JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える        

フライボール
08 /27 2018


この記事自体はほぼ2018年4月には確実に頭の中にあったものです。一部 現時点8月より加筆修正。今年になってOAKのフライボールも再び脚光を浴びていますが、過去のブログにも書いたように2014年の頃からOAKがフライボール革命を実践していたことを私自身ははっきり掴んでいました。

よって周囲がフライボールに熱中する2017年の終盤においては、アストロズの最新戦略を分析するにあたり「フライボールありきという考え方はガチで古い」という警鐘もいち早く鳴らしてきたのです。そしてそのアストロズのベンチコーチだったコーラがボストンへ就任して、早くもアストロズ流儀の新たな戦略を打ち出して成功しているようです。

今年の5月ツィッターでライターたちのフライボール礼讃記事について、その薄っぺらな記事の内容に批判をしました。今回はライターによるフライボール記事のいったい何が薄っぺらなのかを明らかにするとともに、フライボールというだけですぐに色めき立ったヤフコメ民やJ民と言われる人たちがなぜ時代遅れになってしまうのかその理由も明らかにしていきたい。

===

スポーツライターT氏による「フライボールこそ攻撃力をドライブさせる重要なキーである」とする礼讃記事やS氏監修によるGetスポーツという番組における、「プロであればどのような打者でもフライボールによってホームランを量産し攻撃力をアップすることは理論的に可能である」とした論旨の番組を観るに、少なくない方々がフライボールについてミスリードされている可能性が高いと結論するに至り、ブログ「MLB 戦いの原理を求めて」を再開するにあたって、フライボールについて改めて考察を加えていきたい。

なぜこうした極めて筋の悪いフライボールを扱った記事や番組が巷に堂々と出回るかというと、その根本には<フライボール革命によってホームランという最大の攻撃イベントをはじめとする長打を増やすことが攻撃力を真にアップさせることに直結する>という単純な勘違いを彼らがしているからである。

ブログ第一弾目はフライボールの光と影をバランスよく見つめながら攻撃力の全体像をより重層的かつ立体的に捉える試みをする。

さて、ところでFIPを発案したことで有名なトム・タンゴというセイバーメトリシャンをご存知だろうか。トム・タンゴはこのフライボールと攻撃力の関係性について極めて重要なレポートを報告している。

そのトム・タンゴによるフライボール分析報告の第一のポイントとは、FB率増によって攻撃力が上がった選手でいる一方で、ほぼ同数の選手は攻撃力が下がっているという点にある。つまりフライボール革命がジャストフィットして攻撃力を大きく上げる選手とほぼ同じ割合で、フライボールによって攻撃力を下げてしまう打者が現実に存在しているということをトム・タンゴは報告しているのである。

ところが日本のセイバーメトリクスをリードしているアナリストの神事努が監修したGetスポーツや丹羽政善というジャーナリストが書いたフライボールの記事を読んだ限り、彼らは前者の攻撃力が大きく上がった選手だけを恣意的に取り上げ、あたかもフライボールはほぼ全打者に適応可能であり、かつフライボールこそが攻撃力を大きくアップさせる最大のキーとなる技術であるかのよう錯覚を読者に与えている。率直に言って、そうした極めて浅い分析に接したことが、ブログ再開の最大の原動力にもなったことを明言しておきたい。

三振を恐れず、2017年のようにボールがより高反発なライブボールへと変更され、フライボールが流行すれば、MLB全体でも歴史的なホームラン数をたたき出すことは道理には違いない。しかしホームラン数がアップすることは攻撃力がアップすることに必ずしも直結しない、そうした重要な事実をトム・タンゴはレポートしているのだ

より具体的に話をしたい。例えば典型的なラインドライブヒッターであったテシィエラというバッターはFAで満を持してヤンキースに超大型契約で鳴り物入りで入団した。FA直近2年は打率も300を超えながら本塁打も30本前後を打つような惚れ惚れとするような素晴らしいバッターであった。しかし狭いヤンキースタジアムを本拠地にした途端、テシィエラは戦略的にバッティングスタイルを一新し典型的なフライボールヒッターへと変貌させた。結果、テシィエラは本塁打王にも輝いたものの同時に打率は300を常に切るようになった。

そしてここが極めて重要なポイントなのだが最終的に本塁打を増やしタイトルも獲得したテシィエラのOPSはフライボールヒッターになって以降、明らかに落ちたのである。

フライボールによるホームラン数がアップすることは攻撃力のアップすること必ずしも直結しないことをテシィエラの例は教えてくれる。投手からすれば率を下げてまでホームランを狙うよりもラインドライブヒッターのままに30本塁打を放っていたテシィエラの方が数段嫌な打者だったはずであり、それはOPSの数字からもうかがい知ることができる。

更にトム・タンゴのリポートでは重要な観点を提出している。攻撃力と強い相関関係にあるのはFB率などではなく、打球速度であると結論されている。FB率などよりも攻撃力においてハードコンタクトの重要性をタンゴはセイバーメトリクス分析報告をしていた。このような重要な報告をアストロズやボストンが知らないわけがない。大谷翔平がゴロアウト製造機と化し4月開幕前にマイナーへ落とせ、メジャーで通用しないの大合唱の中で、多くのバッシングをしていた彼らと異質の見解を私はツィートで示した。

その概要はおよそ下記のとおり。

「多数の人がそうであるようにスプリングトレーニングの悲惨な大谷の打撃成績にのみ目を奪われてはならない。アウトの質に目を向けるべきである。大谷のゴロアウトの打球速度にこそフォーカスすべきであり、その速度はチームで1位2位を争うものである。メジャーの異質な環境に慣れてボールが上がり出せば問題なく、大谷翔平はメジャーという舞台でもそのパワーを遺憾なく発揮することをこのデータは意味している。慣れるためには数多くのチャンスを大谷へソーシアが与えるべきだが、問題は堪え性の無いソーシアがすぐに大谷を見切りをつけてしまうかどうかにかかっている。」と。

幸い大谷がすぐに結果を出したためにマイナー送りにはならなかったが、LAAのブルペン登板過多を見てもわかるように、ソーシアという人は堪え性がなく目先の一点、目先の一勝に目を奪われがちなスモールな傾向も明らかに持っている。尚、大谷の打球速度は現在においてもメジャー全体の上位3~5%以内に入るほどであり、打者としてのエリート性を存分に示すものとなっている。開幕直後の3連発が最大の分岐点だったように思う。

結果が出てから大谷は打者として成功すると思っていたと言うことは誰にでもできる。開幕直前、大谷二刀流がバッシングの最中に何と言っていたかこそが重要である。

さて、ところで打球種類はグランドボール(ゴロ)フライボール、ラインドライブと3種類にカテゴライズされるが、トム・タンゴのレポートにもあるように打球速度が攻撃力に一定の相関関係があることが結論されていることからも直感的にもわかるようにラインドライブが他の打球を圧倒して高い攻撃力を有している。

言うまでもなくゴロやフライには打球速度の遅いものから速いものまで速度に幅広いレンジがあるが、打球速度の遅いラインドライブは基本存在しない。

以下、比較優位という考え方を基に打球の3種に当てはめて少し掘り下げて考えてみたい。

データ元はBaseball-Reference.com

ラインドライブ  AVG 628 SLG 955 OPS 1583 BABIP 615 HR 595
フライ      AVG 211 SLG 676 OPS 887 BABIP 090 HR 2748
ゴロ       AVG 245 SLG 267 OPS 513 BABIP 245 HR 0

例えばフライボールはラインドライブに対して攻撃力における総合価値では負けても、ホームランという観点から眺めるならばゴロはもちろんラインドライブと比較しても最高の打球種であることがデータからも明らかになっている。

では、総合的攻撃力において3者の中で明らかに劣るゴロが、フライボールに比較優位から勝るべき点はあるだろうか。

BABIPという観点からすればゴロ245に対してフライボール90であり明らかにゴロが勝っている。イチローの打撃戦略の根幹をも成しているゴロのBABIPがフライに比べて明らかに高いという視点は持ってしかるべきだろう。少なくともイチローがフライボールやホームランなどにうつつを抜かしていたならば、本塁打も多少は増えていただろうが様々なヒット数にまつわる史上記録も生まれなかったし、殿堂入り確実なプレイヤーなどには絶対になれなかった。

無暗にフライボールに飛びつき「ゴロを転がせば何かが起きる」という考えを古めかしいと単純に切って捨ててはならず、この考え方にも一理はあるという点を見過ごしてはならない。

例えばシングルヒット1本あれば十分という状況はベースボールにある。そうした場面に限ればセイバーメトリクス的にも確率の低いフライを敢えて狙う必要などない。打者のタイプによってはラインドライブからゴロを意識したバッティングをすることが大事になるシーンは現実にあるだろう。言うまでもなくベースボールにはフライボールを狙うべきシーンとグラウンドボールを狙うべきシーンが当然あり、状況において最適な打球の種類は変わっていくものである。特に短期決戦で目先の一点を争うシーンでは選択すべき打球を的確にチョイスすべきである。

では、圧倒的に攻撃力において劣るゴロがラインドライブに比較優位から優る点はあるだろうか。

ふつうに考えればありそうもない。しかしある視点から眺めた時、ゴロがラインドライブに勝る点が一点ある。それがアウトの生産性というスモールな観点である。

LAAホーム9回裏同点、先頭打者が2塁打で出たケースをたまたま中継で観ていたことがある。次の打者はトランボであった。1点あればいいシーンであり、メジャーでもこういう場面ならばしばしば送りバントもあるが打者が打者であるだけにソーシアは打たせた。(正しい判断だと思う)結果は強烈な打球がライト真正面に放たれ、結果1死2塁となり、次の打者が深いセンターフライを放つものの、結局LAAは得点はできず、延長に入ってその試合をLAAは落としてしまった。

もしトランボがランナーをセカンドゴロアウトで3塁へ進めていれば、次の深い外野フライで試合に勝利という形で決着がついていたかもしれない。そしてこの1敗が1勝へひっくり返るだけで、プレーオフに出ることができるかどうかのレギュラーシーズンの大きな分岐点となるケースは、現実にある。2つのワイルドカードが制定されたメジャーでは162試合目まで争うことはもはや毎年の通例となっている。

(10/31 追記
WSシリーズ第三戦、延長同点無死、2塁でヌネスはどうしたか。セカンドゴロを狙って打ち、ランナーを進めて逆転に繋げた。あれこそがまさにスモールな発想であり、ゴロの持つ価値を知り抜いたボストンの打撃であったと言える。この意識の徹底ぶりは相当なものであり、ボストンがスモールについて相当研究し尽くしてきたことがいずれ明らかにされる時が来るだろう。)

アウトの生産性という観点からすれば、セカンドライナーよりもセカンドゴロアウトの方が攻撃力において優位となるケースがあるという点にこそ、当ブログはベースボールの奥深さを再認識する。日本にはフライボールをやたらに礼讃するライターやアナリストがいるが、彼らはフライボールに焦点を絞り視野が狭すぎる余り、攻撃力そのものの全体を見渡す視点が欠如していると言わざる得ない。

ゴロにもまたフライボールやラインドライブよりも比較優位な点が現実に存在するという重層的かつ複眼的な視点を失ってはならないことは改めて強調しておきたい。

フライボール革命そのものを否定するつもりも更々ない。フライボールによって成功するチームもあれば、躍進を遂げる打者も数多くいる。ただ光と影は不可分にして一体であり、現時点においてはフライボール率を上げることによって成績が上がる選手に比べて落ちる選手もほぼ同等の数だけいるという現実の全体像を正しく伝えることこそが、スポーツジャーナリズムというものではないだろうか。例えばSEAのゴードンがフライボールに目覚めて、攻撃力は大きくアップするだろうか。

勝利するためにチームとしての攻撃力を最大化するという文脈の中で、フライボール革命もまた的確に位置づけることが大事となる。様々な特徴を持つ選手を生かし、攻撃力を最大化すべくチームが勝利をするために必要な考え方を手に入れるためには、イニングや得点差も含めた状況に応じてゴロ、フライ、ライナーという3種類の打球の全体像を広い視野によって見渡すことによってそれぞれの長所と短所を把握することが欠かせない。スモールへの確固たる視座である。

雑誌やテレビでもっともらしくフライボールの内容が数字とともに取り上げられると、リテラシーなき多くの読者は過大にフライボール革命を表現するライターたちの記事をすっかり鵜呑みにしてしまっている。



ここからは、数か月前より現在までジャンプアップします。 

2018年8月26日。昨年までフライボール革命についてあれだけ熱弁を揮っていたDJマルティネスについてワールドスポーツに登場しているアナリスト・アンドリュー氏が分析を試みました。全く当ブログと同じ結論に至っており、以下アンドリュー氏が言いたかったことをまとめてみたい。

「(多くの日本のライターが主張するような)FB革命とはフライボールをどんどん打ち上げれば攻撃力が増すというような単純な理論ではない。現在2018年三冠王も射程に入っているJDマルティネスは昨年ブレークを果たした2017年に比べて打球角度が平均で5度落ちて、FB率43.1%→31.4%フライボール率を激減させているがwRC+は 166 → 181 へアップしている。

JDマルティネスは昨年のフライボールありきから更に進化し状況に応じてバッティングしているのである。


結論

テシェイラの例でも明らかなようにフライボールによってホームランや長打を数多く打つことは、必ずしも攻撃力アップを保証はしない

「フライボール率を大きく下げて更に躍進を果たしたフライボールの申し子JDマルティネス」。そして「フライボール率を上げて本塁打王まで取ったが、攻撃力そのものは下げてしまったテシェイラ」。こうした事象一切をライターたちによる単純な「フライボールによってホームランを量産し攻撃力をアップせよ」とする記事ではとても説明し切ることができない。だからライターによるフライボール記事の薄っぺらさについて、私自身は瞬間的にツィートでも反応したのです。もちろんゴロという打球の中にある貴重な価値に対しても細やかな目線というものはライターには一切ない。

「NYY時代のテシェイラはJDマルティンス同様、フライボールを減らし、ラインドライブヒッターへ戻るべきだった」

そう8年前にスタッツを眺めていた頃から、一貫して私自身は考えていました。

一方でフライボールを増やして更にスタッツを引き上げたムッキー・ベッツがいる。ベッツだけでなくマルティネスもすべてを網羅するような論理的にあらゆるタイプの打者を説明し切るだけの最先端のバッティング理論がフライボール革命を包括しながらトラッキングシステムというツールを通して完成へ向かって進化することになるはずです。成功例であるベッツだけを恣意的に取り上げてはならない。物事をもっと立体的に捉える力が必要となるということです。フライボールを如何に多く打つかではななく、おそらく各打者にとって攻撃力を最大化するフライボールの最適値を今後求められる時代に入っていくことなるでしょう。

ではそうした時代に突入するならば、次なる課題にはいったい何が立ち上がってくるのか。こうした問いを自ら打ち立てる力こそが、大事になる。

フライボールにフォーカスする余り、視野を狭ばめ全体像を俯瞰することができないライターたちが時代に遅れになってしまう最大の理由とは何か。それはおそらく彼らが歴史がどのように動いていくのか運動法則を知らないからであり、戦略家の目線で物事を捉える力に乏しいからである。ある一つのトレンドが出てきた時に、その流れに一緒に乗ろうとすることは大事ではあるが、真の戦略家は一歩先先んじるために皆と同じ方向を向くことやめて、他へ向かって歩き出すことになる。この視点が決定的に欠けている。フライボールを相対化する眼を持たなければ、次なるトレンドを読み切ることはできない。

時代の最先端を捉えようとする際の私的流儀、それは歴史の運動法則を学び、それを基礎に据えつつも「アストロズの戦略家ルーノウの如き目線でトレンドを捉え、更にその一歩先を予測せよ」ということになる。すでに昨年末において、フライボールはガチで古いと言ってきたのもその延長線上にあります。

ヤフコメ民やJ民などを見ている限り、ライターの記事で十二分に満足しており、それでは単に時代の流れに乗っているにすぎずアストロズの戦略家ルーノウ目線で未来を見つめている人はコメントを見る限りほぼいない。だから彼らもまた時代の最先端をキャッチしているつもりが、常に半歩、時代に遅れてゆくことになる。

「JDマルティネスの進化の過程の中にこそ、フライボールの未来が見える。」

歴史の運動法則を掴み、戦略家のGM目線で全体を俯瞰する力こそが、分析力の源泉になければならない。この力こそ、未来を深く透視するためには必須のツールである。






大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。