豪同士が戦う短期決戦において、相対的に相手を上回るにはどうすべきかを徹底して考え抜いていかなければならない

短期決戦を運次第などと言い、そこで思考停止している限り道が開かれるということはありえません。当ブログの一つの結論としてはフライボールが流行した今だからこそ、更に一歩前に出るには隙のないスモールベースボールが組織全体にまで行き渡っているチームへと戦略的に作り変えていく必要が出てくるというものです

メジャー全体のスタッツを見る限り、大きなトレンドとして「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代にメジャーは突入しています。野球の質感としては実に大味でありその典型は2018年のヤンキースであり、数年前のアストロズの攻撃スタイルなどまさしく「三振かフライボール(ホームラン)か」でした。しかしこれでは攻撃のボラリティ(変動性)が高くなってしまうという弱点が出てくるわけです。エースに対しては沈黙するが、ワンクラス落ちると大爆発するような上下動の激しい打線。あるいは出る確率が限られるホームランが出なくなった途端、不調の波に飲み込まれてしまうような打線。こうした攻撃のボラリティ(変動性)を排除し、攻撃力の安定性を確保するには、ボストンのように三振を減らすと同時に、フライボールのみならず同時にスモールな攻撃スタイルをいくつも持っていることが大きな強みとなってきます。アストロズもかなり近いを路線を取ってはいますが、スタイルを見る限りスモールベースボールに対する研究がボストンほどではありません。

出る確率が限られるホームランに頼るよりも、出る確率は遥かに高いシングルや四球を攻撃のベースにすること。それらをエンドランやスティール、チームバッティングと絡めながらスモールを駆使して攻撃に厚みを持たせながら細かく点数を刻んでゆくオプションを持っているチームの方が、攻撃のボラリティは当然低く抑えることができます。

どれだけ多くの得点を取れるかも大事ではあるが、必要な時に如何に高い確率で得点を刻めるかこそが特に、プレーオフに大事になるのであり、そのためにはフライボールだけでは余りにキメが粗過ぎる。

すなわちフライボール革命についてのエッセンスについて十分吸収しながらも「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代にあって「K率を減らすべくボールにコンタクトし、インフィールドへハードな打球を数多く飛ばしながら、ホームランが出なくても得点できるスタイルを追求する」。

スモールの最も象徴的なシーンはワールドシリーズ第一戦、ボストン初回の攻撃だったと言えます。この初回を見た時、シリーズはほぼ決まったとその時点では私自身は考えていました。(その後、第四戦にピンチにもなってやばいと思うことも・・・笑)

(10/17 追記 
例えば、ALCS第三戦でHOUカイケル攻略に対してBOSはシンカー対策として、フライボールで引っ張り一発で仕留めるのではなく、全員がセンターから逆方向へ強い打球をライナー狙いに徹したチームバッティングをした。この繋ぎの意識、全体攻撃のスタイルにあるものとは、フライボールに拘らないハードコンタクトと同時にチーム全体で投手を攻略しようとする、まさしくスモールな姿勢です。)

(10/26 追記
1点差でボストンが追いかけたWS第二戦の6回2死ランナーなし。そこからBOSはどういう攻撃を展開したのか。逆方向右へのシングル、センター前シングル、四球、四球、JDマルティネス、逆方向ライト前シングルで3点を獲得してドジャースを逆転。ここからわかるのは一発で決めるのではなく、徹底したボストンの繋ぎの意識です。とにかくフライボールを打ちまくれと2017年にフライボールブレークを果たした申し子JD・マルティネスが一転、現在では無暗にフライボールは狙わないとしFB率をリーグ平均以下へ急降下させており、繋ぐ意識が大事とする発言をしたことからもわかるように、意識が2017年から大きく変容をして2018年のJDがあります。)

(10/30 追記
しかして最終戦のWS第五戦では一発攻勢で相手を寄り切る。フライボールもオプションのひとつに過ぎないという位置づけ。これこそがこれからのメジャーにおける攻撃トレンドとして徐々に出てくるでしょう。状況に関わりなく1点が欲しい場面でポンポンとフライアウトを打ち上げてチャンスを潰した典型的なフライボールによるLADの攻撃スタイルではボストンには野球の質において到底勝てない。)

三振全盛の時代にあって、2018年K率が最も低くかつ最も攻撃力(+wRC)が高かったチームは全30チームでどこか?調べてみました。

アストロズであり、ボストンである。共に同率2位と3位。昨年、アストロズの超攻撃革命・ポストフライボールを示す重要なスタッツとしてK率を当ブログでは挙げました。このK率をリーグ屈指のレベルまで戦略的にボストンとアストロズは引き下げています。3年前まではK率の最も高く、かつホームランを最も放っていたのがアストロズでした。まさしく「三振かフライボールか」を戦略の根幹に据えていたわけです。しかしそこに時代の最先端はない。ちなみに最も攻撃力の高いチームはホームラン記録を作ったヤンキースですが、K率の高さは平均を遥かに上回るものでした。フライボールの典型。

2018年の5月時点、ライターたちはスラッガーという雑誌を見ても、2017年版のJD・マルティネスよろしくフライボールの記事を得々と書いている。これが本当の意味での時代の最先端ではないことを、「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」では訴えたかったわけです。

例えばボストンの盗塁数はメジャー30チーム中全体で3位であり、勝負を決めるここぞという場面で、局面を変えるために足もからめた攻撃にも積極的であることがわかります。あるいは野村IDというスモールベースボールを深化させた考えがありますが、野村の得意技の一つに投球の癖から球種を読むという実にアナログなノウハウがある。アストロズなどは単にデータにおいて先進的なだけでなく、投手の癖を盗む専門のスタッフが在中し、その癖を見抜く無形の力によってワールドシリーズ第七戦、ダルビッシュは見事に粉砕されました。(ビデオによるサイン盗みとは一線を画するべき。投手の癖を見抜くはルール上問題ない)

デジタル(セイバーメトリクス)が進化していく程に、アナログ(スモールベースボール)なものは廃れるのではありません。

むしろその古さの中に埋もれているものへ光を投げかけ、現代に蘇らせることが戦略的には極めて重要になる。ただしソーシアのようなオールドスクール型はいささか時代遅れであると繰り返しツィートでも指摘したように、ソーシアのあり方を是とするのでもない。単に古ければ素晴らしいというものでもありません。あくまで、デジタルを土台としてとアナログなものを掘り起こし、新しい時代にマッチさせ戦略的にそれらを融合することが大事になる。それがコーラ率いるボストンにははっきり表現されています。

GM目線で考えるとは戦略的にベースボールを見つめるということではあり、端的に言えば上から目線で物事を思考するということになります。そうしたGM目線でライターたちの記事を読む時、最前線にあるGMたちの思考力とライターたちの差は歴然たるものがあると言わざる得ないのです。もし興味があればライターによる単純なフライボール記事とは一線を画した内容の「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」という記事を一度読んで頂ければ幸いです。

フォローしてくれた皆さんに必ず書くと約束した記事こそが、「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」です。

結論

戦略的であるためには、未来を透視する力をその根底に据えなければならない

流行のフライボール革命と伝統としてのスモールベースボール。こうした二律背反したものをセイバーメトリクスという技術を通して戦略的に統合する時代に突入することにおそらくなる。「一発を秘めた豪華さ」(数年前のアストロズ)に「キメの細かい野球」(黄金期西武や野村IDの如きスモールな要素)が付加されるボストンの攻撃スタイルがこれからのメジャーのトレンドになると予見してこの記事を終えたいと思う。

ドジャースやヤンキース、アスレテックスと同じように、もし2018年のボストンの個々の選手がフライボール攻撃を単純に打ち上げるスタイルのチームであったとしたら、ボストンは今よりも強く優れたチームとして機能しただろうか。

おそらくNOであろう。

セイバーメトリクスの重要な役割のひとつはチーム競技にあって、個々の選手の能力を統計的にフェアーに刳り取ってくるところにある。この個々がバラバラのままにフライボールを打ち上げているだけでは戦略的には駄目であり、「この個々の力を活かしつつもチームとして機能させ、状況に合わせつつ点を線にし、力を集約するにはスモールなベースボールへの原点回帰こそが肝であることをコーラははっきりとした認識していた」。そう私には思えてならない。

セイバーメトリクスを活用しつつも、スモールベースボールについてボストンはおそらく我々が想像する以上に、研究し尽くしている。ただし巨人のように馬鹿のひとつ覚えの送りバント多用は決してしないスタイルではある。送りバント=スモールではない。細やかさや奇襲性、確実性を攻撃力に付加していくところにスモールの本質がある。

大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。