「もう一つのブラックソックス事件」マービン・ミラーの慧眼

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09 /18 2015
今から3年前に、マービン・ミラーは逝去されました。その報に接した瞬間、思わず私は「あっ」という声なき声を発し、とても厳粛な気分に包まれた記憶があります。MLB史上において有数の枢要な人物の一人である、フリーエージェントをもたらした最大の立役者であるマービン・ミラーが書いた「FAへの死闘」という本を先日読了しました。実務能力はもちろん透徹した洞察力の落ち主であり、相当の切れ者であることは文章の端々から伝わってきます。その本の中でミラーが委員長を務めた選手会の敵として立ち現れてきた<オーナー>と<コミッショナー>の面々について、マービン・ミラーが彼らをどう評価しているのか、について書かれている章がありました。まずオーナーのトップバッターで出てきたのは、やはりと言うべきでしょうビル・べックでした。

マービン・ミラーのビル・べックへの評価は概ね下記2つの記事通りとほぼ齟齬はなかったように考えています。
「メジャー通必須の知識 MLB史に聳え立つ巨人ビル・ベックを知っているか」

「ボールパーク戦略の極意は<花>にあり」

<花>を大事とする超一流のスポーツプロモーターであり、かつカラーラインを突破するともに、オーナーでありながら唯一FA制度に賛成をした人物でありビル・べックへの最大限の賛辞をマービン・ミラーは綴っていました。尚、「ボールパーク戦略の極意は<花>にあり」という記事はゲーデルの写真が消えてしまっていたので貼り付けました。もし知らない人は是非 小人ゲーデルの姿を写真で確かめてください。OBP1.000の選手の姿がそこにあります。


ところで二ヶ月前に私が書いた記事で、全く誰からも支持されなかった「ピート・ローズの賭博とフィールド・オブ・ドリームスに描かれた夢」という記事があります。実に支持の数は0。その記事で言いたかったことのひとつは<野球賭博>が<八百長>を誘発するという意味で密接な関連性はあるもの、この両者には越えがたい一線があり、もっとはっきり言えば次元が違うマターであることだけははっきりさせたかった。ピート・ローズは野球賭博はしたが、八百長に手を染めていなかったということは強調してもし過ぎることはない。

「八百長>>>野球賭博」

という方程式が成り立つと認めるのは私だけではなかったことがミラーの本を読んで確認できました。マービン・ミラーは<八百長>のブラックソックス事件とローズの<野球賭博>の根本的な事件の質の違いについてはっきりと指摘しながら、野球賭博でピート・ローズを永久追放をしたジアマッティ・コミッショナーこそ、ブラックソックス事件にも劣らない広義における八百長行為をしたと舌鋒鋭く話を展開するのです。


この意味するところをこれから説明します。

1985~1988年にかけて、MLBでは26チームのオーナーが共謀し、FAになった選手に対して他の球団から一切オファーをしないことにより、全球団のペイロールを下げることを目的とした動きが、暗躍していました。経費を抑えることができれば結果それはオーナー全体の利益と適うものとなります。もし八百長を「己の経済的利益のために謀(はかりごと)を巡らしてグランドで戦うに際して全力を敢えて出さないこと」と定義できるならば、このアンドレ・ドーソンやジャック・モリスなどの超大物のフリーエージェントに対しても敢えてオファーしないという、オーナーたちによる共謀事件こそ、まさに近代野球のブラックソックス事件であるとマービン・ミラーは喝破します。その際に共謀の犠牲になった一人が現役のボブ・ホーナーであり、FAで契約ができずMLBのバリバリでありながらヤクルトへ来日し旋風を巻き起こすことになります。実はこの共謀にはオーナーだけでなく当時ナリーグ会長であったジアマッティも同席していたようです。 後にこのジアマッティがコミッショナーとなりピート・ローズを永久追放することになります。

以下、マービン・ミラーの言葉を引用します。


「ブラックソックス事件は、選手たちが勝たないことを約束して金を受け取った点に最大の問題があったのではなかったのか。一方、近代野球で起きた<ブラックソックス事件>全く事情が違った。一球団のわずか八人の選手によって八試合のシリーズに限って行われたことではない。すべてのオーナーすべてのGM、両リーグの会長(当時ジアマッティ)、ユベロス・コミッショナーが関与し、三年間も続いた大スキャンダルだった。しかも1919年のブラックソックス事件では選手たちは法廷で無罪であったに対して、近代の事件を起こしたオーナーたちは有罪判決を受けている。 (しかし球界における処分ではブラックソックス事件のエイトメンは永久追放であり、オーナーたちは無罪放免である。)
オーナーが利益を得るためにチーム力を高める可能性を持つFA選手と契約しないことを共謀するということは、お互いに最高のチームをグラウンドへ送り込まないことを打ち合わせしたことに他ならない。しかも数試合だけでなく、ペナント全体、プレーオフ、ワールドシリーズも含めてリーグ全体を八百長にかけたに等しい行為である。それは<野球の尊厳>への侮辱そのものに他ならない。


選手たちが共謀して全力を試合で出さないこと(簡単に言えば八百長)をすればコミッショナーは永久追放の処分にするし、それは正当な処分だろう。では、オーナーたちなら同じ行為でも許されるのか?」

ミラーが結論としていることを要約すれば、ピート・ローズがやってしまった野球賭博そのものよりも、ジアマッティも含めたオーナーたちの共謀の方が遥かに<野球の尊厳>を傷つける行為であるということです。

このマービン・ミラーの意見について人それぞれの意見はあるでしょう。詭弁という人もいるかもしれない。しかし私は、こうした正鵠を得るマービン・ミラーの如き洞察力をこそ手に入れたいのだということが本を読んでよくわかりました。個人的にはこのマービン・ミラーの本を読んで、べックやピート・ローズに関わらず、ブラックソックス事件のジョー・ジャクソンとコミスキーについて、あるいはジョージ・スタインブレナーについて、その見解において共通するものを見出すこともでき、培ってきた歴史観に一定の自信を持つことができました。

なぜ歴史を知り、歴史観を磨く必要があるのでしょうか?


それは過去・現在・未来の時間の流れから抜け出て、MLB全体の動きに対して見下ろすような遥かなるパースペクティブを確保するためです。

ただ今起きている事象の本質を言葉の矢で射抜くにも、磨き抜かれた深い歴史観が必要であるような気がします。歴史の話が人気のないことをわかっています。それでも、私は記事としてこれからもたまにupしてゆくつもりです。

大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

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「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。