Pitch Valuesは語る ダルビッシュのスライダーに切れ戻る むしろ最も危険な球種とは・・・

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05 /18 2017

「ダルビッシュ有に危険シグナルあり!肉体改造の功罪をセイバーメトリクスする」

前回の記事の中でも、ダルビッシュに何か変化があれば記事にすると言いました。どうやらダルビッシュ最大の武器であるスライダーが良い方向へ改善されつつあることがデータでも明らかになってきました。

Pitch Valueというスタッツがセイバーメトリクスにはあります。投手/打者が一球毎に状況(ストライクカウントまで考慮した得点期待値)を変化させた値、 投手ならその球種がどれだけ失点を増減させたかを示しています。プラスが大きければリーグ全体の平均的な投球に比べ、失点を抑止したことをあらわす。

wFA  4シームによる得失点の増減
wFT  2シームによる得失点の増減
wSL  スライダーによる得失点の増減
wCT  カットボールによる得失点の増減
wCB  カーブによる得失点の増減
wCH  チェンジアップによる得失点の増減
wSF  フォークによる得失点の増減

wFA/C  4シーム100球当たりの得失点の増減
wFT/C  2シーム100球当たりの得失点の増減
wSL/C  スライダー100球当たりの得失点の増減
wCT/C  カットボール100球当たりの得失点の増減
wCB/C  カーブ100球当たりの得失点の増減
wCH/C  チェンジアップ100球当たりの得失点の増減
wSF/C  フォーク100球当たりの得失点の増減

例えば、ダルビッシュが実働していた2012~2014年の3年でwSLでメジャー全体の1位がダントツでダルビッシュでありました。wSL/C も1位。ダルビッシュは球界最高のスライダーにおける使い手であったことがデータ的にも明らかとなっていた。先回の記事の時点ではサンプルが少ないながらこのwSL/Cが単純にキャリア平均2.60の1/2の値、およそ1.30前後へ落ち込んでいました。ところが最近のダルビッシュのスライダーは実際の映像を見ても切れを取り戻しつつあり、改めて調べるとwSL/Cがキャリア平均レベルへ戻っている。

ダルビッシュのキャリア平均レベル。つまり、メジャー最高レベルの水準に戻ったということです。

更には今年からスライダーによく似たカットボールも大きく増えており、wCT/CをはじめとしてwCB/C 、wCH/Cも実に優れた数字をたたき出しています。問題なのはなぜかwFA/Cが-0.68とキャリア最悪レベルになっていることです。98マイルで気持ち良く見逃し三振などを奪えるようにも進化した一方で、タイミングが合うとスタンドまでもっていかれるという傾向が強くあり、フォーシームの被OPSが異様に高い値を示しています。

2017年 wFA/C

1位 3.05 セール
2位 2.18 カイケル
3位 2.01 カーショウ

5位までなぜかすべて左投手です。

ダルビッシュ

wFA/C -0.68

wSL/C 2.82
wCT/C 2.13
wCB/C 3.38
wCH/C 4.69
wFS/C -2.62

(ダルビッシュはほとんどスプリットは投げないのでサンプルも少なくほんとうに参考程度のデータです。)

桑田がダルビッシュは怪我の前よりも進化していると解説していました。しかし総合評価として進化しながらK/9、BB/9が共に大きく落ち込むということは論理的には絶対にあり得ない話です。あるいは小宮山がスライダーが素晴らしくなったとしていた時期まだwSL/Cはキャリア平均の1/2の1.30前後でした。

いずれもセイバーメトリクス的には妥当な解説とは言えません。

決めにいった98マイル速球などは手も足も出ないといった感じで印象には強く残るのですが、なぜ客観的にはダルビッシュのファーストボールがリーグ平均以下の威力しか発揮できないのか。非常に興味深いテーマであると同時にダルビッシュにとっては最大の課題となりそうです。

結論

ダルビッシュがファーストボールの投げるパーセンテージは全体の47.6パーセント。もしダルビッシュのファーストボールがリーグ平均レベルのwFA/C±0に改善されるならば、サイヤングも完全射程内の投手になる。

状況は随時変わっていくので、これからも変化があれば記事を上げます。例えばダルビッシュ1年目のことです。夏場にプライスの足の踏み出しに大きなヒントを得てダルビッシュの制球が劇的に改善された時がありました。技術的に大きく変化した2012年の9月以降、K/9は9.00を越えながら、BB/9は1点台とサイヤングレベルの投球を繰り広げていました。何かをきっかけに技術が進化して、セイバーメトリクスの数値も大きく改善されるということは十分にあり得る話です。

サンプルは少ないながらも、シーズン序盤、ダルビッシュのスライダーが全盛期レベルからは明らかに劣化していたのはデータ的に事実であり、「ダルビッシュ有に危険シグナルあり!肉体改造の功罪をセイバーメトリクスする」、これはこれで取り消すつもりもありません。


田中将大 これで2017年のオプトアウトはほぼ確実になくなった!

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05 /15 2017

ジーターの永久欠番セレモニーにおいて大炎上を喫した田中将大ですが、2017年のオプトアウトはほぼ確実になくなったと考えていいでしょう。

ところで田中との契約延長は32歳から33歳を更に2年追加で一年あたり2500万ドル前後延長すると予想されていましたが、結果的にヤンキースの見送った判断は正解となりました。当ブログ的には延長してもその判断が決して間違ったものであるとは考えていませんが、田中よりも遥かに重要な案件だったのが、クリス・セール獲得でした。

クリス・セールのコントラクト

28歳 1200万ドル
29歳 1250万ドル
30歳 1350万ドル

破格です。セイバーメトリクス的にも3000万ドルのディビッド・プライスよりも若い、クリス・セールは優れたスターターであり、メジャーでも3本の指に入る価値があります。過去2013年から2017年の足掛け5年においてfWARメジャー全体の3位に入るのがクリス・セールでした。

ちなみに田中がデビューした2014年以降でfWARのソートをかけると

1位 カーショウ 24.1
2位 セール   19.0
3位 クルーバー 18.4

1位は史上最高の投手と噂されるカーショウですが、2位がセールです。22位田中は10.5であり、46位ダルビッシュは7.1でした。「田中よりも格上のセールの最盛期3年を格安で抑える」のと「1ランク下がる田中の32歳からの更なる高額な契約延長」を比較した際、こうしたクリス・セールのような優良物件は1点ものである以上、贅沢税どうのこうのセコイ戦術上の話は棚上げしてでも、柔軟性を発揮しヤンキースは勝負に出る価値はあったという風に当ブログ的には結論しています。

田中については延長する決断も決して悪い話ではないですが、優先順位としてはあくまでクリス・セール獲得であり、大出血をしても全力でもって獲得へ向かう気迫が欲しかったというのが偽らざる感想です。

戦略的忍耐。

正直、状況をさまざまに総合判断した場合、全くナンセンスであるというのが一貫した見方です。BOSのドンブロウスキー編成責任者についてはこれまでのキャリアの動きもずっと観察してきましたが、基本、好意的に受け止めています。


ドジャースの新たなローテ戦略 前田健太のDL入りはフェイクか

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05 /15 2017

クレイトン・カーショー、前田健太、リッチ・ヒル、ブランドン・マッカーシー、柳賢振の5人ではじまったドジャースのローテですが、控えにもDL入りしているやスコット・カズミアやブロック・スチュワート、ジャスティン・マスターソン、フリオ・ウリアス 、アレックス・ウッド等十分にローテをこなせる人材は多数おり、これらを状況に合わせて入れ替わり立ち代わり5人の枠を埋めることによって、スターターのフィジカルをリフレッシュさせる戦略を取っていると専らのうわさです。長いシーズンを乗り切るために満遍なくスターター全体へ適度に休養を入れつつも、けが人やローテの不調の投手が現われても代替がすぐに可能としたシステムを作り上げ、一定のレベルにローテを保つことによってシーズンのPO進出可能な勝利数を確実に確保する。

昨年の史上最多DL入りし、かつ絶対エースカーショウの長期離脱があってもドジャースはシーズンを無事地区優勝で終えることができました。それを教訓として2017年では10日DLという新たな制度を活用した新たなドジャースのローテ戦略。左太もも裏の張りで10日間の故障者リスト(DL)した前田健太も、ほんとうに怪我をしている可能性もなくはないですが、おそらくはフェイクであり、実際のところ先日に完投直前まで投げたフォローとしての長いシーズンを睨んだ休養という要素が強いことが想像されます。

もちろん、前田はDLが明ければ再びローテの一角を担うことになります。ERA5.00台で大丈夫かという声もあります。

前田健太

K 9.15 BB 2.56 HR 1.83 BABIP 285 LOB率 75.6 ERA 5.03 FIP 4.32 xFIP 3.67

ダルビッシュ

K 9.06 BB 3.66 HR 1.22 BABIP 240 LOB率 85.1 ERA 2.96 FIP 3.99 xFIP 3.65

田中将大

K 6.65 BB 2.28 HR 1.25 BABIP 301 LOB率 73.1 ERA 4.36 FIP 4.25 xFIP 4.03

注目してほしいのは、ERA2.00台のダルビッシュとERA5.00台の前田の比較です。両者のxFIPの値がほぼ=という点であり、K/BBを見ても前田の数字は抜群であり、先日のボールの切れも素晴らしいものがありました。セイバー的にはダルビッシュが運に恵まれている一方で前田が不運であることも明らかになっています。もちろん田中を含めた3人ともに、あくまで現状ですがとてもサイヤングのレベルにはありません。もっとも田中が最終的に20勝1敗なら、今の成績でも受賞の可能性は0ではありません。シーズン全体の行く先について考えた時、ERAより重要なのはFIPやxFIPの方であり、LADの首脳陣の前田に対する評価は日本人ファンがERA5.03に目を奪われるほど深刻なものでもありません。

ERA8.00台であった前田のERAも、ふつうに考えれば4.00台前半へ向かって下降していくことになるはずです。

注意)これは現時点で言えることであり、常に未来は可変的であり状況も変化してゆくことは言うまでもありません。

関連記事

前田健太はクワーズフィールドをやり過ごせるのか

昨年の前田のERAは0.47の際、xFIPは3.00台半ばでした。


サプライズと表現された快進撃のヤンキース

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05 /02 2017

開幕から絶好調のヤンキース。ここでヤンキースの衰退について述べてきた当ブログが記事にしないわけには参りません。偽りなく虚心坦懐に語ったつもりです。これまで私がここで語ってきた記事のすべてつなぎ合わせて、現状のヤンキースを解釈するとこうなるという構成になっています。尚、記事を編集し続けてアップしたのが10日後なってしまったことを予めご了承ください。(^^;

私淑してやまない先日逝去された故・渡部昇一先生が教えてくれた<知的正直さ>に照らして、エクスキューズとしての記事としたつもりは皆無であり、考えにブレはないという結論になっています。

では参ります。

===

4/29現在(記事を書きアップしようとした日時で失礼)

得点リーグ1位 124点 失点リーグ2位 78点 ピタゴラス勝率 15勝7敗 実際の勝敗 15勝7敗

現在AL最強のチームこそヤンキースと言っても過言はないでしょう。ヤンキース戦の中継で「今年、勝負にいっていないヤンキースがこの順位にいるのはある意味、サプライズですね」とアナウンサーが率直に語ったように、それは各誌の戦前における順位予想を眺めても、ヤンキースの戦力を冷静に分析すれば一押しにするところは皆無でありました。

客観的に見れば、今シーズンここまでの躍進したのはヒックスやグレゴリウス、ジャッジをはじめとしてキャッシュマンGMの選手に対する目利が利いているとも言えるし、ジラルディ監督の手腕もありますが、それ以上に選手が揃いも揃って本来の実力以上に力を発揮していることが挙げられます。

物事には必ず<サイクル>というものがあり、選手の成績も好不調の波を繰り返しながら、最終的には平均へと回帰していくものです。全盛期のイチローの最初の10年の平均打率は330前後でしたがあれだけ安定感のあったイチローでも10年の間で303から372の間でサイクルを繰り返しています。

4/29現在の成績OPS

ヘッドリー  966   
エルズベリー 781 
ジャッジ   1081    
ホリデー   885  
カストロ   976  
ヒックス   1144  

2017年のセイバーメトリクスによる成績予測値OPS

ヘッドリー  730 (→ 966  
エルズベリー 690 (→ 781
ジャッジ   810 (→ 1081   
ホリデー   800 (→ 885
カストロ   740 (→ 976
ヒックス   720 (→ 1144

現在のヤンキースのように本来の持っている実力以上の力を発揮している選手がチームの過半を占めそれらが合わさった時、チーム力としても非常に大きなものとなります。セイバーメトリクスのひとつの重要な発見は、ベースボールには運という要素が無視しがたい大きさで選手のパフォーマンスや勝敗へ影響を与えていることを統計的に明らかにしたことですが、例えば本来持っているヤンキースの実力が50であり、ボストンの本来の実力が70であったとします。2017においてヤンキースの選手の好調のピークを迎える選手が多く、反対にボストンの選手の不調の底を迎える選手が多く占めるならば、最終的にヤンキースの出力されるパワーが65となり、ボストンの出力されるパワーが60となることも十分にあります。

この数字でヤンキースがおそらくシーズン最後まで突っ走るわけもなく、不調になった時こそ、ジラルディの手腕の見せ所となりそうです。4/29の345番の一般的な寸評。

3番 ホリデー
(かつての強打者も今はロートル。カージナルスからの御下がり感は否めない。)
4番 エルズベリー 
(かつての盗塁王であり韋駄天、決して4番タイプではない。巨大な不良債権と化しつつあった。)
5番 カストロ   
(カブスの構想外でやって来た選手。守備難あり、ヤンキースでも構想外とささやかれていた。)

このクリーンナップに少なくともオーナーとしての2017年に勝つ本気の姿勢は見出すことはできません。だからこそアナウンサーもサプライズと表現しています。ちなみに10年前、結果POで敗退したものの2007年頃のオーナーが世界一に本気の姿勢を見せたメンバー。2009年とほぼ変わりありません。

「7番セカンド カノのNYYには華があった 強者は時間を包囲せよ」

ジラルディ監督やキャッシュマンGMへの評価はこれまでも繰り返し当ブログでは彼らを擁護し続けてきたように、多数の日本人ファンとはおそらく真逆であり、一言で言えばジラルディ監督及びキャッシュマンGMは平均以上の能力は間違いなくあり、有能であると結論しています。

一方ハル・スタインブレナーの判断力については徹底的にこれでもかと批判してきました。シーズンオフに度々話題になっていた田中との再契約、クリス・セールの売り出しについての見解を述べるならば、この件についてお蔵入りさせましたが「クリス・セール獲得へヤンキースは動くべきである」というタイトルで記事をアップ予定していました。あるいは失敗はするリスクはもちろん織り込み済みでヤンキースはエース田中との契約延長勝負するだけの価値は十分にあるという考えです。特にセールについては最盛期を破格の条件で抑えられるだけに勝負する価値は十二分にありました。ダルビッシュのレンタル移籍ために若手を放出するのとは全く意味が違う。

ちなみに一部の人たちには失敗と決めつけられているAロッドとの10年契約も、ジョージ・スタインブレナーの正しく素晴らしい判断力であったと今でも当ブログでは支持しています。(ハルには絶対に不可能な大型契約ですね)あるいはエルズベリーやベルトランと契約しなくても全く問題なかったが、その金で最優先すべきであったカノを絶対に抑えるべきであると考えていたように、今回のセールについても獲得できたかはともかく、セールには勝負するだけの価値及びヤンキースにはプロスペクトのストック十分にありましたが、動く気配すら見せなかったのがハル・スタインブレナーでした。

基本、ハル・スタインブレナーと当ブログの判断は悉く、逆です。(正確にはGM及び監督への評価だけは一致か?)

経費節減、コストパフォーマンス第一主義、リスク徹底回避。セールや田中についても、今は戦略的忍耐の時であるというわけです。戦略的忍耐。イスラム国の出現及び中国の拡張主義を許した戦後おそらく最も能力のない大統領といずれ認定される人物も同じようなことを言っていました。忍耐すべきところは忍耐をしなければならならないが、果敢に攻めるべき時を逸してまで忍耐してしまうようでは戦略的柔軟性の欠如と言わざる得ない。ここがドジャースの首脳陣と決定的に違うところです。わかりやすく言えばグリンキ―へ自重したLADの判断力を当ブログでは高く評価しましたが、これが忍耐すべきところを忍耐するの例であり、同様に果敢に攻めるべき時を逸しカノ放出したヤンキースを徹底的に批判してきました。

例えば若手へ切り替えるのはいいことです。これまでも否定など一切してきませんでした。しかしその手法がドジャースとハル・スタインブレナーとでは全く違います。昨年のヤンキースのように塩漬けからのファイアーセールような事態を招く前に、ドジャースはクロフォードをDFAとして40億円もの損切りをし、生え抜きMVPのケンプであっても構想外であれば一部金を肩代わりしても外に出すという高度な判断力で若手へ絶えずスペースを空けてきました。両者の時間に対するコスト感覚が全く違います。つまりそれだけ戦略性に優劣があることが、はっきりとしているということです。

真の意味で戦略的であるとは何かということが、ドジャースの首脳陣は実によくわかっていることが行動や言動の端々から明確に伝わってくるのです。

今ヤンキースは次なる飛躍に向けての戦略的忍耐の時である。

多くの日本人ファンにも受け入れられている一見わかりやすいこの考えが、状況を戦略的見地から総合判断した時、極めてペラペラなものにしか私には見えないのですが、ハル・スタインブレナーの指針に納得できる人達に聞いてみたいのは、「戦略とは何か?」という問いについてほんとうに深く考えてきたことがあるのかということです。今のヤンキースにとって、ハルの考えにも一定の正しさを含んでいることは認めます。すなわち完全な間違いとは言い切れないが、真の戦略家であれば戦術レベルに過ぎない<贅沢税ライン>に異様なまでの拘りに代表されるように、まずこのような判断はしないと繰り返し言っておきたいと思います。

(5/10追記。第一にレッドソックスファンなどは、ハルになってからヤンキースはすっかり動きがスモールになってくれたお蔭で特にストーブリーグの動きがしやすくて仕方がないとはっきり言っています。第二に、ニューヨークでの人気はほぼダブルスコアでヤンキースがメッツを圧倒していたのが、現在では45%vs43%でメッツが逆転したと報告にもありました。敵からは戦いやすいと見られて、人気は下がり続けている組織のリーダーが真に戦略的であるのかどうかよく考えてください。ちなみに別の意味での驚きなのですが2016年で底を打つと見られた観客動員の減少は2017年になって更に加速しています。)


これまで「忍び寄る衰退 ヤンキース帝国の黄昏」 シリーズでも一貫して主張してきたように、ヤンキースの歴史はハル・スタインブレナーというリーダ一によって衰退を必ず余儀なくされると言ってきました。しかしPO進出すらままならずチームを弱体化させるだけでなく、観客動員も減らすだけ減らし続けるという極めて下手な経営をしているヤンキースも、収入だけは10年前よりも3億ドル近くと最も増収幅が大きいチームとなっています。(簡潔に書けば10年前からヤンキースの収入は倍増)、にもかかわらず10年前のペイロールよりも現在下げているのは30チーム中ヤンキースただ1チームです。本当に能力のあるリーダーが率いていれば、4億ドルの増収など可能であったあろうと思われます。

ではなぜ、チームを弱体化させ観客動員を減らし続けても、ヤンキースは増益増収し続けているのでしょうか?

それはMLBというスポーツビジネスが独禁法除外適用という市場競争から国家権力によって隔離されたパブリックな環境にあり、かつ自らが構築せずとも戦略性の高いシリグ主導の元にMLB機構により極めて恵まれたビジネスモデルが用意されてきたのに加えて、ヤンキースというブランドに守られているからに他なりません。もしハル・スタインブレナーが自由市場で激しい競争にまみれた一般企業のトップであれば、会社をぶっ潰すことなどおそらく造作もないことが予想されます。

昨年、数十年ぶりにファイアーセールをヤンキースは敢行したように、ひとつの節目を2016年に迎えました。かねてよりヤンキースは必ず衰退するとした予言はある意味一つのピリオドを迎えたと個人的には捉えています。同時に「今打ち出している小賢しい方針でも勝てることは勝てる。ただし勝利の生産性が確実に落ちる」とも繰り返し言ってきました。

それはヤンキースが勝った時の予防線を張っているということではありません。これについて紐解くキーワードは<トレンド>と<サイクル>です。すべての森羅万象、あらゆる物事には必ずサイクルがあります。四季が巡るように、下がるところまで下がれば後は上昇するしかありません。サイクルの観点からヤンキースの今後を眺めた時、ここまで落ちた以上、後は基本的に上がり目しかないないと考えるのが自然であり、物事の原理でもあります。それは再建期を経て隆盛期を迎えたロイヤルズが再びまた、下降サイクルへと突入することと全く同じ原理です。

サイクルは自然の摂理です。だから今のヤンキースの方針でもまた勝てると前から予めはっきり申し上げてもいました。(ただし弱者のロイヤルズとは違い、強者であれば5年中4回の確率でPOに出る状態へ持ち込むことは戦略的には可能です。ドジャースはそれを正しい戦略によって実際にやろうとしています。)しかし私の眼がフォーカスしてきたのはこうしたサイクルレベルの話ではなくもっと巨視的な歴史におけるトレンドレベルにおいてヤンキースに大きな変化が生じていると繰り返し申し上げているのです。簡潔に言えば、気が付くと「今シーズンのヤンキースがこの順位にいるのはある意味、サプライズですね」という言葉がごく自然に大多数の人にすんなりと受け入れられる時代となってしまった。これは決して当たり前のことではなく、10年前にヤンキースが首位に立って、サプライズなんてコメントはまず絶対に出てこなかったのは客観的な事実です。

可能性としてはもちろん当ブログが支持している今年ドジャースはPO進出もできずに、ヤンキースがこのまま突っ走るかもしれません。しかしながら10年20年単位の歴史的視野から眺めた時、両者には相応の差がいずれはっきりと示されるに違いないという意味で、当ブログの基本的な考えに一切ブレはありません。それはヤンキースのオーナーの判断力に大きな問題を抱えているからです。

この記事を書いている4/29、ヤンキースは首位に立ち、当ブログが一貫して評価してきたドジャースが借金1からようやく勝率500になったところです。そうした今であるからこそ、敢えてリスクを取ってこの記事をアップしなければならない。ちょうど一年前にヤンキースが最も借金の多い時期にも 敢えて最下位ヤンキースのジラルディ監督を擁護する をアップしたように、結果が出る前に言うポリシーは大事にしようと考えています。

間違いなく2017年のヤンキースは強い。勝てるバリエーションも実に豊富です。2017年は勝てるチャンスがやってきている。問題は長いシーズン何かアクシデントがあった際に、戦略的な柔軟性に著しく欠けるこのケチケチオーナーがどれだけ正しい判断をできるかも大きなキーとなるはずです。監督についてはすでに経験も力量も実績もあり、特にペナントを任せるには全く問題はないと考えています。率直に言えば一部のジラルディを批判している日本人ファンよりも数段、ジラルディの思考力の方がより戦略的でありかつ信頼できる、そう当ブログでは結論しています。

そもそも翻ってヤンキースにとって勝利とは何を意味してきたのでしょうか。

よくよく思い出して欲しいのですが 10年前のヤンキースにとって勝つとは世界一になること以外にあり得ませんでした。仮にリーグ優勝しワールドシリーズに出てもマーリンズに負ければ、ヤンキースにとっての勝利を意味しませんでした。世界一以外に勝利とは認められない。それがヤンキースのファン及び選手にとっての暗黙の了解でした。では今のヤンキースにとっての勝利は?問われた時、見解は必ずしも一致しないことに気づかされるはずです。

では、どうしてこうも勝利への意識まで変わってしまったのか。

つまるところジョージ・スタインブレナーが世界一以外眼中なかったのに対して、ハル・スタインブレナーはそうは考えていないからです。ジョージ・スタインブレナーが顧客第一主義であったとは言いません。しかしヤンキースの最大のファンはジョージ・スタインブレナー自身であり、自分のためにヤンキースを勝たせようとすることが結果的に顧客ファーストにつながったと考えるのが自然でしょう。その顧客ファーストのあり方は経営戦略としても基本路線として正しかったと言えます。だから資産価値を最も伸ばしたMLB史上最も成功したオーナーこそ、ジョージ・スタインブレナーなのです。

それに対してハル・スタインブレナーは、ヤンキースという事業体の黒字化を最大化するべく、まずコスト削減ありきの方針をはっきり取っています。そしてそれは経営戦略としても間違ったあり方です。チーム戦略としても、経営戦略としても基本、間違っていることにハル・スタインブレナーは気づいていない。

改めてこれまで当ブログで書いてきたことをまとめると、チームの強さを決定する主なファクターは7つあると考えています。これらが変数となってた連立方程式を解くことによって最終的な解がアウトプットされる。自分の中でヤンキースについてどう考えているのか、すっきりわかりやすくまとめるとこんな感じです。

<オーナー>  ★☆☆☆☆☆☆
大局観 戦略的柔軟性、状況判断力に著しく欠ける。能力に大きな疑問あり。

<資金力>   ★★★★★★☆
腐ってもヤンキース。リーグ1位のペイロール。しかしリーダーがケチなためにその本領を全く発揮していない。

<監督>    ★★★★★☆☆
ペナントを任せるにはうってつけ。実績もあり間違いなく優秀、有能な監督。

<GM>     ★★★★☆☆☆
平均以上の能力は持っている。でなければ10年前にとっくに解任されている。

<力>     ★★★★☆☆☆
2017本来的な実力はセイバーの予測や評論家の下馬評にもあったようにリーグ平均よりやや上、3.5くらいか。

<運>     ★★★★★★☆
2017のバイオリズムとしては完全に上がり目。出来過ぎ感はある。

<キャッチャー>☆☆☆☆☆☆☆
未知数ゲーリー・サンチェス。リーグ最強レベルだった場合、ヤンキースの命運は大きく変わります。

「ヨギ・ベラの再来なるか ゲーリー・サンチェスがヤンキースの未来を担う」

「田口壮の解説力 その奥深さを探る」

にも書いてきたように単年度の結果については、監督で99%決まるものでもなければオーナーによって99%決まるものでもなく、ベースボールとは多元的な要素も絡みながら、そこに運やバイオリズム、サイクルも一定の割合で介在し最終的な結果がアウトプットされるスポーツです。

ただし歴史のトレンドレベルで眺めた時 最も大きな影響を持つのはオーナーの姿勢であり、戦略的な思考力です。

結論

10~20年単位で観客動員(経営戦略を測る上で最もわかりやすい指標)およびPOにまつわる勝利の生産性(チーム戦略を測る上で最もわかりやすい指標)この2点によってドジャースとヤンキースの行く末を見守ってみてください。必ず戦略性の違いが数字としてもその違いが出てくると確信しています。

ドジャースの首脳陣は間違なく戦いの原理を抑えている連中です。ヤンキースに目があるとすればやはりGM及び監督の奮闘に尽きます。曲がりなりにも資金力はリーグ1位ですから。ただ一点、オーナーはどっかからどう眺めても基本的に戦いがまるでわかっていない人物である。

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大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。