イチローとジョー・ジャクソンを結ぶ 偉大なるベースボールの力

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01 /18 2017

”それを作れば彼はやってくる・・・”

どこからともなく語りかける声なき声に導かれるまま、主人公レイ・キンセラが<それ>を作り始めるところからこの物語は始まります。

映画「フィールド・オブ・ドリームス」。

この原作者であるキンセラは大のイチローファンでも知られています。イチローへの熱烈なラブレターとも言うべきエッセイまで上梓しています。これから少しだけ、この映画とイチローを結びつけるお話します。

物語の舞台にもなったアイオワの大地。周囲の人々から嘲笑されつつも、霊感に従って主人公キンセラは生活の糧である広大なトウモロコシ畑を切り開き<フィールド・オブ・ドリームス>を作り始めます。

「それを作れば彼はやってくる」というメッセージ・・・果たしてそこに誰がやってくるというのか。

<フィールド・オブ・ドリームス>が完成すると 最初にそこへ姿を現したのは伝説のメジャーリーガー「シューレス・ジョー」ことジョー・ジャンクソンでした。

終身打率356、MLB史上3位。

4割打者の一人でもありタイカッブやジョージ・シスラーと同時期に活躍。しかしタイ・カッブがいたため一度も首位打者を獲ったことはありません。奇しくも1911年にこのジョー・ジャンクソンが作ったルーキー最多安打記録233本は、2001年に日本からアメリカに渡ったルーキーによってほぼ一世紀ぶりに破られることとなります。

当初は他の選手の安打記録がルーキーイヤーの記録とされていたのですが、イチローの記録ラッシュにあわてて古い記録が調べなおされ、浮かび上がった名前がジョー・ジャンクソンでした。よもや映画「フィールド・オブ・ドリームス」をオリックス時代に見たイチローも 映画の登場人物と2001年にMLBの史上記録においてクロスするとは思わなかったかもしれません。

その4割打者の一人でもあるジョー・ジャンクソンが、ブラックソックス事件というMLB史上最大の八百長事件に巻き込まれて、野球界より永久追放されたのは1920年のことです。ちなみにジョー・ジャンクソン現役最終の1920年の打率は382でした。

ジョー・ジャンクソンは野球が何よりも大好きだった。

382もの打率を残しながら球界を去らねばならなかったそのジョー・ジャンクソンを八百長でワールドシリーズの試合に負けた悪徳な選手であると決め付けることは簡単です。

しかしそもそもなぜジョー・ジャンクソンはわずか5000ドルという金で八百長に加担せざる得なかったのか?

どうもいろいろと調べてみるとホワイトソックスのオーナー、チャールズ・コミスキーがケチが原因だったとも言われています。わずかなユニフォームのクリーニング代も出し惜しむ始末であって、今でも残っているタイカッブと一緒に写っているプロマイドではタイカッブの真っ白なズボンと対照的にジョー・ジャンクソンの下のユニホームは真っ黒のままです。

どうやら彼らは1919年の八百長事件以前から「ブラックソックス」と揶揄されていたようです。

ホワイトソックスというチーム名。白い靴下がトレードマークの球団であるにもかかわらず、白ソックスまで常に黒ずんでいたというエピソードはあまりに皮肉であり それが八百長の遠因ともなっていた。私自身それまでは<ブラックソックス>のブラックとは薄汚れた罪深い者たちというアイロニーを込めて この事件の呼称として使われたと思っていたのですが どうやらこの<ブラックソックス>には 現代MLBでは考えられない 球団による選手に対しての劣悪なる扱いの象徴であることを知りました。

ところで、この映画のラストでは主人公キンセラは フィールド・オブ・ドリームスで既に亡くなりかつてのマイナーリーガーでもあった まだ未婚の若き日の父と再会を果たします。

ゆっくり歩み寄りながら「われわれがプレーできる球場をよく作ってくれたね。」と、息子キンセラへ手を差し伸ばす若き日の父。夕焼けの空に包まれる美しいフィールドを背景にして握手を交わす二人。

取り囲むアイオワの素晴らしい風景と野球場に恍惚としながら、息子キンセラへ父は思わずこう問います。
「ここは天国かい?」
地上であることを認識するキンセラは当然のようにこう答えます。
「アイオワさ。」
「天国かと思ったよ。」と感嘆する父。

その父の言葉に感じ入った息子キンセラは逆にこう尋ねるのです。
「天国って、ほんとうにあるんですか?」
すると確信をもった口調で、かつての若き父は答えます。

  「ああ。そこはどんな夢も叶う場所さ。」

愛すべき家族がおり、アイオアの透き通るような青空と豊かなトウモロコシ畑 そして 素晴らしきフィールド・オブ・ドリームス。父の言葉を介して 主人公(=作家)キンセラは今ここにある現実こそが 天国であることを判然と悟ります。

そしてそれまで関係が断絶されていた親子が<フィールド・オブ・ドリームス>にて、キャッチボールというコミュニケーションを通して関係を回復してゆくラストシーンは余りにも美しい。

更に作者キンセラは 映画のつづきとして小説でこんな粋な演出をします。現実と夢が交差する場所 <フィールド・オブ・ドリームス>でしか起き得ない出来事・・・それは現代MLBのスターであるイチローや野茂と「シューレス・ジョー」の共演をさせるというものでした。

不遇のジョー・ジャンクソンを温かい眼差しで包み込みながら、野球への愛とアイオアの広大なる自然を伝えてくれた 作者キンセラ。そんな彼の作品を見ながら改めて私はこんなことを感じました。


「きっと言語や民族 時代を超えて 野球を愛する人々の心の中にこそ<フィールド・オブ・ドリームス>が拡がっている。どんな境涯にあっても<フィールド・オブ・ドリームス>を心に内包する者にとって、今ある現実がたとえどんな厳しくても それは「天国」へと変容してゆく。生きるフィールドは人それぞれであっても 野球を愛する人の心の中に<フィールド・オブ・ドリームス>が拡がり続ける限り ベースボールは永遠である。」



最後に、イチローのコメントを記して このコラムを終えたいと思います。

マリナーズのユニフォームに初めて袖を通し少年のようにはしゃぎながらくるりと回ってみせた入団記者会見のコメントです。

  「ここは(セーフィコ・フィールド)僕のフィールド・オブ・ドリームスです」

              ICHIRO SUZUKI


どんな時も心に<フィールド・オブ・ドリームス>を湛えてゆくこと・・・・ほんとうはそれだけですべてが成就している。







今からちょうど100年前、MLBのヒーローだった左・タイカッブとユニフォームが真っ黒なままでブロマイドに収まるジョー・ジャクソン。

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