7番セカンド カノのNYYには華があった 強者は時間を包囲せよ

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12 /24 2015
戦略とは勝利の生産性を高めるための時間を支配する技術である。そんな風に言うことも可能かもしれません。時間という観点からNYYを例にして戦略と勝利の生産性についてこれから少し話をしてみたいと思います。

2019年にターゲットを絞り込んで着々と<弱者の戦略>を推進させている(と思われる)ハル・スタインブレナーですが、なぜハル・スタインブレナーが取っているこの戦略を<弱者の戦略>というのかというと、例えばもしあなた自身がスモールマーケットのチームについての戦略立案をすることを考えればすぐにわかるはずです。KCやHOUなどのチームつくりが典型ですがプロスペクトを多数を抱え込む雌伏の時期を過ごし、来るべき勝負の時期に備えて財政力のダムを形成し、ここぞという勝負のポイントが来た時を見て一気にダムを決壊させて力を集中して投下する。これが弱者が取るべき戦略です。このターゲットとするべき時期を予め絞り込みをかけて力をためてここぞというポイントで集中投下するという、弱者の戦略をなぜか金満である強者のNYYが取ろうとしているわけです。

では時間軸から眺めた時、強者はどういう戦略を取るべきなのか?

弱者のようにターゲットとなる時期を絞り込むのではなく、全くその逆で強者は時間を包囲する戦略を取るべきなのです。すなわち満々たる財政力にものを言わせて、すべてのシーズンでWS制覇を本気で狙ってゆくというジョージの手法こそが強者の戦略になる。現実にジョージの時代は当たり前のようにPOに進出していました。ジーターをしてPOこそ本番でありレギュラーシーズンは練習試合とまで言わしめた程です。今となってはPOすらどうなのか若干、心もとない状況にあるのが現状です。ビックマーケットのチームが弱者の戦略を取ることは、それでももちろん勝つことも可能です。しかし「強者の戦略を取ることに比べて勝利の生産性(WS制覇できる確率)は明らかに落ちる可能性が高いですよ」ということを申し上げています。ちなみにこれはベースボールの知識で語っているのでもありません。その根拠としているものとはすべて戦略理論家であるランチェスターの法則にあります。

もう少し具体的に勝利の生産性について数字で述べてみます。

1980年代中盤から後半はオーナーらによるFA市場が全く機能していなかった共謀事件があったのと2地区制でもあり、比較するならばFAが普及しかつ現行の3地区制のワイルドカードが施行された以降で比較するのが環境的にも妥当でしょう。もっともハルの時代にはワイルドカードは2枚に増えているのでそういう意味ではハルNYYの方がPOへは進出しやすいはずです。更に言えば1994年はPOそのものがストで行われなかったためにそもそもWS制覇がノーチャンスでありました。

1994~2009 ボスの時代 PO進出 14回(地区優勝11回) WS進出(リーグ優勝) 7回 WS制覇 5回
2010~2015 ハルの時代   PO進出 4回(地区優勝2回)  WS進出(リーグ優勝) 0回 WS制覇 0回

カノを放出した際、あと20年もすればハルが採用している戦略が正しいのかどうかは数字でも明らかになるとした記事を書いたことがあります。今はまだハル・スタインブレナーの時代のデータが少ないのでなんとも言えません。ただ個人的に研究してきた限り、ハル・スタインブレナーの時代になって以降、戦略そのものが基本間違っているので勝利の生産性は確実に下がるとは結論しています。しかしハル・スタインブレナーがポイントを絞り込み勝負に出るであろう2019年以降でNYYが圧倒的な成績を残せば、私の予測も見事に覆されることになります。そしてその可能性もなくはありません。この辺は事態も流動的でありフェアーに見定めてゆく必要があります。

すべてのシーズンにおいてWS制覇を本気で狙うジョージ・スタインブレナーの手法を可能とするチームは現MLBにおいてはNYYやLADなど実に限られています。もし仮にスモールマーケットのチームがジョージ・スタインブレナーのように毎シーズン勝負で突っ込んだところで財政力が限られているため、すぐに息切れを起こし、弱者が毎シーズン全力で突っ込むことは逆説的に100年経っても一向に勝つことができなくなるという結果に必ずなります。やはり弱者は力を集中投下すべきターゲットを絞り込んで戦うことが正しい。ではビックマーケットのチームも同じように弱者の戦略を採用すべきなのでしょうか。

個人的にいろんな意見を読んでいて感じるのはベースボールの知識と戦略の知識は別物だということです。例えばシェルビー・ミラーを獲得した際にATLへ差し出した面子が豪華すぎるといったそのトレードのみの損得を見て反応も多数ありましたがこれはベースボールの知識が元になっています。しかしARIにとってスターターの整備は2016喫緊の課題であり、むしろここでトレードをしなければグリンキーへ投資した価値は半減してしまう以上、戦略レベルではこのトレードはトータルとして眺めた時、是となる可能性がある。トレードにおける戦術レベルの小さなエラーも戦略レベルにおいて大きく取り戻すことは可能であるという視点が大事になってきます。結果はどうなるかは神でさえ予測不可能であることは複雑系の科学によっても明らかですが、少なくともプロセスだけ切り取って見た時、ARIの選択がおかしいとは感じません。ランチェスターの法則を知っておくと、MLBの戦略家の動きというものの優劣がある程度見分けられるようになります。戦略の理論について知りたい方には最低限ランチェスターの法則を個人的におすすめしておきます。

 ベースボールの知識だけで戦略について学ぶことは不可能である。

2009年WS、NYY7番打者は誰であろう、カノでした。あのチームはほんとうに強く、文字通りスター軍団であり華もあった。当時はもうその前年にオーナーはハル・スタインブレナーに交代していたが、あのチームを作ったのは紛れもなくジョージ・スタインブレナーでした。カノとの契約でさえ躊躇した人物です。Aロッドに10年契約をハル・スタインブレナーが結べる度量があるはずもありません。あのAロッドの2007年からの契約を無謀であると決め付ける記者もよくいます。私はそもそも記者の意見が必ずしも正しいとは考えていません。たとえAロッドが薬物の事件に巻き込まれようともジョージ・スタインブレナーが2007年に下した判断そのものは正しく、一貫して支持するという姿勢は今もって全く変わりはありません。結果だけで判断することはしないつもりです。その考えを敷衍すればAロッド10年契約は正しい判断であったように10年契約を求めたカノの放出は大失策という結論にもなります。

戦いの原理に基づいて考えている以上、意見に一貫性を持たせてゆくつもりです。


参考記事

「もう一つのブラックソックス事件」マービン・ミラーの慧眼

NYYのペイロールは3億ドルへ増やすべきである 続・ヤンキース帝国の黄昏 

いずれ「戦略とは何か?」というテーマで一度書いてみたいと思います

2018年 ハーパーをターゲットにヤンキースは動く!

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12 /20 2015


オプトアウトも含めて2018年になると下記のような層々たる超A級のメンバーがFA市場に溢れだすことになると今から一週間前に向こうでも記事になりましたた。WAR5.0を超える選手がずらっと並んでいます。選手協会とMLB機構の新しい労使協定(CBA=Collective Bargaining Agreement)を2016年12月2日から新たに締結することとになり、贅沢税のラインも現行の189Mからおそらく210Mレベルまで引き上げられるのではないかと個人的には予測しています。ハル・スタインブレナーも2018年のシーズン終了時一度贅沢税ラインを下回るようにリセットしサバシア・Arod・タシェアラが抜けた分をハーパーへという算段であることはMLBに関心のある者なら誰でもすぐ気づくに違いありません。それまではNYYもドラフト重視で安いサラリーで有力なプロスペクトを蓄えつつ、2019年以降一気にスパートするという典型的な弱者の戦略をハルは描いていることは想像に難くありません。

ハル・スタインブレナーであれば如何にも考えそうなことであり、先回りしてこの記事を書いています。

●Infielders
Manny Machado
Josh Donaldson
Dee Gordon
Jose Iglesias

●Outfielders
Heyward *
Bryce Harper
Andrew McCutchen
A.J. Pollock
Michael Brantley
Adam Jones

●Starting pitchers
Price *
Clayton Kershaw *
Jose Fernandez
Matt Harvey
Dallas Keuchel
Shelby Miller
Garrett Richards
Jose Quintana

●Closers
Craig Kimbrel
Trevor Rosenthal
Andrew Miller

しかしそうした戦略を描いているのはNYYだけではない。例えば2018年にターゲットを絞っているチームにかつての金満で名を馳せたPHIがいる。現在ハワードの契約も含めて不良債権が完全にリセットされるためにかなりの強気で攻めてくる可能性がある。LADも足元を掬われてグリンキーをスモールマーケットのARIがさらっていったように、他のチームも虎視眈々と満を持して銭闘に挑んでくるに違いありません。ただ結論としてハル・スタインブレナーの性格を考えれば26歳で市場に出るハーパーに対しては、10年契約ということであれば贅沢税ラインを切った勢いも合わせて他の追従を許さない歴史的な金額を突っ込んでくる可能性が極めて高いことが考えられます。しかしスタントン式の14年契約を持ち出し総額でケリをつけるところが出ないとも限りない。こうした想定外にはハルはおそらく負けることになる。なぜなら勝負度胸に欠けるからです。いずれにしてもハルは単なるケチなどではなく、ただ明らかに不良化すると思われるムダ金を払いたくないだけである。(ちなみに当ブログでは強者なら戦略上、清濁併せのみ、無駄も許容すべきだと言っている)


現時点では総合的に見てハーパーはNYYに行く可能性がかなり高いのではないだろうか。


マーケットの状況も合わせて日本ハムの大谷もポスティングがいつになるのかも非常に興味深いものがあります。日本で最高の成績を残し、かつMLBの市場にスターターが少ない時期にかち合せた時、いったい何億ドルの契約を結ぶことになるのだろうか。ふつうに考えれば2018年は避けた方がより良い契約を結べる可能性が高くなる。大谷自身、日本ハムへ入団したことが正解であったと現時点では考えているに違いありません。これまでの成り行きを見る限り、入団交渉時に日本ハムが提示した未来予想図以上の展開となっていると見ても良さそうである。

NYYは金満でもあり弱者の戦略を採用しようがこれからももちろん勝つこともある。しかし私が問題視しているのはハルというオーナーになってから<勝利の生産性>は確実に下がってくるであろうその可能性の高さにこそある。なぜなら<金銭に対するコスト感覚>は実に鋭敏であり、ハルの描く戦略においてペイロールというコストは極めて重要な位置を占めていることは明らかであるが、反面、<時間に対するコスト感覚>がハルには決定的に欠如しているからである。

全く今ストーブリーグから気配を消してしまったNYYを見てもわかるように、状況に関わらず自分の決めたことをコツコツと推進してゆくのがハルの本質でもあり最良の資質かもしれない。管理者としては十二分に有能な人物なのではないかとも思う。どうやらハル・スタインブレナー率いるNYYにとっては2019年以降が本当の勝負であり、27歳のハーパーと25歳の大谷の両獲りによって一気に人気実力ともに回復する可能性を秘めてはいるが果たしてNYY最大のキーマンであるハルはどう決断するのだろうか。2018オフの勝負の時期の動きでハルの本質がはっきりする。ここで本当の意味で畳み掛けなければ相当の無能と言ってもいい。


どうしても勝つことが好きで派手好きなジョージならハーパーと大谷の両獲りくらいほっといてもやる。(笑)そういう意味ではファンはとても安心だったに違いない。ジョージなら必ずやってくれるに違いないって。


日米におけるフリーエージェントの違いと行動経済学

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12 /16 2015
日米におけるFA権の行使率の違いを文化や民族性の違いの寄るものであると、以前書いたのですが、論点がずれているという指摘がありました。その後じっくり熟考するにたしかに私の考え方は浅はかだった可能性があると思い直し、再考しました。


当ブログの中心理念ともなっているリベラルアーツの一技法として<行動経済学>について、本を読んだりすることもあるのですが、行動経済学のアリエリー教授は「人はある重要な決定をする時ですら、デフォルトの形式に則って選択する傾向を持ち、楽な道を選びたがることが統計的にも明らかになっている」と言います。

MLBではワールドシリーズ終了後5日後までに所属チームとの契約が締結されなければ、すべての選手が自動的にFAになるのに対して、NPBでは日本シリーズが終了した日の翌日から土、日、祭日を除く7日間以内に、FAの権利を行使するかどうかを表明する。つまりデフォルトの選択がそもそもMLBでは自動的にFAになるのに対して、NPBではFA宣言をしなければ自動的に元の所属チームに収まるということになります。このデフォルトの設定こそがFAの行使率に甚大な影響を与えているとの指摘はやはり行動経済学の観点からして全く正しいです。

つまり狩猟民族か農耕民族かという私の考察は、ある意味的外れと言えなくもありません。しかしながらここで更に踏み留まって考えてみたいのです。なぜMLBのデフォルトはFAに自動的になり、NPBのデフォルトは元の所属チームへ帰属するようになるのか。日本では生え抜き第一主義が深く根ざしており、まだトレードについては外へ放り出されるとか、FAに関してはチームを裏切るという空気が少なからず蔓延しています。日本では移籍そのものが文化的に必ずしも好ましいものとして捉えられていないためにデフォルトの設定が元のチームへ帰属するままになっている一方で、アメリカでは狩猟民族でもあり、キャリアアップのために転職することが当然であるという文化があるため、デフォルトが自動的にFAになる設定となっているのではないか。つまりデフォルトの設定そのものがすでに両国における文化や民族性の違いとして織り込み済みとなっている可能性が高いのではないかということですね。デフォルトの設定か文化や民族性の違いかという風に、二分法の考え方を私なら採用しません。糾える縄の如しであり、不可分のものとして互いに絡み合っていると考える方がより健全であるという立場を私なら取ります。 ちなみにリベラルアーツとは、古代ギリシャを起源としたものであり偏見や固定概念から自由になるための技術のことです。「リベラル」は自由、「アーツ」は技術、芸術、学問を意味しており、リベラルアーツには七つの技法があるとされています。

ベースボールのリベラルアーツの一つとして真っ先に挙げられるものとは統計学です。私も度々分析記事を書いていますが、単なるセイバーオタクなどではないことはアンチ・セイバーメトリクスの立場を明瞭に打ち出していることからもなんとなく想像がつくのではないかと思います。あくまでリベラルアーツとしてのセイバーメトリクスであるということです。あるいは戦略論なるものもリベラルアーツの一つとして挙げてもいいでしょう。他にもいくつかあるはずです。


これから当ブログの基本理念ともなっている私が考えるリベラルアーツについても少しづつ記事にしてゆくつもりです。例えば解説者やコラムニストであってもレベル差は極めてありますが、このレベル差についてある程度的確に見極めてゆくにはリベラルアーツは必須です。



もし四割打者のジョー・ジャクソンが現代に生まれていたら

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12 /14 2015
ケーブルTVの放映権をはじめとし、ロゴが入った商品化を行うマーチャンダイジング、スポンサーシップなどによってMLBの莫大な収入増加によって、選手のフリーエージェントのマーケットは右肩上がりのインフレ路線をひた走っている。シーズンオフになっても尚MLBファンもストーブリーグを楽しめ、今の選手たちがこうした富を享受できるのも過去の偉大なる先人たちが多大な犠牲を払ってその礎の上に築かれているものです。

四割打者の一人でもありタイカッブやジョージ・シスラーと同時期に活躍したジョー・ジャンクソンがいます。ブラックソックス事件に巻き込まれた悲劇のヒーローでもあり終身打率356、MLB史上3位。しかしタイ・カッブが同時代にいたため一度も首位打者を獲ったことはありません。奇しくも1911年にこのジョー・ジャンクソンが作ったルーキー最多安打記録233本は、2001年に日本からアメリカに渡ったルーキーによってほぼ一世紀ぶりに破られることとなります。

このジョー・ジャクソンを含めたホワイトソックスの8人を八百長へ駆り立てたものとは、吝嗇家でもあったオーナー・コミスキーがホワイトソックスが強豪であったにもかかわらず<保留条項>・・・別称<奴隷条項>をいいことに、徹底して選手たちから搾取していたからであると言われます。ジョー・ジャクソンは打率400の超一流打者でもあり、ジョー・ジャクソンはルースが打撃フォームを真似たことで有名ですが、あのタイ・カッブも自伝において最も輝かしい天才打者と絶賛しているのがジャクソンでした。ちなみにルースまでも同じく自伝で、当時最高の打者を一人選べと言われたら、ジョー・ジャクソンの名前を挙げるくらいの打者でした。

最盛期にはジョー・ジャクソンのWARは9.0を超えるというものであり、現代最高のプレイヤーでもあるトラウト並みのWARであったということです。もし今ジョー・ジャクソンが現代のMLBに生まれていたら、その時代における傑出度からすれば2500万ドルは確実にもらえたプレイヤーだと考えていいでしょう。しかし1919年にジャクソンがもらっていた年俸はわずか6000ドルであり、今で換算してもわずか20~25万ドル程度の年俸でした。実に1/100です。現在のメジャー契約の最低年俸の半分の賃金で甘んじていなければならなかったわけです。ブラックソックス事件はオーナーから<保留条項(奴隷条項)>によって選手たちが不当に搾取され続けていたために起こった事件であり、選手はその仕事に見合う報酬を得るには手段としてはもはや八百長しかなく、ある意味八百長は起こるべくして起こったとも言われています。結局、ブラックソックス事件によって8人をごっそり永久追放された強豪ホワイトソックスは、大幅な戦力ダウンにより長らく低迷期を迎えることになります。再びWS制覇するには井口が在籍した2005年までシカゴのファンは待たなければなりませんでした。これが世にいうブラックソックスの呪いです。

ブラックソックス事件を引き起こす大きな契機となったこの悪名高き<保留条項(奴隷条項)>を打壊し フリーエージェントの時代へ切り開いた最大の功労者こそが私淑して止まないマービン・ミラー選手会会長であり、人身御供となって自らの選手生命を投げ出して戦った<カート・フラッド>でした。1960年代のNLの外野手というと、コンプリートプレイヤーであるウィリー・メイズやライフルアームの異名も持つロベルト・クレメンテなどの名前がすぐに思い浮かぶ人も多いでしょうが、その二人に加えてカート・フラッドのこの3人によって NLのゴールドグラブは6年間独占という状態であり、守備力の極めて高い選手だったのがカート・フラッドでした。STLの黄金期にもあたるチームにあってキャプテンでもあり、打率300を超えること6回、このカート・フラッドを現代の選手でいうと、ちょうどトリー・ハンターをイメージもらえればいいでしょう。アフリカ系の外野手でありオールスター及びゴールドグラブの常連でもありWARについてもほぼ同等です。

事件はフラッドがセントルイスから、差別意識がまだ色濃く残るフィラデルフィアへトレードで本人の意思に関係なく送り込まれそうになるところから始まります。どうしてもPHIにフラッドは行きたくなかったようです。当時強力な<保留条項>によって奪われていたカート・フラッドが働き場所を選択する権利を主張するには、MLB機構と真っ向から法廷で戦わなくてなりませんでした。それは文字通りユニフォームを脱ぐこと、選手生命の死を意味しており、「それでもお前は戦う覚悟はあるのか?」と問われて、当時31歳のバリバリであったカート・フラッドはMLB機構のクーン・コミッショナーを相手取って法廷で戦う決断を下します。その法廷では他の現役選手はオーナーからの報復を恐れて証言台にさえ立たなかったと言います。カート・フラッドの勇気がどれほどのものであったのか、そこからもよくわかろうというものです。他の選手がそうであったようにふつうなら自らの利益や保身を第一に考えてトレードにも従い、多額の給料を手に入れることを優先するはずです。しかし正義の人カート・フラッドは己の信念を貫きました。結果、選手生命は31歳にて実質的には終わりを告げ、法廷でも敗訴してしまいます。

しかしその敗北は決して無駄ではなく、その後フラッドにつづく選手が数多く現れカート・フラッドの選手生命の死を礎としてフリーエージェントの石碑は打ち立てられてゆくことになります。このフリーエージェント制度導入は選手のサラリーを爆発的に拡大させたのみならず、オーナーの懐具合まで潤す結果となり、このフリーエージェントこそがMLBのビジネスを一回り二回りも大きくきっかけとなり、結果MLBを一大ビックビジネスとし、繁栄の道へと大きく導くことになります。

歴史を俯瞰すれば選手の自由や権利を阻んでいた二大障害とも言えるのが<人種の壁>と<保留条項>であり、カラーバリアを破った功労者であるジャッキー・ロビンソンとブランチ・リッキーGMはとっくに殿堂入りし、野球の神様の一人としてクーパーズタウンで祭られてもいます。しかし敢えて<偉大なる>という形容詞をつけますがマービン・ミラーとカート・フラッドは未だ殿堂入りしていません。如何にベテランズ委員会というものが恣意的な人物を選出をしているのかという証明でもあります。

プレイヤーとしても1960年代のSTLの中心であったフラッドには選手としてもハンターなみの力量があり、フリーエージェントの扉を開いたというその歴史的に成した仕事と合わせて考えた時、カート・フラッドには殿堂入りする価値が十分ある選手であると私自身は考えています。現在のFA制度を明記した法律が1998年にカート・フラッド法と命名されていることを果たしてどれだけの人が知っているでしょうか。<人種の壁>を突破するに勝るとも劣らない戦いが<保留条項>を巡ってもあったのであり、その先鞭として英雄カート・フラッドの勇気がなければ、歴史も動くこともなかったわけです。日々情報がアップデイトされるFA市場に関心を寄せることもとても楽しいことですが、端緒としてジョー・ジャクソンらのブラックソックス事件があり、マービン・ミラーやカート・フラッドらの尽力によってフリーエージェント制度の扉が開かれて、そして今があるという遠大な歴史認識を持つことも決して悪くはありません。

もし四割打者のジョー・ジャクソンが現代に生まれていたら・・・八百長するまでもなく、好きなベースボールで2500万ドルは確実にゲットしていたでしょう。ジョー・ジャクソンの引き起こした八百長事件を肯定するつもりもないですが、ある意味、時代の犠牲者とも言えるジョー・ジャクソンについて、少なくとも私はフィールドオブドリームスの作家キンセラやマービン・ミラー同様に一方的に糾弾する気にはとてもならないのです。

参考文献

メジャー通必須の知識 MLB史に聳え立つ巨人ビル・ベックを知っているか

なぜ四割打者は絶滅種と化したのか?


グリンキーショック、LAD岩隈を獲得する

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12 /07 2015
グリンキーのARI移籍における衝撃がMLB全体を激震させました。クエトに断られているスモールマーケットのチームがなぜグリンキー獲得と思ったのは私だけではなかったはずです。2015ARIの得点リーグ2位 失点リーグ9位 得失点差+7であり、戦略的課題はずばりイニングイーターであり優れたスターターさえ揃えば2016に勝負できるだけの陣容は揃うと考えることは妥当です。チェイスフィールドという広大な球場故に、アスリート系の野手を集中してスカウティングし外野守備陣の守備範囲の広さはメジャーでも屈指であり、DRSリーグ1位、SBリーグ2位と機動力及び守備力に際立った強さを持ったチームです。ケーブルテレビの契約でも8000万ドルへ増えるということからARI勝負の一手ではありました。KCの機動力と守備力の部分は似通ったものを感じさせます。


しかしARIペイロールに余裕があったがための一手とは言えども、グリンキーという32歳への2億ドル投資は極めてリスクーであるとも言えます。BABIP229 LOB率86.5 E-F -1.10。グリンキーの2015は実力もさることながら相応の運にも恵まれていたことは明白です。通常、その年のMVPを決定するにはrWARを重視し、FAで獲るにはfWARを重視すべきという考え方を私自身は持っていますが、32才というファクターを考えると、ペイロールの柔軟性を失わせるリスクを犯すことはLADはできなかったというところでしょうか。とは言え、グリンキーのfWARも5.9という高さです。ARIの勝負もありでしょうし、LADについてもこのグリンキーの価値を冷静に見極めてのことであって、ARIに奪われたことも必ずしも悲観すべきでもなく今後の動き次第ということになるかもしれません。そこでまず岩隈との契約をLADは結んだわけですが、岩隈はGB率も高くLADのチーム戦略とも合致しています。GB率の高さがPITに続いて2位がLADです。更にもう一枚クエトあたりを抑えて2016にシーズンインというスタイルでも現時点では問題はないのではないでしょうか。


カノの時は絶対に手放してはならないと個人的に考えていたのは殿堂入り可能なNYYのフランチャイズプレイヤーであり、セカンドであれだけの強打を誇る選手はMLB全体を見渡してもまず滅多にいなかった点でした。グリンキーのケースはグリンキーのそのものの代わりにはならなくても他にもスターターを2枚揃えたらなんとかなります。年齢が30歳のカノ年2400万ドルと32歳のグリンキー年3400万ドルという2歳及び1000万ドルもグリンキーの方が高い条件も見過ごせません。しかも投手の方は加齢による衰えだけでなく肘や肩等のリスクがある。ちなみにカノの移籍時のfWARは5.8でした。グリンキーにぶっこんだARIのあり方も極めてリスキーではありますがペイロールに余裕があった以上、勝負に出たことは正しいと現時点では言えるし、グリンキーに自重したLADも今後の創造的な動き次第では決して間違いであったとも言い切れません。


STLのプホルスなどがいい例かもしれません。STLは財政力から見てペイロールの柔軟性を失うことを恐れて自重し、結果から見てSTLの動きは正しかったわけですがLAAが2000年代最高のプレイヤーであったプホルスに勝負を出たのもあの時点では決して間違った判断ではありませんでした。ケーブルテレビで莫大な収入が入ったのですから、プホルスに突っ込んでファンに本気を見せることは極めて大事なことです。結果論からすれば何とでも言えます。結果はどうでもいいと言っているわけでもありません。むしろプロである以上結果は大事ですが、結果論に陥るということはその典型である解説者・張本のように、結果論はとても便利でもあり批判を加える立場からすれば実に楽なため、そこで思考停止し更なる深みへと降りてゆくことを不可能してしまいます。結果論で物を語る下種にはならなためには結果とプロセスは分けて考えるべきであり、NYYのカノのケースは財政力と鑑みて絶対に契約を結ぶべき案件であったのに対して、今回のグリンキーのケースはLADの財政力、年齢及び年俸の莫大さから鑑みるに、グリンキーを取られた2015LADの今後の動きこそ要注目であると個人的には考えています。
今回のプライス、グリンキーからもわかるように時代はスモールな価値をいよいよ重視するようになり、機動力や守備力の高い野手、あるいは投手力への価値が相対的に確実に上がっています。それは単にスモールな時代がやってきているだけでなく、どうやらPOへ進出できるチームが10チームへと拡大したことが大きな意味を持っていそうです。それだけ多くのチームにWS制覇のチャンスが出てきているということであり、一か月にも及ぶ、相次ぐ短期決戦で如何に強いチームつくりをするのかという、ゴールからトップダウンする戦略的発想を各チームとも持ち始めています。

それはHOUのカーターやPITのアルバレスがノーテンダーとなったことが何がしかを暗示しているようにも思えるのです。アルバレスの例からもわかるように守備力が極端に劣る選手はレギュラーシーズンではともかくPOでは全く使えない状況となっています。2013のWSでも、ボロボロこぼす盗塁を刺せない後ろに逸らすの三拍子揃った強打の正捕手キャッチャー・サルタラをPOで途中から完全に見切られました。代わって堅守の控えロスが先発にすべて回ったはずです。またアウトの生産性という意味からすれば、特に接戦時には三振も内野ゴロも決して同じ価値などではなくコンタクトする力も重視されつつあるのかもしれません。スリーフィンガーは敬遠されつつあるのでしょうか。WSにおいてKCがヒット以外での得点が30パーセントであったのに対して、NYMはわずか8パーセントであったようです。ヒットを打つだけが攻撃力ではないということ。もちろん、数か月前にプィーグを放出すべきであるという記事にも書いたように、特に短期決戦において重要な孫子の言う<人の和>チームケミストリーの効果というものをいよいよ重視するべき時代にもなっています。

WARだけで選手の価値が適正に測れるのか?と問われたら、必ずしもYESとは言い切れません。それは数値化できない戦いにおいて大事なアナログな無形の力を十分に表現し得ていないからです。STLのモリーナの価値をWARで完全に把握し切れていると言えるでしょうか。来るべき時代にふさわしい評価軸はいずれ必ず現れることになります。WARが最終形であり行き止まりではない。故に絶えず現在という地点を歴史の中で相対化する目が必要になってくる。セイバー分析も比較的個人としては得意とするところですが、少なくとも私の中には、アンチ・セイバーメトリクスという視点が明らかにセットされています。



なぜメジャーではFAによる選手の移動が多いのか

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12 /05 2015
久々になぜなぜシリーズです。そもそもメジャーのファームシステムは8軍までのピラミッド構造になっており、ドラフトでも毎年各球団50人セレクトするメジャ-とせいぜい8人程度しかドラフトしない日本のプロ野球では選手の人数そのものが違います。メジャーでは激しい競争原理から25人のアクティブロースターの枠を目指して、雲霞の如く優れた人材がファームから生み出されてきます。もちろんファームだけでなくメジャーには独立リーグやポスティングなどを通じて人材供給源も数多くある。それらの人材の受け皿としても12チームしかない日本と違いメジャーでは30チームもあり、需要と供給のパイの大きさが日本とは比較にならない程の大きさを持っている点が挙げられます。しかしこれはメジャーにおいて人材流動性が高い理由の必要条件に過ぎません。

メジャーにおいて人材流動性が高い<十分条件>を把握するためには民族性の相違まで踏み込んで考えてゆく必要あります。日本人はもともと<農耕民族>であり、自分に与えられた仕事場である田畑を協力しながら耕し 種を撒き 芽が出て 収穫を迎えるというルーティンをこなす文化があり、日本人の無意識下にもしっかり根付いています。一箇所(田畑は移動することがない ひとつのチーム)で仕事を積み上げてゆくDNAが埋め込まれていると言っても良いです。それが特に戦後直後においては終身雇用というスタイルにも繋がり経済的な繁栄をもたらしましたが、アメリカの人は元々が移民であり<狩猟民族>ということもあって、グリンキーではないですが餌が取れる最適の場所を求めて移動することを厭いません。一般的な社会にあってもキャリアアップするために何度でも転職するというスタイルが定着しています。

更には言うならばアングロサクソンは他の民族と比べても非常に戦略性が高く、日本のプロ野球とは違いメジャーでは制度として完全ウェーバーとFA制度がリンクしているため、再建期と勝負に打って出る時期を戦略的に明確に区分けする傾向があります。つまり人材の需要するチームと供給するチームが明確に二分されるということです。しかし日本のプロ野球ではこうした明確な戦略的区分けというものが判然としません。


なぜメジャーではFAやトレードによる選手の移動が多いのか?その理由3点にまとめると以下のようになります


●メジャーの方が人材の供給と需要のパイが格段に大きい。
●野球とベースボールに限らずビジネス一般として農耕民族と狩猟民族のDNAの違い。
●制度及び戦略性故に、人材の需要するチームと供給するチームが明確に二分される
文化や民族性の違いという深みまで降りていかないとそのほんとうの理由にたどり着くことは難しいかもしれません。

過去のなぜなぜシリーズ。もし読んだことがなければどうぞご覧ください。

「なぜ四割打者は絶滅種と化したのか?」
「なぜメジャーのボールパークは個性的でおしゃれなのか?」
「なぜメジャーの球場は左右非対称であるのか?」
「なぜ日米問わずDH制のあるリーグが強いのか?」


グリンキーとバムガーナーのダブルエースはSFの悲願である

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12 /02 2015
NYYの財政力ならともかく、LADのオーナーグループが言うようにさすがにLADレベルの財政力からすると3億ドルというペイロールはやや過剰にも思える。ファンからすれば薩摩流でいう「チェスト!行け」というものだろうが、現実に利益もある程度、確保しなければ経営事業の目的としては成り立たない以上、多少なりともペイロールを下げることにはなるだろう。しかしもしここでストーブリーグの勝負に負けてグリンキーをSFにさらわれたとするとNL西地区の勢力図そのものが大きく塗り替えられる可能性は出てくる。

グリンキーはいろいろと取り沙汰されてはいるが 、結局金をより多く積んだチームへゆくことになるのではないだろうか。よもやLADのオーナーグループが贅沢税ラインに今更拘泥するとも思えないが、リンスカムの1800万ドル、ハドソンの1200万ドル、計3000万ドル分の枠がぽっかりとあるように、SFにも十分な資金力があり、実はLADともほぼ互角の3億8700万ドルの収入が2015シーズン前にはあったとされている。SFは青木との契約解除をしたところを見るところ若干しけている気もするが、その分、グリンキー取りの本気度は相当のものかもしれない。ワールドシリーズ制覇を眺めた時、グリンキーとバムガーナーのダブルエースはSFの悲願でもある。

プライスを獲得したBOSも贅沢税ラインを超えることはほぼ必定となった。こうした完全なるインフレトレンドの最中にあって、NYYはスモールマーケットのチームが取る弱者の戦略としてあくまでドラフト重視の路線を往くことがはっきりした。多くのチームが好況に後押しされて積極的に投資をして勝利を掴んだそのリターンを狙う中、あくまでコストカットによって利益を生み出そうというのがハルの経営戦略である。予想通りプライスにもグリンキーにもハルは動かなった。ちなみに予想を裏切る動きをサプライズという。

2016グリンキーはどこのチームで投げているのだろう。今まさにLADとSFの本気度が試され、2015ストーブリーグ最大の山場を迎えようとしている。MLB1位のチームを除いた234位の収入を持つチームがプライスとグリンキーを取り合いしているという状況を果たしてNYYファンはどう眺めているのだろうか。少なくともこうしたNYYの動きは長期を見据えた優れた戦略などでは断じてない。

しかしもしこう書いていて、NYYにグリンキーが入ったらとしたら・・・それこそサプライズである。 世阿弥の言う花がそこにはある。こういう演出のできるTOPを持つ組織こそ繁栄するものなのではないだろうか。



大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。