なぜパリーグのレベルの方が高いのか?小宮山や里崎の記事で満足できなかった人のために。パリーグの強さを分析する 

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06 /05 2016

交流戦の成績を見れば明らかですが、MLBではアリーグが勝ち越すようにNPBにおけるパリーグ同様にほぼ安定して毎年勝ち越しをしています。その主な要因をこれから三つ挙げます。特にポイントに挙げた3番目の部分こそがこの記事の肝でもあります。ふだんここで私がupしている軽い記事とは違い、今回の記事についてはかなり読者を選ぶところがあるのではないかと思っています。かなりの長文ですが、良かったら最後までお付き合いください。小宮山や里崎の記事に満足できなかった人のためにupしたつもりです。

たしかに解説者も言うようにDH制の有無がリーグ間格差最大の要因であることは間違いありません。しかしながらDH制を敷くパリーグホームにおいてセリーグではDHに代打の切り札程度の強打者しか用意できないからだという分析はあまりに恣意的に過ぎます。なぜならば、第一に里崎の記事とは相反しパリーグの戦いでDHに入っていた選手の多くは実際にセリーグホームではほぼスタメンに入っていません。第二に仮にセリーグホームでDHの打者が守備につくということは、アマチュアレベルと称されるデスパイネに代表されるように大きく守備力がマイナスになることを意味しており、同時に機動力も削がれることになります。この点もフェアーに指摘していない。更には一切、バッドを握ることのなかったパリーグの投手がバッターボックスに立つという不利も考え合せた時、セリーグホームではパリーグ最大のストロングポイントであるDH制のメリットをダイレクトに打ち出すことができず、パリーグは不利になることは明らかです。パリーグホームではパリーグ有利。セリーグホームではセリーグ有利。真理とは実にシンプルなものでありウィークポイントとストロングポイントは表裏一体。物事は表と裏をバランス良く眺めてこそはじめて深い洞察を得ることができます。

率直に言ってまず結論ありきの恣意的な分析を小宮山や里崎はしており、到底納得のできるものではありません。

以下それでは当ブログの考えるなぜNPBではパリーグが強いのか? 解説者の小宮山や里崎の記事で満足できなかった方をターゲットにして、MLBバージョンに加筆修正を加えて日本バージョンとして書きました。MLBバージョンを読んだことのある人は3番目にジャンプしてもらってもかまいません。


さてところでFA制度によって人材はリーグ間を自由に横断し、金があるところへ優秀な人材が集まるようになりましたが、かつては大きな開きがあったリーグ別平均年俸もソフトバンクの大盤振る舞いもあって2015には外国人も含めるとペイロールほぼ全く互角となりました。これまでのインターリーグではセリーグの平均年俸の方が相対的に高かったことを考えると、NPBにおいて財政力がリーグ間の実力格差を決定づける原因とも考えられません。

では日米問わずなぜDH制のあるリーグが強いのか?

主に3つの理由が挙げられます。

1)第一に挙げられるのはDH制にもたらされる生産性向上というポイントです。国富論を説いたアダム・スミスは、有名なピン工場を例として生産性向上のカギとなるものとは<単純化、専門化、分業化>であると言いました。ピンを作るにしても、最初から最後まで一人の職人が作るよりも、18の単純な工程にわけて18人の人が、「針金を同じ長さに切るだけ」「ピンの先を研ぐだけ」「もう一方のピンの先を潰すだけ」「潰した先に小さな穴を空けるだけ」・・・と専門特化して作業すると最終的に一人あたりのピンを作ることのできる生産性が一人ですべての工程をやるよりも1000倍も上がるというエピソードです。

第一のキーポイントはこのアダムスミスが言う<単純化、専門化、分業化>です。例えば投手の先発完投型というスタイルから 近代ではセットアッパーからクローザーという分業制が確立されより戦略的にシステマティックな体制が近代MLBでは取られました。「強さを合理的に求め、勝利を数多く生産し観衆を喜ばせる」をもってプロというならば、まさにこの投手の分業制はMLBの歴史とって必然でした。例えば監督という存在も最初は選手兼任からはじまり、やがて監督は専任されるようになり、更には監督をサポートする形でコーチも投手コーチから打撃コーチ、走塁、守備コーチという形でどんどん細分化され、専門化、分業化が促進されてきました。こうしてサポート体制もより厚みを増し進化してきたのがMLBの歴史です。

このように<単純化、専門化、分業化>はMLBの進化にあっても歴史を紐解くには欠くことのできないキーワードです。そしてNPBの進化の歩みも基本ベースボールの先進国であるMLBに追従してきた以上、全く同様のことが言えます。DH制、スモールベースボール(ドジャース戦法)、セイバーメトリクス、FA制度、分業制、変化球、ドラフト制度すべてMLBからの輸入です。

そしてDH制がもたらしたものとは、他ならぬ単純化、専門化、分業化でした。パリーグにはセリーグにはいない<守備を一切考えない打者のスペシャリスト>と<攻撃を一切考えない投手のスペシャリスト>が出現したわけです。これによってDHの打者も投手も、自分のやるべき選手としての戦略的なターゲットを単純に絞り込めることができ、専門化、分業化がパリーグにおいてより先鋭化されていった。これはパリーグのレベルをアップさせるには大きな意味を持ちました。

●ポイント1

DH制がもたらす単純化、専門化、分業化がパリーグの選手の能力・生産性を向上させた。

2)第二に競争原理というポイントです。パリーグの投手から見れば9番で息の抜けるセリーグに比べて、DH制は厳しい環境であり絶えず己の能力を鍛え上げられます。たとえ同じ能力を持っている投手であっても、より厳しい環境で置かれた者の方がやがて10年20年と経過するとより厳しいリーグに属する方が実力が上がるのは道理です。投手にとって過酷なリーグはパリーグです。

パリーグの打者からすれば、DH制によってバッターボックスに立たなくていいパリーグの投手は無駄な交代をさせられる機会も少ないために、優秀な投手がそれだけ長いイニングをマウンドに立つことができます。またパリーグの投手はバッターボックスに立たないために、死球による報復もなくより大胆に攻められるという効果もあります。すなわちパリーグの方が、投手がより大胆でありながら同時にDH制があるために細心の注意を払いながら打線と対峙するようになると共に、イニングを長く投げられる環境にある。

打者にとってからすれば、優秀な投手が降板する要素が減じるパリーグの方がそれだけ厳しい環境と言うことができますし、また、セリーグに比べて、タイトルを獲得する、あるいは 打率の10位以内にランクインするでもいいですが、パリーグの打者の方がDHがいる分、セリーグの打者よりも競争原理が強く働きます。競争原理が強く働くリーグに所属する選手の方が強くなるのは当然です。

●ポイント2

より強い競争原理が働くパリーグに属する選手の方が実力は上がってゆく。

3)そして最後になりますが、DH制導入にふみきざる得ないような厳しい経営環境が、パリーグ全体のレベルアップに最終的には貢献する原動力になったのではないかということです。そもそもなぜパリーグがMLBにおけるアリーグ同様、DH制を敷かなくてはならなくなったのか。DH制導入は野球は9人でやるものという常識を根本から覆した、MLBの1970年代においても革命的な出来事であったと言って過言ではありません。人気をナリーグに奪われていたアリーグが何か策を講じなければならないとして繰り出した苦肉の策のひとつがDH制でした。しかしながら人気の格差がリーグ間にあったにせよ、アリーグには一時的に衰退期を迎えていたヤンキースもいました。NPBほどのリーグ間格差があったわけでもありません。

MLBと比べるならば、比較にならないレベルにおいてNPBのリーグ間における人気の二極化は進んでおり、セリーグと差別化するべくパリーグも前期後期制やDH制導入といった新しいものへチャレンジはしていたわけです。ところが時代の潮流はまさに巨人全盛期であり、パリーグの対策も焼け石に水。むしろ正力松太郎による日本テレビや読売新聞といった当時最先端のマスメディアを有効活用したマーケティング戦略が高度経済成長という時流にも乗り、日本全国を包み込み見事な成果を出していたと言ってもいいでしょう。

このセリーグ人気、巨人人気に全く太刀打ちできなかったパリーグは、せめてオールスター戦では国民の注目を浴びる唯一の華やかな舞台で活躍すべく、パリーグの選手たちが虎視眈々と技術や力を磨いていったのは誰もが皆知るところです。それは単に選手の技術的な事柄に留まらず、監督の技術レベルにおいても近代野球の父と言っていい野村克也がベースボールに知の革命を起こしました。野球の近代化が大きく推し進められた舞台がパリーグであったというのも決して偶然でありません。セパの野球の質の差を裏付けるように野村克也の薫陶を受けていたエモヤンこと江本などは南海から阪神にトレードされるや、ベースボールに対するシンキングする力のレベルの差に愕然としたとも言っています。南海・野村の野球の方が一歩も二歩も先を行っていた。巨人人気に依存してきたセリーグのチーム阪神はそこまで努力する必要もなかったわけです。当時の阪神はとても幼稚な野球をしていたと江本は言っています。

そうした中、戦力の均一化を目的とした1965年のドラフト制度導入によって、少しづつ巨人絶対王者の時代は終焉を迎えるようになります。ちょうどV9がスタートした年も1965年ですが、ドラフト制度以前に巨人にストックされていた優秀な人材もドラフト制度が導入され10年経過する頃には引退へと至り、戦力均衡の成果が実を結び始めたのが1975年以降であったということになります。

戦力の均衡化が進む中で、テレビや新聞といった一方向性のマスメディアがまだ情報発信の中心でもあった「巨人大鵬卵焼き」といった高度経済成長の時代であれば、一網打尽、強者の戦略でもって、全国の人気を巨人へすべて集約することも可能でしたが、IT化により双方向性のメディアが出現しファンとチームの距離が縮まり、更には社会も少しづつ成熟しプロスポーツをはじめ文化の多様化が進んだ時代にあっては、人々の関心も多方向に分散されることになり、全国区の人気であった巨人の牙城も、ようやくパリーグの地域密着戦略によって地方からその人気へ切り崩すことが可能となりました。長い冬の時代を超えて1990年代イチローの爆発的な人気を梃にして、いよいよ2000年代に入ってから、時機を得て本格的なパリーグの反抗が始まったわけです。

弱者のパリーグが強者であるセリーグのマーケットからシェアを奪うには、戦略的にもセリーグにはないような新しいことを試みる必要があります。その際の重要なキーワードが <新奇探索性>です。時代に先んじて何か新しいことを行うという姿勢です。DH制も新しいことを導入したという意味では正しい動きでしたが、まだその時を得ていなかったに過ぎません。時機を得るということも戦略にとっては極めて大事なことです。いずれにしても一つ真理として言えるのはパリーグがセリーグと同じことをしていて勝てるわけがないということです。

日本ハムのBOSというオペレーションシステムやロッテがいち早く取り入れたGM制度など、MLBの動きを貪欲に吸収しようとしていたのはパリーグです。例えば将来性のある方向性としては映像のネット配信となるのは自明の理であり、12球団が戦略的に一致団結することによってより大きな利益が出るにもかかわらず、未だにそれを拒む保守的なセリーグがいます。そうした時代遅れのセリーグを置き去りにして、パリーグは独自に映像のネット配信もいち早く手がけました。パリーグの方が立場上弱者であったために、数段戦略的でありチャレンジ精神に溢れているのは事実です。

特に大谷の二刀流にも見られるように日本ハムというチームの有する新奇探索性には目を見張るものがあります。他にどのチームもソフトボール出身の選手をドラフトで獲得するという発想はありません。二刀流など不可能であるとして発想そのものがなかったはずです。高校野球のシロウトをヘッドコーチに抜擢するなども考えられないことです。そもそも日本ハム ロッテを除く10球団はチームのOBを監督に据えていますが、伊東監督は西武への恨みがあり他のチーム就任しかあり得ません。すなわち日本ハムは現場経験も一切なかった栗山を監督へ据えたという点では余りに特異です。実に戦略的でありながらリスクを取って常に新しいものへチャレンジする文化が日本ハムにはあります。梨田はどうなんだと言われそうですが楽天も元を質せば、ルーツは近鉄とみなすことも可能でしょう。

現状恵まれていたら、そのまま保守すればそれでOKであり、DH制をセリーグがわざわざ採用する道理もありません。巨人人気依存でOKであり、差し迫っての経営改革をする必要もない。いずれにしてもセリーグから日本ハムのようなカルチャーを持つチームが誕生するとは到底思えないのです。

●ポイント3

DH制導入にふみきざる得ないような厳しい経営環境こそが、総合的にパリーグをレベルアップさせる至った最大の原動力となった。

セリーグに追い付け追い越せで頑張ってきたパリーグにおいては選手レベルでは技術やパワーを追求させ、監督レベルでは野村克也に代表される知の革命を野球にもたらし、チームの経営レベルでは地域密着やネット配信、ボールパーク化構想などの高度な戦略性を発揮させるに至った。特にフロントの戦略性、人材の質がセリーグに比べて格段にパリーグの方が高いのはまず間違いありません。(大谷を口説き落とすための日本ハムの提案書がいい例ですが、セリーグのフロント陣ではそれを書けるだけの人材はほぼまずいないと見てもいいです。そもそも映像のネット配信を拒否している時点で先見性のなさを露呈しています。)そうしたフロントの戦略性は観客動員増を中心とした利益を目標とする経営戦略のみならず、優勝することを目標としたチーム戦略にも必ずや生かされることになります。

結論としては、小宮山や里崎が言うようなDH制という制度における運用上のリーグ間における有利不利といった些末な理由が、勝率格差を作り出しているのではありません。DH制の構造がもたらすパリーグの高い生産性、強い競争性、及びDH制そのものを採用しなければならなかった厳しい環境こそが、パリーグのリスクを恐れぬ新奇探索性・戦略性を生み出し、これらのファクターが複合的に作用し毎年パリーグが大きく勝ち越しをするに至った。

つまりDH制を導入せざる得なかった長く苦しい歴史の中で、

「パリーグの総合的な実力がセリーグを上回っているからこそ、勝率でセリーグを圧倒している。」

そう当ブログでは結論しています。結論ありきの恣意的な分析には強力なリテラシーが必要になります。

参考記事
 野村IDの源流には「カージナル・ウェイ(カージナルス流)」がある

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大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

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「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。