ヤンキース・キャッシュマンGMをもっと評価すべきである 戦略とは何か?

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06 /26 2017

キャッチャー・ゲーリー・サンチェス、ショート・ディディ・グレゴリアス、セカンド・スターリン・カストロ、センター・アーロン・ヒックス。ヤンキースのセンターラインを司る4人を抑えたのもキャッシュマンGMであるならば、現在MLB全体のWAR1位であり三冠王でもあるアーロン・ジャッジをドラフト1位で獲得したのもキャッシュマンGMです。

これまでジラルディ監督もそれなりの堅実で優れた働きをしていると言えますが、2017年は勝ちにはいかないシーズンとも言われていた中で、ここまでのヤンキース躍進、影のMVPは客観的にはキャッシュマンGMだと言ってもいいでしょう。

ハル・スタインブレナーという人物と唯一意見が一致するところがあるとすれば、監督及びGMへの評価となると以前にも書きました。しかし同時にこのチームの勝利するチャンスを逃すとしたら、それはリーダーであるオーナーの判断力のエラーになるだろうとも一貫して指摘し続けてきました。

例えばハル・スタインブレナーという人物の大局的な判断力のなさは、クリス・セール以外の判断でもこんなところに表れています。

2017の春先、ヤンキースのベタンセスが年俸調停で「ベタンセス500万ドルVSヤンキース300万ドルの闘い」は、公聴会まで持ち込まれヤンキース勝利という結果となりました。ところがたった200万ドルをケチったために、ベタンセスとの確執を生み出し、問題の焦点はベタンセスがピンストライプのユニフォームがいつまで着続けることになるのかへ、完全に移っています。

最終的にベタンセスがどこへ落ち着くのかその結果はわかりません。しかしベタンセスは3年連続でオールスター出場もし、2016年終了時、セイバーメトリクス的にも抜群の優秀さを示しとりわけK/9はキャリア通算14.28と出色であり、メジャーを代表するセットアッパーであります。生え抜き主義と言いながら、原理原則がコストカット第一主義であるために殿堂入りほぼ確実視されるカノ放出という大失策につづき、ベタンセスというリーグを代表するセットアッパーまで手放すことになるかもしれないという事態を招いてしまっています。

「コストパーマンス至上主義」と「若手・生え抜き重視」。
この両者のベクトルは矛盾なく基本一致することは間違いありません。

そうした若手の中でも殿堂入り級やオールスター級の特に優れた選手が育った時、その生え抜きにもそれなりのサラリーを当然支払わなければなりません。問題なのはヤンキースは超金満であるにもかかわらず「コストパーマンス至上主義」と「若手・生え抜き重視」の両者が食い違うシーンとなった時、ハル・スタインブレナーという人物の優先順位は、相も変わらず常にコストパフォーマンスであるという点にあります。

日本の有名なベンチャーキャピタルの社長がある時、こう問われたそうです。「今までベンチャーに投資してきた中で、失敗したのはどれくらいありますか?」。それに対して「これまで数十件ほどのベンチャーに投資をして失敗したのは1件だけだ」と答えたそうです。すると「それは素晴らしいリスク管理だ」とある素人は絶賛したそうです。ところがアメリカのベンチャーキャピタルCEOはこう答えたと言います。「失敗が少なすぎる。リスクをそこまでガチガチに管理しているということは、君はこれまでいくつももの大きなチャンスを逃していることを意味している。真に戦略的であるならば、リスクを取らな過ぎても駄目だということをもう少し知る必要がある」そうプロの戦略家は答えたそうです。かつて戦の神と表した孫正義と全く同じことを言っています。

失敗しないことは必ずしも戦略的正しさを意味しない。

ここがわかるかどうかが大きな分水嶺です。

「20件中1件の失敗よりも40件で5件の失敗ならば、後者の方がトータルの利益としては上がるという正しい選択をできるのが真に戦略的なのである。」そう日本の有名なベンチャーキャピタルの社長は回想していました。素人とプロが考える「真のリスク管理、真の戦略性とは何か」という理解に大きな差異があることを端的にこの話は示しています。そしてこの視点こそがハル・スタインブレナーに欠けているものです。

同様に、真の戦略家は「負けるが勝ち」という諺の真意を知っています。

誰かと争う場合、視野狭窄に陥らず何か一つのこと(例えば コストパーフォーマンス)にのみ焦点を絞り過ぎてはいけない。物事にいろいろな多面性があるのであり、部分的には負けても全体としてはこちらのほうが有利となる場合がある。自分の長所を最大限利用して、負けるところはきっぱり負けて、相手に一歩ゆずりつつも、最終的な勝利を収める。それが真の戦略家というものです。

たとえ年俸調停との戦いでベタンセスと勝っても、それでベタンセスのモチベーションやチームへのロイヤリティを下げることがあってはチームとしての大局的な利益を損なうことになる。たかだか200万ドル如きの戦術的な勝利よりもリーダーたる者は戦略的な利益を優先させなければならない。それが小さな勝利に拘泥するあまり、どうしてもハル・スタインブレナーにはわからない。

「戦略とは何か?」

みなさんならどう答えるでしょうか。いろんな切り口がありますが、一つの答えとしては戦略とは文字通り「戦いを略すこと」になります。

「戦いを略する。」

すなわち無駄な戦いを排除し、目的を達成するために実施すべき手段を可能な限りシンプルに煮詰めてゆくこと。戦略とは目的達成のためにやらなければならない課題を如何に絞り込めるかにかかっていると言ってもいいでしょう。裏を返せば、何をすべきでないかということを明確にすることでもある。何が大で何が小か、それがわかるのが戦略家というものです。失敗するリスクも織り込み済みで物事の優先順位が瞬時わかる、それが戦略家というものです。

なぜ、ハル・スタインブレナーはたかだか200万ドル程度の金を気前よくベタンセスへ出すという大局的な判断ができないのでしょうか。ちなみに現在チームのバジェット管理をガチガチにしているのは、キャッシュマンではなく、間違いなくハル・スタインブレナーです。なぜならば戦略的な部分ではなく、管理こそが几帳面で慎重なハル・スタインブレナーが最大の得意分野でもあるからです。おそらくそれをハル自身が最もよく知っているはずです。そういう意味では戦略的な発想のできるドジャースの優秀な人材をブレーンとして招くことがヤンキースの大きな補強になる可能性があることを意味しています。

ところで昨年まではキャッシュマンを叩くときは徹底して叩く一方で、ジャッジやサンチェスを選択してきたキャッシュマンを評価する人はほとんどいません。その態度は極めてアンフェアーでありそれは実に恣意的な物の見方しかできないことを意味しています。恣意的という言葉が難しければ、自分が見たいように物事を見るご都合主義と言ってもいい。

それはかつて最下位で大バッシングを受けた栗山監督が二刀流を成功させて11.5ゲーム差からの歴史に残る日本一を達成した途端、手のひら返しと全く変わらないものです。だからこそそれを他山の石としなければならない。

今年の春先一か月、ドジャースが全く調子の上がらない勝率500から借金2までのあたりをうろうろしていた時期に、当ブログで敢えてドジャースを支持する記事を書いたのもそのためです。あの時期に言わなければ意味がなかった。なぜなら今の調子のいいドジャースを支持することなど誰でもできるからです。

記事「サプライズと表現された快進撃のヤンキース」

上の記事はヤンキースが絶好調であり、ドジャースがダッシュに躓いた時に書いたものです。(おそらく、当ブログの主張していたところとは真逆の結果がその時点では出ていたために、完全なる逆風。スルーを決め込むと思われた方もいたかもしれませんが、内実は全く逆であり、その時だからこそ一貫した主張をすべき最大のチャンスであると考えていました。)

ではどうして多くの人はキャッシュマンや栗山監督批判に見られるこうしたご都合主義に走るのでしょうか。

社会学ではそれを「認知的不協和の解消」と言います。

認知的不協和。

「自分の考え」と「自分がとった行動」との間に矛盾が生じたり、「自分の考え」と「新たな知識」が矛盾しているといった時、人は認知における不協和を感じる。 そしてそのとき、自分の考えを変化させることで(無視したり逃避したりすることも含む)認知的不協和を解消しようとする。

叩きまくっていたキャッシュマンへの評価を一転スルーする態度こそ、認知的不協和の際たる例です。これを評して自己正当化バイアスという言葉を造語してもいいかもしれません。もし当ブログにひとつの特徴があるとすれば、それは認知バイアスの種類を徹底して調べ上げるところから言葉を立ち上げている点にあります。

なぜ、低迷していた時にも敢えてヤンキースの監督やGMを擁護し、結果が結びつつある今も尚、当ブログでは一貫してハル・スタインブレナーを批判しているのか?

それは監督やGMの仕事を超えた領域の判断においてハル・スタインブレナーの判断力が相変わらずお粗末であるからです。戦略的な思考に拠って立つならば、拘泥する必要のない贅沢税回避というコスト削減に囚われている点(ドジャースを見ていただきたい。贅沢税とも実に正しい向き合い方をしています。)、あるいは獲得チャンスはありながらも、取れるかどうかはともかく地区の勢力図を大きく塗り替える可能性のあるクリス・セール獲得に全く動かなかった件、あるいはカノやベタンセスへの生え抜きに対する対応などいろいろあります。これらの案件はすべてキャッシュマンではなくオーナー判断の案件です。(もしこれらがすべてGM案件であるならば、調子の悪い時期にわざわざキャッシュマンの擁護などしない。)

昨年のカーショウなき大ピンチのドジャースを敢えて支持してきたのも含めて、当ブログが一貫してドジャースを積極的に支持し続けているのは、最も肝心であるオーナーサイドの判断力が、ヤンキースとは決定的に違うからです。例えば状況に応じてFAでBOSから選手をごっそり引き抜く強引な手法から徐々に生え抜き重視へシフトしている方針の緩やかな転換などは、実に見事であり、ドジャースの戦略的な深いバランス感覚にはヤンキースは見習うべきものがあります。

ジャッジにサンチェス。ヤンキースはここ10年、黄金期を形成すべくコアとなるセンターラインがかなりはっきりと見えてきました。この大チャンスの10年でどれだけ勝利の生産性を高めることができるか、監督及びGMの能力がそれなりに優秀である以上、最大のキーマンはやはりハル・スタインブレナー次第であると言えます。

あくまで焦点は繰り返し述べているようにヤンキースが勝てるかどうかではなく、勝利の生産性にあります。必ずしもボスの考え方に全面的に賛同するものではないですが、ジョージ・スタインブレナーの偉大さが時代を経つにつれて、より明らかになるという考えにブレは一切ありません。

ちなみにNPB巨人の衰退についてもFAと育成の問題について一方的な浅い意見が予想通り飛び交っています。一面正しさはあるものの、そうしたステレオタイプな極浅な意見に必ずしも全面的には当ブログは与するものではありません。

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大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

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「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。