アストロズ・ルーノウGMにみる戦略的思考力 あるひとつの仮説

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07 /26 2017
通常、セイバーメトリクス分析というと攻撃と防御を分類して、それぞれについて詳細に分析を試みるものですが、このアストロズの分析だけは攻撃と防御を単純に分けられないところに極めて大きな特徴があります。2015年では攻撃におけるFB率と防御におけるGB率が、ひとつの強力な理念によって釘差しになっていることを見てきました。

<攻撃についての分析>と<防御についての分析>。

通常この両者の狭間には、マージナル(境界線)が存在しています。このマージナル(境界線)を超え、攻撃と防御をより大きな理念によって捉えている「メタ認知」の力にこそ、ルーノウGMの戦略性を端的に示していると言えます。

例えば先回の記事で2017年の攻撃において、三振数が最も少ないチームがアストロズであると指摘しました。念のためにアストロズの投手の奪三振数を調べるとある意味、予想通りの数字が出てきました。投手の奪三振率10.16、つまりはメジャー全体で投手の最も奪三振数の多いチームこそがアストロズでした。

2017年 攻撃において三振数が30位。防御において奪三振数が1位。

攻撃において如何に三振を喫しないか、防御において如何に三振を奪うか。攻撃と防御を分けず、アストロズのルーノウはある明確な理念によって課題を大胆に絞り込んでゆく。

アストロズの平均奪三振率10.16(7/23現在)はダルビッシュのK/9 9.65を軽々と超えているわけですが、ダルビッシュと言えば奪三振こそが代名詞、なぜ史上チーム最高の奪三振率更新をアストロズが成し遂げようとしているのでしょうか。

その重要なキーを握っているものこそ、最新鋭のAIによるビックデータの統計解析であると考えるものです。

気の利いたGMであるならば、ビッグデータと人工知能の領域へ必ず足を踏み入れているはずです。ましてセイバーメトリクスでMLB最先端をいくアストロズのことです。もう少し具体的かつ大胆な仮説をお話しします。例えばこれまで配球の良し悪しにについて、ふつうのコンピューター解析では不明であり、セイバーメトリクスの世界において配球はアンタッチャブルな領域であったわけです。しかしAIを使ってこの配球の領域へ大きく踏み込むことによって、三振の世界で目覚ましい進歩を見せているのがアストロズなのではないか。他のチームが全く気づいていない三振に対する配球の有効ないくつかシグナルを捉えている可能性がある。もちろん、これらの情報はトップシークレットであり表へは出てきませんが、だからこそ大胆な仮説を自由に立てる意義もあります。

点差やカウント、球場やピッチャーや打者の特性によって配球の明らかな癖をAIによるビッグデータ解析することは可能です。それは投打ともに活用することができます。もちろん、最終的には各選手にカスタマイズされたものが提供されている。

今お話をした仮説はひょっとしたら間違っているかもしれません。大事なのはAIとビックデータというキーワードを獲得するとともに、これらを武器にこれまでは分析不可能であったと考えられてきた領域へ踏み込むことによって、新たなフロンティアを開拓したチームが時代を一歩先んじるという認識です。こうした認識のもとにいくつかの仮説を予め立てておくと、時代に振り回されにくくなります。すなわち人工知能とビックデータを使った新たなるマネーボールの時代へ本格的に突入しつつあるのではないか。

時代を相対化する歴史的な目を意識するとき、現代の様相がそのように見えてくるのです。

フライボールレボリューションが最新理論であるという話も、より詳細が明らかにされてきた部分はあるにせよ、個人的には概して2年以上前に記事にしていた内容に過ぎないという認識です。いずれにしてもルーノウGMが戦略的な思考力の高い人物であることは、アストロズのセイバー分析をしているこちら側に「メタ認知」を要求してくることからも容易にわかります。

メタ認知。

マージナルを跨いで物事を俯瞰するには必須。物事を良い意味で抽象化させ、その本質を掴み取る力の源泉。戦略的な思考力には欠くべからずものでもある。こればかりはベースボールの知識とは全く別個のものであり、ましてセイバーメトリクスの知識とも全く違う。

ちなみに下記の記事を書いた当時

アストロズの強さの秘密 その戦略をセイバーメトリクス分析する 防御編

アストロズの強さの秘密 その戦略をセイバーメトリクス分析する 攻撃編

ライターによるアストロズのセイバー分析記事を見かけた記憶あります。「ピタゴラス勝率に比べて実際の勝率が高いのも、2015アストロズは運が良くかつ若手が多いので一時の勢いがチームにあるのかもしれない」という数字の表面をなぞっている程度のものでした。これではルーノウの高度な戦略性には全く近づくことはできません。




さて、ところでその人物が戦略的な発想ができるかどうかのチェックポイントとしてみなさんはどこへ置いているでしょうか?

私が考えるチェックポイントのひとつは<失敗>した時に、それははっきりとわかるというものです。

<失敗>という言葉を<リスク>や<コスト>に置き換えてもいいです。<失敗・リスク・コスト>この3つはできれば誰もが避けたいと思うものです。これに対して即物的(メタの反対語)な反応しかできない人は、すべからく戦略的な思考のできないと考えていいでしょう。

戦略の目的を達成するためには<失敗・リスク・コスト>をも許容し、それらをむしろコントロールすることこそが大事である。

例えばサンドバルが巨大な不良債権と化しDFAとなったことについて、「これだから大型契約は怖い。やはり新人から育てるのが最良」という即物的な反応をする人がいますが、戦略的な思考のできない人の典型であると断言できます。サンドバルやクロフォードのように不良債権化する失敗例もあるが、ジャンセン、カーショウ、シャーザ、マーフィのように大型契約をして大成功している例も数多くある。複雑系を敷衍させれば仮に神であってもすべての大型FAを成功させることなど絶対にできない。まして人間がGMをやっている以上、絶対にFA失敗はある。失敗はあったとしても石橋を叩いてばかりでは駄目であり、どこかで大胆に勝負に出ない限り、最終的な勝利を収めることは難しい。

こうした状況を客観的に眺めた時、大型契約のリスクばかりを強調するのは完全に間違っています。誰もが大型契約で大失敗することは避けたいものです。しかしできもしない「失敗を完全に避けようとする」幼稚な反応を戦略家は決してしないものです。

結論

戦略の目的を達成するためには<失敗・リスク・コスト>を避けるのではなく、戦略家はむしろ前向きにそれらを許容つつも積極的にダメージコントロールしようとする。失敗しないことが必ずしも戦略的な正しさを意味するわけではない。

<失敗・リスク・コスト>をメタな視点で捉えることが戦略にとってはとても重要になります。

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