イチロー、今季最終の打率は?についてセイバーメトリクスする

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06 /28 2016


「イチロー、今季最終の打率は? ヒントは本塁打と三振の数、セイバー系サイトが予想」

という記事がありました。結論からすると、どこから手をつけたらいいのかというくらい酷い分析記事であったわけですが、この記事の論拠は「一般的には、打率は偶然性に左右され変動幅も大きいが、BABIPは長いスパンでは多くの選手が概ね3割前後に落ち着くとされている。」になります。

一見何の問題もなさそうですが、実はこの<打者BABIP>の認識自体がそもそもの間違いの発端です。この記者のように打者のBABIPを投手の被BABIPと混同して間違った理解をして分析するライターが一定の割合でいます。打者BABIPは投手の被BABIPとはその特徴の様相が異なり、打者の能力というものがかなり鮮明に表れてくる指標なのです。これからそれについて説明を試みます。

打者BABIPの大きな特徴をざっくり記せば下記のようになります。

●ボールを強く弾き返せるコンタクト能力の高い打者のBABIPは高くなる傾向がある
●FB率が高くなるとBABIPは低くなり、GB率が高い打者はBABIPが高くなる傾向がある
●一塁到達タイムの短い打者のBABIPは高くなる傾向がある

例えばこれらすべての条件を兼ね備えていたのが全盛期のイチローであり、最初の200安打を記録していた10年で見るとBABIP357とメジャーでも最高の値を記録しています。ちなみに足もそこそこ早くGB率が高くコンタクトする能力も高かったジーターの終身BABIPは350。そのジーターも最晩年の2013年2014年のBABIPだけは300を切っています。それまではすべてのシーズンでジーターは余裕で300超えでした。ジーター、終身AVGが300を軽々と越えてくるだけのことはあります。ジーターのこの例からもわかるように打者BABIPの特徴は加齢とともに明らかに下がってゆくという傾向があります。なぜなら動体視力が衰えてコンタクト率が下がり、パワーも衰えてくるので打球は遅くなり、更には一塁到達時間も遅くなるからです。その反対で投手被BABIPは加齢によって上がっていきます。球威・変化球のキレがなくなるにつれて、打者に強く打球をコンタクトされるからです。

ポイント

●BABIPは加齢とも相関関係がある

投手の被BABIPと比べて打者のBABIPの場合は標準偏差が大きく250から350までふり幅が大きいという特徴があり、これは極めて重要なポイントです。もしセイバーメトリクスの分析記事を読んでいて「打者のBABIPは300へ落ち着くので・・・」というセンテンスが出てきたら要注意だと思ってください。セイバーメトリクスにも極めて数多くの指標が何百とあるわけですが、セイバーを理解する上で最重要指標のひとつであるBABIPの特徴さえ十分に抑えていないということは一事が万事であり、その分析力は推して知るべしということになる。

ちなみに9番に入ることが多い投手がバッターとなった時の打者BABIPが220前後です。間違ってもBABIPは300になど収束しません。投手が打者のケースではGB率が極端に高いという特徴があるわけですが、強くコンタクトする力がないためにヒットチャートでも見れてもそれは明らかなように、打球が前に飛んでもボテボテの内野ゴロが多くなります。昨年のイチローの絶不調の打球も当たってもほぼ内野の頭を越さずに、極めて弱いボテボテの打球が多かったはずです。こうなると如何に一塁到達時間が短くても、ヒットゾーンが極めて限定されるためにBABIPも257となりました。2015イチローは単に不運だけではなく、打球そのものの質もBABIPを300を大きく切るだけのものであったということになります。

どうやら内野安打というものは単にボテボテの打球を転がせばそれで成就するというものでもない。強くコンタクトし速いGB(グラウンドボール)が打てることがその前提条件であり、この前提条件なしにボテボテのゴロがデフォルト設定されており予め内野手に前に詰められていたら、そうそう内野安打も稼げるものでもないということなのです。

ミゲル・カブレラやゴールドシュミットのように右打者であっても、パワーやコンタクト率が高ければそれぞれ349と355を超えてBABIPも高止まりしていきます。ちなみに2012年トラウトBABIP383でした。トラウトは運が良すぎたのであり翌年、大きく成績は下がると2012シーズンオフに予想もありましたが、当ブログではトラウトのBABIPは高止まる可能性が極めて高いと予測しました。BABIPの高止まる条件がトラウトには揃っていたからに他なりません。

そして翌年2013トラウトBABIP376。

ちなみに

2012 BABIP 383
2013 BABIP 376
2014 BABIP 349
2015 BABIP 344

よく見るとトラウトは前半2年と後半2年ではBABIPが30ポイントほど下がってBABIPのフェーズが切り替わっているように見えます。さて、なぜなのだろうか?と考えつつ、そこですかさずHRの数値に目を移します。

2012 HR 30
2013 HR 27
2014 HR 36
2015 HR 41

後半2年で年平均10本増えていることがわかります。これはおそらく打撃のアプローチを変えている可能性があるのではないかという仮説が出てきます。そこでつぎにGB/FBを見ます。

2012 GB/FB 1.35
2013 GB/FB 1.16
2014 GB/FB 0.72
2015 GB/FB 0.97

予想通り、トラウトは2014年からアプローチを変えFB率を意識してupさせ、打球にバックスピンをかけてそれまで2塁打だった打球をスタンドへ運ぼうとする意図が見えます。FB率の高い打者はBABIPは低くなる傾向がありますので、トラウトのBABIPが30ポイント下がりHRが10本増えた数値とこれまで述べてきた仮説が論理的に符合するわけです。

トラウトを一例にBABIPを中心にして軽く分析をしてみました。このように打者BABIPについては投手の被BABIPと違って単に運不運だけを判定する数値などではない。もちろん運不運も打者のBABIPでもある程度、推定はしますが投手の被BABIPのように300より上だからとか下だからという風に単純には分析できないということです。

ついでに補足として投手の被BABIPについても述べるならば、厳密には投手の被BABIPも単に運不運だけを判定する数値ではないのですが、大局的に見てFIPという指標は有効である以上、投手の力量が被BABIPへ及ぼす影響は極めて限定的なものとなります。つまり投手の被BABIPは運不運を推し測るには十分に有意義な指標であるということです。あまり細かいところへ入り込んでしまって、大局を見失うのもまたナンセンスな話です。被打球の質も考慮したSIERAという指標もありますが、これもあまり過大に評価すると本末転倒ということになる。

WARであっても完全無欠ではない以上、大事なのはそれぞれの指標の設計ポイントを明確に掴み取りながら、指標群全体を見渡してゆくバランス感覚にあります。

重要なポイント
 
●打者BABIPは投手の被BABIPと違って単に運不運だけを判定する数値でもない
●一方、投手の被BABIPはFIPが有効である以上、運不運を推し測るには十分に有意義な指標である

ちなみに過去3年のイチローのBABIPは299と最初に挙げた記事では論拠にしていますが、第一に過去3年の延長線上で2016のイチローは帰納的に捉えようとする自体、論理的に無理があります。なぜなら過去3年と2016のイチローにはスタッツの連続性というものがほとんど見受けられないからです。少なくとも2016はここまでは2015年以前とは別人のものとなっている以上、通常のケースとは異なり過去3年のデータはあまりに参考になりません。むしろどちらかと言えば参考にすべきは全盛期の成績の方です。ふつうはその記事にもあるようにセイバー的には直近3年に大きく影響を受けるという定石があるのですが、例外のない例外はないように2016のイチローは別個で考える必要があります。

もし仮にその記事通りにBABIPが300へ2016年が収束するとすれば、インフィールド以外の打率に関連するスタッツとして「HR3本、K7個」あるいは「HR6本、K14個」の割合ではじめて2016のイチロー最終打率は300となります。当ブログが打率300を超える可能性が高いのではないかとしたのは、コンタクト能力や足の衰えがないことから全盛期のBABIP357レベルから加齢による衰えを加味しつつ仮に2016BABIPは330前後と見積もっても、「HR0本、K20個」であれば打数の多さにもよりますが最終的にAVGは300を超える可能性があるのではないかという帰納的な推測です。

もちろん前半と同じいい状態をイチローが維持できるかは神であっても予測不可能であり、セイバーメトリクスによる帰納的な予測に限界があることは言うまでもありません。ボテボテの内野ゴロや空振り三振が夏場になって、いつぐっと増えてくるやもしれません。しかしいずれにせよ大事なのは論拠として確率論をベースにしているかどうかということであり、あてずっぽうよりは数段ましだということです。

「イチロー、今季最終の打率は? ヒントは本塁打と三振の数、セイバー系サイトが予想」

この記事を読んで、すぐにそのおかしさを見抜けるレベルで初級レベルのリテラシーは持っていると考えてもいいでしょう。客観的な数値であるにも関わらずセイバーメトリクスのサイトをざーっと見渡してもそこから情報として汲み取ってこれるものは各人の力量によって格差があり、この記事に限らずトンでも分析記事がゴロゴロとあります。

各指標の特徴やその相関関係を知りつつ細かく分析する一方で、半眼で指標群全体をふわっと包むように捉える感覚を同時に持ち合わせているとおかしな記事は一読しただけですぐにわかるようになります。いずれまた機会があれば他にもあるトンでもセイバーメトリクス分析記事について、分析を行います。


大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。