松井秀喜の真価 つなぎに徹する精神と打点を稼ぐ力の奥深さ

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06 /14 2016
古典「野球術」ジョージ・F ・ウィルの打撃編というグウィンの章において、記憶が正しければおおよそこう書かれていました。ある試合 グウィンは4打数0安打であった。しかし打点は3であった。なぜなら内野ゴロ二つと犠飛1つでいずれも3塁ランナーをホームへ帰したからだ。ここにグウィンの真骨頂がある,、そんなエピソードです。かつて無死もしくは1死3塁で打点を上げる確率の高い打者としてNYY松井秀喜がMLB史上でも有数であることが記事になったことがありました。この時、その歴代ランキングに上がっていたのが他ならぬこのグウィンでした。

グウィンはパワーヒッターではなくリードオフ役も多かったので、打点そのものは多くはありませんが、「二死満塁で最も迎えたくない打者」という異名がありました。松井もまた もしワールドシリーズ第七戦、9回同点二死満塁で誰にバターボックスに立っていて欲しいかというヤンキースファンに当てられたアンケートで第一位を獲得したことがありました。

セイバーメトリクスにおいては<打点>というスタッツは前後の打者の能力に大きく依存するために、チームによってあるいは打順のめぐり合わせによって条件が違いすぎるために重視しないという考え方が一般に流通しています。たしかに<打点力>というツールを測るスタッツとして<打点>は決してふさわしいものではない。そこまでは納得できます。

そこで固定概念に囚われず打点というスタッツとは切り離して、打点力というツールそのものについて少しだけ見方を変えて考えてみたい。例えば無死もしくは1死3塁で打点を上げる確率という条件から打点力というもの眺めたら、70%以上あったグウィンのような打者もいれば50%にも届かない打者までそこには明らかに打点力としての差異が認められる。更には一打席あたりの確率だけではなく、同じシチュエーションという条件の元、一打席あたりのたたき出した平均打点というものを出してみたらどうだろうか。

条件を揃えた上で

全体=質(打点を挙げることのできる確率)×量(一打席あたりの平均打点) 

こうすればある程度、各打者の打点力というものを把握できるのではないか。

もう少しわかりやすく具体的に話をします。打点をたたき出す70%という確率の高いグウィンもそこまで長打はないので、例えば無死もしくは1死、ランナー1・3塁で一打席あたりのたたき出した平均打点が仮に0.80だったとします。一方、全く同じ状況でアダム・ダン先生のように三振も多い打者は打点を上げる確率は50%程度かもしれないが、ホームランが多いため一打席あたりのたたき出した平均打点が0.85とグウィンを超えるかもしれません。

あるシチュエーションで打点を稼げる確率と平均どれだけのボリュームの打点を稼げるかという二つの視点があれば、打点力というツールも把握することが可能になる。

グウィンや松井秀喜のように無死もしくは1死3塁にいた場合 打点を上げる確率の高い打者の条件

●まず最低限、三振をしないコンタクトな打撃が必要。

●外野へ飛球を飛ばすパワーと技術が必要。

●更には 引っ掛けさせられるシンカー系が来た時には オプションとして緩いゴロも打てる打撃の幅が必要。

NYY時代に松井秀喜は無死2塁で打席に立つと、当たり前のようにゴロを転がして1死3塁へ進塁させ、1死3塁から事もなげに犠飛を打って打点をコツコツ稼いでいたはずです。最近MLBを見ていると、無死2塁、どうしても1点が欲しい場面で3塁へランナーを進められない、次の打者が深い外野飛球は打つも結果0点。どうしても1点が欲しい場面で、一死3塁で犠飛によって1点を取ることができず最終的にゲームを落とすというシーンを度々見かけることがあります。松井秀喜がこなしてきた地味な仕事ぶりは実はそれほど容易いことではなかったようです。

トーリ率いるNYYは大戦力であったために13年も連続して、POへ出場していました。実はこのトーリも安定して実際の勝率がピタゴラス勝率を明らかに上回る監督でもあり、単にメンバーに恵まれていただけでなく大戦力の能力を十分に引き出して戦った名将でした。そのトーリが殿堂入りのスピーチでのことです。かのクーパーズタウンの地で数多くの優れた選手たちに恵まれてきたからこその受賞であるとして謝辞を述べました。その時トーリがスピーチで選んだとっておきの話として挙げたのが松井秀喜とのエピソードでした。ここにトーリと松井秀喜の間に横たわる深い絆を感じるのです。つまり日本のマスコミを通じて伝わってきたトーリによる好意的な松井秀喜評というものは決して単なるリップ・サービスではなかったということ。晴れの舞台で、もっとも自らの心情を観衆へわかりやすく伝えようと試みるとき、誰もが自らの気持ちに最も正直になるはずです。

松井が入団した2003年のキャンプで、ベンチコーチだったドン・ジマーが「エンドランのサインを出していいか聞けば、どういう選手かが分かる」とトーリに進言。実際に聞くと松井は「いつでも出してください」と即答したという。トーリは「日本で50本塁打の打者がチーム優先の考えでいることが分かった」と言います。オールドスクールのトーリは松井がチーム優先の考えを持っていることが分かっていたからこそ、松井が不調の時にもスタメンから外さず起用し続けました。

セイバーメトリクスが主張するように打点というスタッツは打点力を表現するには決してふさわしいとは言えないが、たしかに打点力というツール自体は存在する。日本史上最も打点を稼ぐ力、打点力を有する打者は文句なしに王貞治であるが、成果として打点を最も稼いだのも王貞治であったということに過ぎない。王貞治とふつうのチームの8番打者を単純に比較して打点を稼ぐ力が同じなわけがない。打点力とOPSには深い相関関係にあることは直感的にもわかることですが、事はそう単純でもなく、OPSでは表現していない犠飛や内野ゴロであっても打点を稼ぐことはできる点にこそ打点力の奥深さがある。

そんな松井秀喜が一度目のFAになった時、トーリはこのようなことを言いました。

「世界中の金を集めてでも、ヤンキースはヒデキと契約するべきだ」

この言葉が、2009年ヤンキースを27度目のワールドシリーズ優勝へと導く金言となったことは誰もが認めるところです。

個性の強いスター軍団の中で松井秀喜はチームバッティングに徹するとともに、それでいて大舞台で無類の勝負強さを発揮し勝負を決めることもできた打者であった。


松井秀喜という選手の真価を、トーリという名将は誰よりも知り抜いていたに違いありません。


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大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

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写真は古代ギリシャの神殿。