PITの防御戦略に見る オールドスクールと新思考派の対決の行く末

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07 /20 2015
かつて<時代のテーゼ>であったスモールベースボールを源流としたオールドスクール型の考え方に対して、革命児たるビリー・ビーンが<時代のアンチテーゼ>としてセイバーメトリクスを導入し、一定の成功を収めるや、その有効性が認知されるに従ってやがてセイバーメトリクスがメジャー全体を席巻するようになりました。オールドスクールと新思考派の対決は言わば歴史の必然であり、それは2015年になっても尚「GM VS 監督」という形で現れています。先般にあってもLAAでは監督としては格別にチーム内において非常に大きな権限を与えられているソーシア監督と対立したGMが任期途中で解任劇となりました。 一方HOUにおいては一昨年、ルーノウGMが乞われて就任した経緯から、対立していた監督解任となりました。こうしてみると未だ、オールドスクールと新思考派の対決はあります。そして政治力学上、力関係で弱いほうが外へはじき出されます。


歴史の運動法則とは一般に、テーゼとアンチテーゼが対立を深めると最初は互いの正義がぶつかり激しい争いが繰り広げられますが、やがて互いの正しさが程よくブレンドされ、よりエレガントな形へと昇華されてゆくことになります。これは必ずそうなります。なぜなら、ある偉大な哲学者も指摘しているように、それが揺ぎ無い歴史の法則だからです。


スモールベースボールが<フィールド内の現場に実際に立っていた者から生じた知見>であるのに対して、セイバーメトリクスとは<フィールド外にいた人たちの知的な営みによって発見された知見>ですが、どちらかが絶対に正しくどちらかが絶対に間違いということは、それこそラルーサが言うように絶対にあり得ません。どちらにも一定の正しさがあります。そして互いに欠陥があります。


例えば、セイバーメトリクスは大数の法則を原理としているために、どうしても短期決戦に対するアプローチに対して限界が出てきます。無力ということはないにせよ どうしても入り込めない細やかな部分が出てくるのが宿命です。しかしながら同じデータ野球であっても、その出自がスモールベースボールにあるID野球では「スモール」という言葉からも明らかなように、特に戦力が拮抗しているワールドシリーズのような戦いにあって経験豊富な歴戦の魔術師と呼ばれるような監督が指揮する時、セイバーが入り込めない細やかな部分において、その真価を発揮することがあります。裏を返せば、セイバーメトリクスの本領はやはりペナントを戦略的に攻略する際に大きな力を発揮することになります。


真に強いチームとはペナントを制することはもちろん、短期決戦にも無類の強さを発揮するようでなければ、本物ではありません。故にMLBはプロである以上、常にファンの期待に応えるべく真の強さを求めてゆく時、セイバーメトリクスとスモールベースボールが戦略的に統合される時代がやってくることは歴史的な必然でもあります。 短期決戦では監督の決断力や状況判断力の持つウェートがペナント以上に大きくなりますが、一部のセイバーメトリシャンはこうしたオールドスクール型の勝負師としての経験や智慧を軽視する傾向にあるように見受けられます。だから統計学の持つ力を過信し、監督をあまりにも軽んじていたビーン率いるOAKは短期決戦において勝てなかった要因のひとつはそこにもあります。いずれ機会があれば、別途本格的に「なぜ OAKは短期決戦で弱いのか?」について記事にするかもしれません。それ以外にもいくつかの勝てないには勝てないなりの要因があります。それを運に責任転嫁している限りは、おそらく勝てない。


統計学の力と言うものは凄まじいものがありますが、それだけでベースボールが勝てるほど甘いスポーツでもない。

個人的にはセイバーメトリクスとスモールベースボールについてあくまでどちらも戦略の一手段というより大きな視野にたって同時並行に研究を進めてきたつもりです。OAKの盗塁急増の情報に2010年頃に接しても、セイバーとスモールが完全に矛盾するという固定概念がそもそもなかったために、まごつくこともありませんでした。そして今回、PITがセイバーメトリクスとスモールベースボールが戦略的に統合の実践しているという情報に接して、具体的にこんなスタイルとして統合されてゆくものなのかと感心しながら、その記事を読んでいました。


アストロズの強さの秘密 その戦略をセイバーメトリクス分析する 防御編ではこう書きました。


「もしHOUは意図的に球速を抑え制球を重視しつつBBを低く抑えるとともに、ストライクゾーンで勝負をし掛けつつもGBをシンカー等で数多く打たせ、インフィールドに飛んだ打球をセイバーメトリクスに基づく<守備シフト>及び優れた<守備力>で数多くアウトを生産するという戦略を描いているとしたら・・・」


基本的には雑誌によれば、この防御戦略を地で行っていたのがPITであったようです。ここ3年でソートしても30チームで最もGB率の高いのはPITです。2015に限っても30チームで最も高いGB率を誇ります。もっともPITが属するリーグはNLであり、打者投手の打球は圧倒的にGB率が高い。故に、ALで最もGB率が高いHOUと2015に限っては同等レベルと考えてもいいかもしれません。


ビックデータを解析すると「守備シフトを機能させるためにGB率を高めなければならない」という結論が導き出されるようです。GB率と打球の引張りという方向性には一定の相関関係があったことが統計的に明らかになっていたんですね。GB率を高めるのは単にSLGを下げるだけではなく、一石二鳥の戦略的な価値がある。


よってPITはもちろんHOUが採用していると考えられるこの防御戦略の端緒は、まずGB率を如何に高めるかがポイントですが、PITに至ってはGB率がここ3年継続してリーグ最高レベルに達しているということは、ビッグデータを使用したセイバーメトリクスによる分析が的確であることを物語っています。ちなみにLADも相当の高いGB率を記録しています。だから内野手の守備力にも相当に拘ったわけですね。しかしゴードンはつい先日見たときもメジャー最高の守備力を誇るDRSの数字をたたき出してはいましたが・・・。


雑誌によるとGB率を高めるノウハウの候補となるアイデアを自由にコーチを中心とした現場サイドから提出してもらい、それらのアイデアを逐一、実際のビックデータで検証することによって、GB率を高めるには有効な相関関係の高いと認められるノウハウだけを抽出し、それらをレシピとしてPITは随時蓄積しているとのことでした。一例として「内角をファーストボールで攻めて、次の投球を外角の緩い変化球を投じるとGB率が高まるのではないか?」という視点が現場サイドから提出されて実際データを取ると、一定の相関関係が認められたと雑誌にはありました。しかし、シークレットになっているものがまだまだ数多くPITには蔵されているはずです。


公にされていたのはあらゆる投手に共通する一般的な法則に過ぎませんが、PITにおいて例えばある投手はシンカーがGB率を高めるのに有効であるが、ある投手はスライダー、ある投手はカットボールがGB率を高めるに有効であるというように、 投手の特徴とGB率の相関関係について個別的な分析をよりキメ細かく行われているのは想像に難くありません。今は一例として球種を取り上げましたが、高低や左右、緩急など各投手ごとにもっと細かく様々な視点に基づいて、検証されている可能性があります。この点において各チームのビッグデータの使い方や分析力において相当の格差というものは存在するはずです。


「守備シフトを過大に評価してはならない」という記事でも記したように2013年以前からとっくにあった純粋なプルヒッターへの守備シフトは明らかに有効です。それを否定したことは一度もありません。しかし問題は、それ以外のバッターに対する守備シフトを現時点では過大に評価すべきではないであろうという考えを現時点でも持っています。すなわち「BABIPの大幅な低下が現段階で認められない以上、現在多くの守備シフトはまだキメが荒い未熟な段階にある」という仮説を持っています。2014、2015BABIPの数字は決して下がっていないのが現実ですが、同時にPITのように他の球団も現状より更なる守備シフトが進化しよりキメが細かくなれば、BABIPにも大きな変化が見られるとも考えています。


打低投高の時代であり、あれだけ守備シフトが急増したのだからと、BABIP全体の数字を調べもせずに全面的に守備シフトは有効なのだという決め付けだけは戴けません。こうした決め付けや固定概念を排除し、現実に即して、よりしなやかな歴史観を背景にして今後も柔軟にMLBの成り行きを見守ってゆくつもりです。守備シフトを過少にも過大にも評価するつもりはありません。

今MLBはビッグデータの時代へ完全に突入し、PITのようにフィールド内ある智慧とフィールド外にある智慧が融合されより戦略もよりブラッシュアップされた姿へ移行するはずです。ようやくセイバーメトリクスとスモールベースボールが戦略的に統合される時代へ入ったようです。




大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。