前田健太はクワーズフィールドをやり過ごせるのか

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04 /23 2016
この記事はどちらかというと日本の広島ファン向けに書いた感じです。では行きましょう。ERA 0.47が大きくクローズアップされているLADの前田健太ですが4/19時点の成績が下記です。

K/9 7.11 BB/9 1.89 xFIP3.71 FIP3.03 ERA 0.47 LOB率100 BABIP250

そしてこちらが4/22時点の成績。

K/9 7.11 BB/9 1.89 xFIP3.59 FIP2.94 ERA 0.47 LOB率100 BABIP250

4/17に登板してからは一切投げていないにもかかわらず、よく見ると3日違うだけで指標の数字が一部変わっているものがあります。どの指標が変わっているのかというとxFIPとFIPです。この数字はいずれも前田がこれから一切投げることはなくても、試合がMLBで行われる限り、ずっと変動してゆくものです。

なぜxFIPとFIPが毎日変動するのか?

その理由は、毎日MLB全体の平均ERAが変動する度に、MLB全体の平均xFIPと平均FIPも平均ERAの数字と全く一致するように、毎日常に定数を変動させているからです。なぜこうした微調整を毎日するかというと、xFIPとFIPという数字は、ERAと比較するために作られた指標であるからに他なりません。ERAはサンプルが大きくなるに従って、xFIPやFIPへ近似してゆくという統計的な法則があります。この法則を最初に気づいたのがボラス・マクラッケンという人であり、セイバーメトリクス史上、最大の発見とも言われています。

LADの新思考派の首脳はおそらく、前田健太の実力を推し量るに何を重視しているかというとおそらくxFIPです。その実力を評価するにはSIERAでもいいですがxFIPで十分でしょう。FIPでもいいですが、理由はここでは述べませんが前田についてはxFIPがより現実的だと考えています。この数値が3.59ということは、現時点で前田のERA0.47は3.59を目指して推移してゆくことを意味しています。よって十二分に前田の実力もLADの首脳陣は評価しているものと考えられます。xFIP3.59なら3番手には入っていてもおかしくない優秀なスターターです。

昨年5月はじめの段階でカーショウがERA4.00台半ばの時、FIPは2.00台後半でした。この時もLADの首脳陣は左程慌ててはなかったと考えられます。なぜなら、カーショウのERAが2.00台へ向かって下降してゆくことが十分に予測できたからです。日本のメディアのように前田のERAをクローズアップしてもいいですが、LADの首脳は仕事ぶりとして前田のERAを評価しつつも、同時に冷静に前田の実力についてはFIP等で評価しているものと思われます。過大にも過少にもどちらにも偏らないバランスの中で、セイバーメトリクスも眺めながら前田を評価するのがいいのかもしれません。

前田の場合E-Fの乖離がここまで激しくそれを裏付けるようにLOB100 BABIP250 と運にも相当恵まれていることがわかります。ERAがFIPへ向かうにあたってLOBも長い時間をかけて75前後へ収束し、BABIPも295前後へおそらく収束してゆくことなるはずです。ただしこれらの話は投手によっては1年という単位の話でもないので誤解のないように。ちなみにNLサイヤングには最低FIP2.50前後は必要ですので、まずはサイヤングについても前田のFIPも2.00台中盤に突入してからの話ということになりそうです。更に言うならば投球回数がリーグ3位以内に入っていると現実味を帯びることになります。NLにおいてFIP3.00台のサイヤングはまずあり得ませんから。

「被弾率の高い NYYエース田中の行く末」

まとめ

●FIPとERA、両方ともバランス良く眺めて投手は評価しよう
●MLB全体のxFIP=FIP=ERAであり、3者の誤差は毎日補正されて必ず0となっている
●投手のスタッツであるxFIP、FIPは投げていなくても基本毎日変動する

MLB最大のヒッターズパークであるクワーズフィールドという難敵をどう回避できるのか、前田のERAにとっては特に大事な試合になりそうです。大炎上の可能性についてあの球場に限ってはどの投手であっても否定できるものでもありません。


撤退戦略 最もGMの勇気が試される時 

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04 /14 2016

2015のSDはケンプ、アップトン、キンブレム、シールズという大補強を敢行して、PO進出に勝負をかけました。プレラーGMのその鮮やかな手腕に球界全体がどよめいたわけですが、結果チームは早々と失速しました。これをもってパドレスの戦略における大失敗と言っているのではありません。なぜなら戦略的な正しさが短期的に必ずしもそれにふさわしい結果を保証するものではないからです。それがベースボールというゲームの特性です。

プレラーGMの見せたチームつくりのプロセスそのものはみしろ見事であったと言ってもいいでしょう。問題は大補強への投資が失敗したことが明らかになったところで、プレアーは速やかに、撤退戦略へ完全にシフトしなければなりませんでした。しかし実際はグダグダ、フラフラと煮え切らず何も決断できずに7/31という日を迎えたのが現実でした。本来なら7/20頃からの仕事は期限までにアップトン、キンブレム、ベノワをなるべくどう高く売るのかという仕事へ全力を傾けなければならなかった。プレラーが撤退戦略の重要性を真の意味で知らなかったことの証明です。

ではなぜプレラーは撤退へ切り替えることができなかったのか?

それは行動経済学が株式投資において最も難しい決断のひとつが<損切り>であることを明らかにしたように、人には欲目というバイアスがどうしてもあるからです。「撤退こそ、リーダーが最も勇気を必要とする場面である」。そう孫正義という稀代の戦略家も言っています。退散することは自ら負けを認めることでもあり、決してカッコいいものでもありません。しかしプライドを圧し殺し、時には撤退も重要な戦略の一部であることを悟らなくてはならない。戦国の世において戦さで最も難しいのは殿(しんがり)であったように、まさに撤退戦略にこそリーダーの実力が真に示されることになります。第三者の目からすれば7月中旬にはSDの結果が見えていた以上、キンブレムはともかく特にアップトンについては、放出してプロスペクトを獲得すべきでした。

しかし当事者の立場になると、欲目というバイアスゆえに、いつかPO進出へ向けて反転するのではないかという甘い観測の元、ズルズルと決断を遅らせてしまったというところでしょう。もしあれだけの鮮やかな攻勢を仕掛けつつも、7月の下旬においてSDのGMプレアーが売り手へと戦略を完全に切り替えることができたならば、GMの能力としては超一級であると認定できます。撤退戦略こそスピードが命であり、リーダーとはたとえその事業に対して何千億円を投じても駄目だと判断したなら早く見切りすばやく撤退しなければならない。この撤退戦略がどれだけ難しいかを孫正義は繰り返し言っています。

ちなみに「戦力の逐次投入は最大の愚である」とも言うように、攻撃が得意なプレラーは2015に畳み掛けるように戦力をSDのできる範囲で最大限のパワーを集中させたと言ってもよく素晴らしい働きを見せましたが、その反対にもろに<戦力の逐次投入>をやってきたのがハル・スタインブレナーでした。2013のオフの大補強と喧伝されたシーンなどはその典型です。<戦力の逐次投入>をしてどこが大補強なのか個人的にはさっぱりわかりませんでした。プレラーの2015SDもハル・スタインブレナーの2014NYYも、結果は同じくPOにすら出れませんでした。しかし攻めにおいてプレアーは正しい姿勢そのものを示したと言えるが、2014NYYは十分であったとは到底言えません。

ではなぜ<戦力の逐次投入>をつい、ハル・スタインブレナーはしてしまうのか?

それは彼自身の生来の性質として、リスクをコントロールし回避したがる性向を持っているからであると踏んでいます。とにかく慎重派のハルはリスクをコントロールできなくては気がすまない。ハルにとってリスクとは基本、可能な限り避けるべきもの、忌むべきものです。しかしそれではあまりに平凡な対応なのであり、リスクの本質をもっと深く洞察しなければなりません。リスクの深奥にこそ、勝利の女神が微笑んでいる姿を見出すような者こそが、本当の勝負師というものであり、真の戦略家でもある。そうした勝負師としてのほんとうの深い目をハル・スタインブレナーは持っていないからこそ、<戦力の逐次投入>もふつうにする。

たしかにリスクを己のコントロール下に管理しようとすることは大事なことです。8割がたリスクとはコントロールすべき悪しきものであり排除すべきものですが、残りの2割のリスクの中には<飛躍する大いなるチャンス>が宿っています。ほんとうの戦略家というものは、悪しきリスクをコントロールしつつも、同時にむしろリスクがどこにいるんだとばかりに、それを求めハンターするくらいでなければなりません。もちろんリスクを求め勝負をかけたとしても、リスクがある以上結果負けることもあります。問題はこの負けた時、どれだけ撤退戦略を速やかに決断し実行し次に備えることができるのか、それが大事なのだと孫正義は言っています。

勝負に出て結果失敗した2015SDのプレラーをあざ笑うほど、愚かな下種もまたいないと言って良いでしょう。「大補強しても、成功するチームってなかなかいない。」こうした結果論でしか語れない浅薄なコメントだけは絶対に避けたいところです。誰も鉄板おすすめする若き才能溢れるブライス・ハーパーを獲得しに行くのもいいです。しかし、ガチガチのところだけを選びたがるというのも実は別のリスクを内包しているという視点は絶対に持っていなければならないものです。


ソフトバンク「孫の二乗の兵法」

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04 /09 2016

ソフトバンクの孫正義さんに興味が出たので何冊か本を読もうとしているところですが、その中の一冊に「孫の二乗の兵法」というタイトルの本がありました。このタイトルを見て、もしかして・・・すぐにピンと来たのですが予想通りでした。

7番セカンド カノのNYYには華があった 強者は時間を包囲せよ


この記事の根底にあるリベラルアーツは、「ランチェスターの法則」であるとも書きましたが、「戦力の逐次投入は最大の愚である」という原則をランチェスターという人は「戦闘力とは<兵力数の2乗>に効く」という数式を通して明らかにした人であります。孫正義という人は事業を始める前段階においてどうやらまず、東洋の孫子と西洋のランチェスターの教えを戦いの聖典として戦略の研究を徹底して行ったようです。「孫の二乗の兵法」という本はその成果をまとめたもののようです。

ドラッカー、クラウゼヴィッツ、リデル・ハートなど戦略論もいろいろありますが、結局行きつくところは孫子とランチェスターにあると言って過言はありません。孫正義という人は戦略の研究家という側面を持ちながら、その掴み取った戦いの原理原則を仕事の実践の中において生かしてきました。リスクをひたすら取りながらチャンスのあるところ大胆に行動するとともに、失敗すれば速やかに撤退し、未来に対して大きな可能性のある分野はこれだと決断するや勝負を打って出て一点にあらゆる経営資源を投下し、最終的な成功を収めてきたようです。ソフトバンクの株価も一時期は1/100ともなり紙屑寸前までもいったことがあったらしいですが、まさしく死線を何度もくぐり抜けきた強者であり、戦略家である以上に勝負師という印象を強く持ちました。想像以上にアグレッシブであり、多くの失敗もし、故に損切りも数多くしてきたようです。

先日<大胆さ>と<慎重さ>は戦略的な正しさとしては等価だと言いました。両方とも大事であるという意味では等価ですが、実際の戦いにおいては勝負に打って出る<大胆さ>が8割、そのチャレンジした中には多くの失敗もあるため時機を見て潔く撤退する<慎重さ>が2割と言ってもいいかもしれません。いずれにしても単に攻めるだけではなく、撤退することの重要性も繰り返し孫正義は説いていました。

ソフトバンクの孫正義の言葉に思わず当ブログが反応してしまったのも、その背景にランチェスターや孫子の姿が明らかになればこそなのですが、実はその人の動きや何気ない言葉から、その戦略性はある程度うかがい知ることは可能です。例えばNYYにジラルディという監督がいます。どちらかと言えば不器用でもありマドンのような策士といった感じでもなく、動きも少なく見ようによっては凡庸に見える可能性すらあります。しかしその采配の奥に秘められたジラルディのシーズン全体を見渡すような冷静なる戦略的立ち振る舞いを、当ブログでは的確にキャッチしなければならないと考えています。ジラルディの部分的なエラーだけを拡大して眺めてもよくはわかりません。

表層的な部分しか見ることができない人にとって、ジラルディへの評価で厳しいものになるかもしれません。しかしもっと奥にあるものを透視できるような目があればジラルディという監督はペナントを任せるには安心して任せられる優秀な指揮官であることがわかります。少なくとも私はジラルディという監督に対しては正当な評価をしなければならないと考えています。一方、孫子やランチェスターを学んできた限り、繰り返し恐縮ですがハル・スタインブレナーが優れた戦略家でもなければ、大胆な勝負師でもないことだけは確かです。リスクを徹底して管理しなければ気が済まない経営の黒字第一主義者といったところでしょうか。まず黒字をがっちりと確保して後、そこからようやくファンサービスとしてのFA補強もすることになるはずです。孫正義とは入り口が真逆であるということですね。最初に黒字をがっちり抑えるところから入るのか、まずは顧客満足を上げ結果大きな黒字を得るのか。両者は全く違います。

結局チームの趨勢を決める要素は大きく三つあります。

●資金力も含めたオーナーの姿勢。
●その資金を使って選手を獲得するGMの選手を見極める力。
●GMが用意した選手を的確に使いこなす監督の用兵。

ここにプラスアルファとして<運不運>がかかわってきます。期待していた主力が怪我で戦線離脱するといった不運もあれば、なぜか主力がその年に限って揃いもそろって、キャリアハイに近い成績を残すという幸運もあるかもしれません。こうした複合的な要素が複雑に絡み合って、最終的な順位というものも決まるはずです。野村克也はかつて監督の力でチームの趨勢の99パーセント決まるとし、自分で自分を誉めるという極めて恣意的な分析をしたことがありましたが、ミラクルメッツの監督・ギルホッジスはチームが勝つために最も重要なのは、良い選手が揃っていることといい、魔術師・三原脩はオーナーの姿勢こそが最も重要であると、各々がいずれもかなり客観的に分析を行っています。

孫正義がソフトバンクのリーダーであっても必勝ということもないように、ハルがリーダーであってもNYYがWS制覇することもあるでしょう。当たり前のことですが、オーナーの能力はひとつの重要な要素ではあっても、それでチームのすべて帰趨を決するわけではない。結局チームの趨勢を決める複合的な三大要素(資金力・GM・監督)が、運という要素も絡みながら時間とともにどうグラデーションしチーム力として融合してゆくのか、その様をライバルとの比較においてどれだけ的確に想像できるかが、順位の予測する上でとても大切になってくるような気がします。少し頭がすっきりした気分です。ということで2016NYYはすでに終わったというのは、言い過ぎで若干修正を加えておきます。ジラルディが監督であれば、シーズン全体の成績をそれなりの戦力でもある程度整えてゆく力は抜群な監督であるために、運も味方すれば2016NYYにも多少の希望はあります。


2016NYY 「お前はすでに終わってる」

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04 /09 2016

情報によるとすっかりハーパーがヤンキースに入るのは既定路線とのことですが、【MLB】ヤンキースのB.ハーパー獲得は既定路線? 契約額は470億円規模か という記事が2016年2月5日にupされること一ヵ月半前になります。

「2018年 ハーパーをターゲットにヤンキースは動く!!」

2015年12月20日の記事において書いたように、ハーパー獲りを睨んでNYYは今オフ派手な動きをすることはないとした当ブログの予測は基本ほぼ想定通りであったということが言えます。<ジョージ・ウェイ(ジョージ・スタインブレナー流)>のように大号令を出してGMに裁量権がある程度与えられていた時代であれば、キャッシュマンGMが一人の重要なキーパーソンになってはきます。しかし<ハル・ウェイ(ハル・スタインブレナー流)>の時代にあっては、これまで指摘し続けてきたように予算管理を完全にコントロールしているのはハルであり、TOPの経営戦略的なターゲットが「ぜいたく税ライン」を切ることに絞り込まれている以上、もはやキャッシュマンの持つ働きというものは現時点においては極めて限定的です。

不気味な静けさを保っていたNYYについて、悪の帝国を司るキャッシュマンのことだからいつ何時、何をやる出すかわからないなどと指摘していた記事が如何に的外れであったかも明らかになりました。もはや悪の帝国というキャッチは2010年以前の時代遅れなものであり、あのオーナーが座っている限り、一定のリスクも織り込み済みなハーパーなどには大型の投資をしても、良くも悪くも冒険するチームではなくなったと考えるべきです。良く言えば真面目、悪く言えば遊びがなく実につまらない。それこそが<ハル・ウェイ(ハル・スタインブレナー流)>の最大の特徴であり、今日のスタメンなどにも全く華がないという特徴が見ることができます。7番セカンド、カノであったジョージの時代とは一線を画するべきです。

ここからが問題なのですが、この2015オフの静けさについて正しい動きであるとするライターが多い中で、当ブログは戦略的に明らかに間違っていると一貫して指摘しているわけですが、どちらが正しいのか最終的にはあと10年程度の時間があればそれは明らかになります。当ブログではジョージが死去した2010年を境として勝利の生産性は確実に落ちると結論しています。ベースボールというゲームは<運>という要素の比重が大きいために、未来について不確実なゲームではあり一回くらいWS制覇することはあっても、戦略が間違っていれば勝利の生産性は確実に落ちることになります。

ところで先日とても興味深い記事に「ソフトバンクの孫オーナーが金満野球の批判に反論!」があります。この記事を読んだ率直な感想は、孫正義というオーナーの描く戦いの構想はハル・スタインブレナーとは真逆であり、ソフトバンクの孫オーナーはほんとうの意味で実に戦略的であるこということでした。孫正義は言うまでもなくIT業界で一代で天下を取った男でもありますが、その戦略の原点は「孫子の兵法」にあると言われています。東洋のビルゲイツとも言われてその個人資産だけでも2兆円へ届かんとしており、ドナルド・トランプの資産を遥かに超えて東京ディズニーランドとディズニーシィーの両方を建設し、かつ40億ドルには満たないNYYそのものを購入してもまだ資金に余剰はあるという超金満ぶりです。

IT業界のみならずプロ野球に戦うフィールドは変わっても孫正義は天下を取ったように、領土を奪いあう命をかけた戦争に如何に勝ち生き残るのかという戦いの原理原則を示した<孫子の教え>は、資本主義における激しいシェア争いのみならず、野球の世界における戦いにおいても、共通する普遍的なルールがあることを示唆しています。

「ソフトバンクの孫オーナーが金満野球の批判に反論!」の肝となる部分には、孫正義が<チーム戦略>と<経営戦略>を巧妙にリンクさせ、正のスパイラルを形成し常勝かつ黒字を持続して具現させるべくその戦略構想が描かれています。それはかつて当ブログが是としてきた「ヤンキース帝国の黄昏」シリーズで繰り返し、ヤンキースが本来取るべき戦略であると主張してきたことと内容は基本一致しているものです。例えばMIAのローリアのように<チーム戦略>の目標である「優勝」は捨てて<経営戦略>の目標である「黒字化」をひたすら目指すという、そんなケチな真似を孫正義はしないということです。ローリアなどよりも、もっとスケールの大きな考え方を構想できる男です。

翻って孫正義という現代を代表する戦略家と二代目のハル・スタインブレナーがこれほど対極な姿勢を示しているのか、について考えてみるに、どうも重要なキーとなるものが<独占禁止法>ではないかと思うのです。孫正義が携帯事業やITといったマーケットで強力な競争相手とタイムベースで凌ぎを削って戦ってきたのに対して、MLBという業界はそもそも独占禁止法から唯一除外されているビジネスです。マーケットを独占できるが故に時間に関するコスト感覚を持たなくて済むならば、MLBの経営者として最大のコストは言うまでもなく、人件費となります。また人気に胡坐をかいて一定の売り上げを確保しようと思えば、超高額チケットを維持することになります。マーケットの独占が許され実質的なライバルがないために、そこそこ客が入れば値下げする必要性もありません。「売上」となる入場料は高く維持し、「コスト」であるペイロールを減らせば、NYYの黒字は大きくなります。しかし黒字を目指した結果、ヤンキースの観客動員は減少の一途であり、チームも弱くなるのは必然です。

更には独占禁止法から除外されていることは、チームの資産価値にしても大きな意味を持ちます。例えば潜在的にヤンキースのようなチームにはどこの州でもほしいというニーズは大きくあります。一方、供給が30チームと限られるわけですから、常に「需要>供給」となり、MLB機構の戦略がしっかりしてさえいれば、ワインを醸成するように黙ってチームを保有しているだけでその資産価値は時間とともにどんどん上昇してゆきます。

マーケットの競争に絶えず晒されている民間では、スピードこそが貴重な経営資源なのであり時間とはコストそのものです。ところがマーケットを独占することが許されているMLBというビジネスにおいては、(チームの順位は争っても)経営の観点からすれば激しい競争に晒されて会社の生き残りをかけた戦いなどすることも皆無であり、時間とはコストであるどころかチームを所有しているだけで勝手にチーム資産は上がり、結果スピードに対する意識は希薄となり、ハル・スタインブレナーに感じる独特の生温さを育んでゆくことになる。

ではもし孫正義がNYYのTOPに立ったら、どういうことをするでしょうか?

おそらくこういうことをするはずです。まず高額チケットを抜本的に見直し、平均10~20%オフの大胆な価格政策をぶち上げて、観客にハッと思わせて動員の減少に歯止めをかけることになります。東京ドームの巨人開幕戦などぎっしりとは対照的に今日の試合もヤンキーススタジアムの内野席は空席が目立っていました。5パーセント程度の値下げというようなケチな真似を孫正義はしません。大震災でも100億円の寄付をし、突然ヤフオクでも出品料金をゼロとしたように、戦力の逐次投入は最大の愚であることは百も承知であり、孫正義はまずハッとさせて関心を引き大きく集客しパイを大きくするところから始めます。多くの客が集まったところで、かつて値下げして減った利益を補填するべく、薄く広く多くのファンから回収するという段取りを踏みます。

更に収支のバランスを眺めてもまだ財政的にもNYYは余裕はあり、もちろん生え抜きも大事ですからドラフトの権利をうしなわないFAでの補強、もっと言えば優勝するためにプライスを確実にゲットするべく積極的投資をしペナント前からすでにファンが高揚するような方針を打ち出すことになります。

チケットが安くなり、プライスを獲得し本気で優勝を狙えるような体制を提示すれば、ファンはどういう動きを取るでしょうか。多くのファンに球場に足を運ぶようになり、その黒字を積極的にファンサービスのために戦力補強へ再投資をしチームが強くする。強くなれば、ファンはまた球場へ見に行きたくなるという黒字と強さの正のスパイラルが形成することをソフトバンクは実践してきたということです。この孫正義の戦略こそNYYも採るべき戦略であるということを当ブログでは繰り返し言ってきました。ソフトバンクの戦略は新人をも大事にするという意味では、<ジョージ・ウェイ(ジョージ・スタインブレナー流)>よりも更にステップアップされたものであるということもできます。

MLBの初心者の方が「NYYは悪の帝国と言われてきたが、なぜ2015オフにはほぼ全く動かなかったのか」という疑問について、「2015FAで一切動かなかったのも今NYYは新人を多く集め、チームの若返りを目指す過渡期にあり、2018オフにターゲットを合わせて戦略的に静観を決め込んでいるのであり基本正しい動きをしているのである」という解説も多く見かけます。しかしこれはほんとうの意味での解説にはなっていないのではないのか。このことについては、当ブログでははっきりと指摘しておきたいと思います。

尚、今回の記事の根底にあるリベラルアーツは、軍事の天才・ナポレオンとそのナポレオンを破ったプロイセンのクラウゼビッツにあります。

戦略的正しさについて ~なぜNYYはカノを放出してはいけなかったのか?

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04 /07 2016

NYYの累積ぜいたく税額が3億ドルを超えたという報道もありましたが、年平均にすれば3000万ドルです。例えばこの3億ドルという絶対値にのみ目を奪われ、だからNYYはぜいたく税ラインは切ることこそが戦略的な最大の課題となるわけではありません。このことついては最初に指摘しておきたいと思います。10年前よりNYYは収入は倍増しているが、ペイロールは10年前とほぼ変わりありません。収入が半分であったジョージの頃から今と変わらない2億ドルのペイロールを支払いかつぜいたく税も2000~3000万ドルを支払っていたわけです。10年前と比べて収入が減っているなら、十分にぜいたく税へケアするのもわかる話なのですが、ほんとうに今NYYの喫緊の課題はぜいたく税ラインは切ることなのでしょうか。単にぜいたく税の累計額のみフォーカスすることなく、これはあくまで収入と支出の全体のバランスでこの問題も捉えられるべき問題なのです。収益は一貫して右肩上がりです。視野を限定させることなくもっとより大きなバランス感覚をもって、ぜいたく税についても眺めるべきではないでしょうか。

しかし勘違いして欲しくはないのですが、戦略的な正しさとは、ぜいたく税など関係ないとばかりに常にイケイケドンドンで攻めまくることでは断じてありません。

グリンキーショック、LAD岩隈を獲得する

例えばこの記事では「なぜLADは金が多くあるのにグリンキーを抑えなかったのだ」という一般的に見られたフリードマンへの批判的な論調とは一線を画しており、グリンキーについて中長期の戦略を睨んだ時、サラリーがあまりに高すぎて財政の柔軟性を損なうならば手を出さないという今回の判断こそが、LADにおける戦略的な正しさとなると明言しています。グリンキーを逃した=間違った判断であるとは結論していません。同時にその記事ではNYY2013のカノは絶対に抑えておかなくてはならない案件だったとも言っています。このふたつの案件に対する対照的な見解からもわかるように、単に積極的に攻めるだけが正しいということでもありません。

実は<大胆さ>と<慎重さ>というものはどちらも戦略的に等しい価値を持っているものです。状況判断力が鈍いと、本来大胆に攻めるべきところを慎重になり後手を踏むNYYのハルや2014KCのヨーストのようにもなれば、周囲の流されずに慎重になってぎりぎりところで引き返せるLADのフリードマンのような者もいる。戦略において単に攻めるだけでなく、時には慎重であることも極めて重要であり、一辺倒ではないこうした奥行というのか懐の深さはとても大事になります。

なぜカノは絶対に手放してはいけなかったのかについては、これまでも述べてきました。殿堂入り可能な貴重な生え抜きであるとともにセカンドというディフェンシブなポジションにおける強打の左打者はヤンキーススタジアムにはこの上なくフィットします。何よりもカノを評価する最大の理由のひとつは健康スタミナというツールがMLBにおいても際立って優れたものであるからです。参考までに数字でもただ今調べてみました。ここ10年2007~2016でソートすると、MLBで最も出場試合数の多い選手こそが他ならぬ、ロビンソン・カノでした。スペランカーのエルズベリーやロートルのベルトランにあれだけの金を積むなら、まず最優先事項はカノとの契約ではなかったのか。このブログにその当時はエントリーしていなかったのですが、「カノの放出は大失策以外の何物でもない」とする記事は他の場所にログできっちり残っています。

NYYが見せる<将来の勝利>を大事にして新人育成を図ることはいいことです。それを否定したことなど一度ありません。しかし2015NYYのようにFAには一切動かないという動きは余りに極端であり、亀のように甲羅の中でじっとしていることが戦略的に本当に正しい動きなのかどうか。LADのように<目先の勝利>をFAの補強をし目指しつつ、<将来の勝利>も新人育成を怠ることなく注力するというこのフリードマンの有するバランス感覚の中にこそ、戦略的に正しいあり方を当ブログは見出すものです。

ソフトバンクの孫正義もそうですがLADのフリードマンについても、彼らの動きの中に非凡なセンスを感じます。

大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。