新時代におけるマネーボール戦略 前編

戦略
03 /24 2019


今から10年前に書いたもの。ちょうどフライボールについて2015年に分析していたのと同じで、当時こういう分析を試みた記事は皆無でした。自分で言うのもなんですがもしスポナビにアップしていたら、相応の物議を醸していた可能性があります。当時はWARもありましたが、あくまでOBPやRCという指標が幅を利かせていた頃です。

セイバーメトリシャンであるズレンシックという戦略家が2009どのようなことを考えていたのか、そして・・・どこでつまずいたのか?について分析を試みたものです。

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2009年夏現在。マリナーズチーム全体のUZR(守備によって防いだ得点)リーグ1位。

DIPS(投手そのものの力量)はリーグ平均であるが 防御率はリーグ第一位!ここからわかるのは 投手としての力量は平均的なものであるが リーグ随一の守備力によってリーグ最大の防御力をチーム全体で発揮しているといったものであり、セーフィコという<地の利>を生かすためのスモールにふさわしい面子をセイバーメトリクスの技術を駆使して集めつつ、メジャー最強の守備陣を形成し、メジャー有数の機動力を前面に出しながら 犠打で繋ぐといったズレンシックGMの戦略がここに明らかにされていると思います。

さてここで唐突ですが2009NYYのデーモンという選手の話をしたいと思います。総合的な攻撃力 RC年間でデーモンという打者は+100得点を創出しているという強打者ぶりですが、この選手のUZR-11です。平均的な野手よりも11点多く守備で与えているということにセイバー的にはなっています。

WS第4戦 MVPは9回見事な盗塁をしたデーモンですが 第4戦もし優秀な外野手なら序盤1失点で済んでいた可能性があり、最優秀な外野手なら序盤2失点が防げていた可能性がありました。あの試合全体を眺めながら デーモンという選手の得失点にかかわる働きを見ていると 序盤 彼の守備のまずさが2失点に直結してました。

ハワードもデーモンがレフトでなく強肩の野手だったら3塁を周っていなかった可能が高く、2回の先頭打者もヒットではなくふつうのレフトフライだった可能性が高かったはずです。フルスィング惑わされてスタートが遅れ記録ヒット、その走者が得点した。たしかに難しい当たりだが上手い人なら取っていました。イチローならまず取っていたでしょう。

私はこの一連のデーモンの働きをマッチポンプではないかと評しました。マッチポンプとは自分でマッチ 火をつけ 自分でポンプ 給水するということですが、さて あの試合の真のMVPはデーモンであると評価するのが正当なのでしょうか。ここをどう見るかが一つの大きなポイントだと思います。つまりほんとうに守備のいいレフトであれば デーモンがMVPになるような状況すら未然に防ぎ、作らせなかった可能性があるということになります。

選手の総合的な価値とはいったい何か?ということを私はこのデーモンの働きに深く考えさせられました・・・そしてこの選手の総合価値を合理的に眺める視点にこそ 私が最も注目している ズレンシックというGMのもとで推進されている<新たなるマネーボール戦略の鍵>が隠されています。

例えばですが チームに<35点貢献する選手A>と<25点貢献する選手B>がいたら どちらの選手が価値があるのかは明らかです。その価値に応じて給料も支払われるべきです。この得点の寄与には 「RCAA(平均の打者に比べて何点稼いだか)+UZR(平均の野手に比べて守備によって何点防いだか)」でおおよそその選手の総合的な価値がセイバーでは決まりますが、実は同じキャリアでも35点貢献する選手Aよりも25点貢献する選手Bの方が 給料が高いことがあります。


  なぜ<25点貢献する選手B>よりも<35点貢献する選手A>を安く仕入れることができるのでしょうか?

このマネーボールはからくりはこうです。

前者の+35の選手Aが (RCAAが+20でUZRが+15)、後者の+25の選手Bが(RCAAが+35でUZRが-10)だとします。すると 選手のマーケットにおける評価は <RCAA+20の選手A>よりも<RCAA+35の選手B>を過大に評価します。たとえ総合的なセイバー価値として選手Aの方が高いとしても マーケットは攻撃力の高い選手を過大評価するという心理的なバイアスがかかります。これは日米問わずいくらでも例は出せます。

目に見えるRCAA 攻撃力の得点の方が UZR 守備力で失点を防ぐよりも明らかであるために 一般に人は 攻撃力の高い選手Bを過大評価するようになるようです。人間は合理的にマーケットにおいても振舞っているようで 実は極めて非合理的な存在であることを2002 ノーベル経済学賞を獲得したカーネマンという教授は立証しました。それは選手のマーケットにおいてもそうです。こうした事柄を取り扱う学門を行動経済学と言います。

ちなみに若干の数値は違いますが 選手Aはフィギンズ 選手Bはベイです。ベイの方が給料は高いですが セイバー的な総合価値は2009実はフィギンズの方が高いのです。

表向きはセイバーメトリクスを使い スモールベースボールという セーフィコの地の利を生かした面子を着々と集めつつ 実は 新時代のマネーボール戦略が ほとんどの人に気づかれぬままに ズレンシックという希代の戦略家のもとに潜行されています。ここにズレンシックというGMの高度な戦略性の一端が伺えます。

<以上、これがズレンシックGMが構想している新時代におけるマネーボール戦略でしょう>

一昔前におけるマネーボールは 少々乱暴に書くならば 守備にも拘わらず盗塁も75%以上の成功率でなければ意味なし それまであまり評価されなかった四死球への価値を再評価し ほんとうに価値ある攻撃力のある選手を安く獲得してきました。しかしこうしたセイバーメトリクスの知識が一般に普及すると 一昔前におけるマネーボール戦略のアドバンテージは一気になくります。これからのマネーボール戦略は守備や走塁のスタッツへ目を向けていかなくてはならない・・・。これは必然の流れです。

これについては定かではないですがUZRの開発に携わった者がコンサルタントとしてマリナーズのスタッフにいるという情報も聞きました。この際 UZRというスタッツがどの程度の精度なのかは置いておくとして、ズレンシックGMがふつうのGM以上に守備のスタッツを重視しているのは間違いありません。これからのマネーボールはもはや皆が注目しているOBPや第二の打率等に着目し、経済性を追求してもいい選手の獲得はなかなか難しい。OBPが高ければ市場価値も上がります。

(以下 結論部分です。この時シルバはまだマリナーズに在籍してました。ここでの判断が非常に大きかったと私は思っています)

そこでおそらくマリナーズのGMは新たなるマネーボール戦略を目論見つつ UZRの高い守備型のチームにし シルバなどの不良債権がチームから一層された時、最終的には守備のあまり影響のないDHや1塁手といったオフェンシブなポジションに 打撃力のある すなわちRCが高くコストのかかる選手へ集中投資しようとしているのでしょう。

これからもオシェンシブポジション以外 UZRの悪い守備の弱い選手は切ってゆくと思います。ベタンコートを切った最大の理由もご存知のように、OBPが低くUZR-23、メジャー全体で野手最下位の数値をたたき出していた選手がベタンコートであったからあり、ショートのウィルソンを獲得したのもUZR+13が決めてであったことはご存知かと思います。

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以上 日本の雑誌やネットのコラムでズレンジックについて大きく取り上げられる前に基本書いたものです。結果論で大砲が必要だった言っているわけでもありません。しかし 実際ズレンシックはコッチマンの獲得にもわかるように超守備型のチーム作りへ邁進していくことになります。

そして当ブログはズレンジックへの絶賛モードを180度反転させることになるのです。つづきはいずれまた書きます。

なぜハル・スタインブレナーこそがヤンキースの実質的GMと言えるのか

戦略
02 /18 2019


下書きの日付を見たら 1/18でした。セベリーノはその後 この記事とは違い激安コントラクトを結ぶことに。なぜそれが可能になったのかはセベリーノが徹底して人格批判に晒される調停を恐れたからとも言われている。

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なぜハル・スタインブレナーこそがヤンキースの実質的GMと言えるのか、その痕跡はいくつも残されています。

理由は明白であり、第一点目はグレゴリウスの戦線離脱にともない内野のデプスが薄い状況にあって分厚い外野は人材は余っている状況であるにもかかわらず、不良債権のエルズベリーではなく内野のバックアップとしては十分に戦力に成り得るトレイエスを切ったというこの一事をもってして、誰が判断しているかが明らかになったと言えます。

LADもクロフォードという40Mの不良債権をたたき切ったように、BOSもまたサンドバルという50Mにも達しようかという不良債権をたたき切っています。ふつうの能力のあるGMならば、エルズベリーへの投資はサンクコストを割り切って、損切りする判断力くらいは必ず身につけているはずなのです。この程度の判断ができない人物がGMにつくことはまずあり得ない。

物事の優先順位がわかることを戦略的と定義するならば、この優先順位がわからないこの判断力のなさこそハル・スタインブレナーが実質的なGMである証明でもある。私が見る限りキャッシュマンはそこまで無能ではない。この程度の判断は当然できる。

エルズベリーを塩漬けにするという判断が「コインの表」であるならば、DFAになったトロウィツキーを格安で手に入れるという判断は「コインの裏」だと言ってもいいでしょう。ここに損確定を嫌い、リスクをとにかくガチガチに管理したい人物像は透けて見えるわけです。

第二点目。ハル・スタインブレナーは2015年にKCが世界一になった成功モデルを模範として、金を出しても優勝できるわけではないと「自らのセコさ」を弱者の戦略へすり替えて正当化しようとしました。改めてKCの戦略を振り返りますと、FAになる前の若手野手を主軸として、先発はクリス・ヤングやガスリーなどベテランで2線級3線級の安いサラリーのスターターを揃えつつも、強力なブルペンを用意し、相手を僅差の終盤に誘いこみ、そこではじめて強者として立ち振る舞い逃げ切るゲームプランを持っていました。

KCに見て取れるブルペンに厚みを出すというNYYの一貫した戦略は、元を質せば、2015年のKC優勝の緊縮モデルがケチなハル・スタインブレナーの心の琴線に触れたところに端緒があります。これがNYYの実質的なGMがハル・スタインブレナーであることの第二の理由です。

例えば2016年のオフにNYYは完全に再建期に舵を切りました。にもかかわらずチャップマンだけは抑えたわけです。なぜ再建期に入るのにリーグを代表するクローザーだけは抑えたのか。言うまでもなくNYYの司令塔ハル・スタインブレナーがKCの戦略を踏襲しているからです、

このプランに沿ってチームつくりをすることは決して間違ってはいません。スモールマーケットのKCで既に勝っている以上、ビックマーケットのNYYでもふつうにやれば勝てることになります。ただ強者のNYYであるならば、KCのこの弱者の戦略の物まねに終わらせてはなりません。更にバージョンアップさせることができる。

では具体的に、バージョンアップさせるのか。

一点目は金がある以上、KCのようにブルペンのみならず、先発の層も同時に厚くすることができるという点です。例えばハーパーやマチャド獲得はともかく、コービンを抑えることくらいの財力はNYYには当然ありました。しかしリスク管理第一主義なのでFA市場でWSHとの勝負に負けた。バムガーナーの例をひくまでもなく、大事な試合で頼りになるエース級がいるかいないかは極めて重要なポイントになります。先発への投資もできる財力があっても、躊躇してしまうところで最後に勝ち切るダメ押しの余力を失ってしまうかもしれません。ハル・スタインブレナーの勝負しきれない性向が故にその代償として、勝ち切れないという危惧が懸念されます。

そして次なるポイントですが、通常スモールマーケットのKCではFAでホズマーやムスタカス、ケインなどが流出してしまいますが、そうした生え抜きの流出を抑えることがビックマーケットにはできます。ところがカノ流出に代表されるように、べタンセスにせよセベリーノにせよ、セコさ故に年俸調停に持ち込んでいます。

例えばNYYから「6年150M」という仮にセベリーノが将来、囲い込みオファーをされたとしましょう。すでにNYYがFAマーケットでも勝負はしない姿勢を知っているセベリーノからすれば、FAになった方がより大きなメガコントラクトを獲得できるに違いないと算段をすることに必ずなります。

二点目はハル・スタインブレナーの目先のコスト削減が長期的な利益を損ない、目先のセコさがセベリーノ等生え抜きの流出を招く等の可能性へとつながりかねないということです。すなわち強者であるにもかからわず、KCにはない強みを失う可能性が高くなるのではないか。NYYは生え抜きで本来抑えて置かねばならない選手の何人かが、彼らを抱え込む力を持ちながら、FAによってNYYはおそらく流出することになるでしょう。

田中将大もFAの選手側オプションにおいてオプトアウトを行使すれば、1年前に外へ出ていたわけです。こうした額面通りの仕事を遂行している選手を確実に抑えるだけの経済力はありつつも、セコさ故に外へ流出してしまう可能性を晒してしまっている。とにかくブルペン以外のメガコントラクトについては余程の条件がと問わなければNYYが動くことはまずない。そのリスクを恐れる判断が最終的な勝利を逃す一つの要因になるのではないか。

結論

KCの弱者の戦略を踏襲するハル・スタインブレナーのやり方が完全に間違っているというわけではない。しかし弱者ではない以上、強者としての余裕ある立ち振る舞いこそがNYYには求められている。キャッシュマンの仕事はトレード等極めて限定的なものであり、チームの方針及びFAに関するNYYの実質的なGMはハル・スタインブレナーである。

果たして今後NYYがどのような命運を辿ることになるのだろうか。

ジョージ・スタインブレナーのように闇雲に金を突っ込めばいいというつもりも更々ない。チームが本当の意味で強くなるには、大砲だけを並べれば強くなるというものでもない。若手とFA、攻守、スピードとパワー、投打、様々なバランスに留意しなけければ、本当に強いチームを作ることはできない。それでもトータルとしては、ジョージの時代はハル・スタインブレナーの時代よりも確かな成果を出したことになるのではないかとは考えている。その是非は、いずれ歴史が明らかにすることになる。







大失敗に終わるか!マイアミのジーター改革はどうなるのか?

戦略
01 /29 2019


昨年4月頃、私はツィッターでおおよそこう書きました。

「ルノーによるHOUやエプスタインによるCHCのタンキングとMIAが現在行っているジーター改革を混同してはならない。両者は似て非なるものである。これは創造的破壊と称するようなものでなく、ジーターによる理念なき破壊活動である。

ジーターのボーナス獲得が主眼となった極めてセルフィッシュな動きであり、基本的にこの動きは間違っている」

結果的に現在のMIAがこうなっています。

●観客動員 メジャー最低30位。10000人を切る寸前。
●プロスペクト充実度 ランキング メジャー最低30位。
●2018年 NL最低勝率。

現在の動きはジーターをスケープゴートにオーナーグループがコストカットによる徹底した利益の追求をしようとしているのはほぼ明らかである。ファームの層を厚くして再建を乗り出すという方向性そのものも完全に間違ったものではなく一見、流行にも思えるものであったが、当初から数多くの疑念の声はやむことがなかった。一方で「これは世に言うタンキングであり、将来を見据えた動きなのだ」と、たしなめるかのようなメジャー通の意見も数多く散見された。

しかしジーターというGMの無能のなせる業なのだろうか。メジャー最強の外野トリオを解散させた結果、マイアミはメジャーで最もファームの層が薄いチームへ変貌を遂げてしまっている。ジーター改革がもたらしたものとは、メジャーNLで最も弱く、最も将来に対しての展望が開けず、最も人気のないチームへMIAは転落したことを意味している。

ジーター改革について擁護するかのような立場を取り、先を見据えたメジャー通たちは、ジーター改革を今どう考えているのか。

結論

タンキングという表層的なものに目を奪われることなく、ジーターとルーノウの本質的な差異を的確に見抜いていかなくてはならないない。マイアミで起きている一連の動きはコストカットによって利益の最大化しか興味のないオーナーの投資会社ジャーマングループと素人GMジーターによるジーターのための(ボーナス獲得)単なるMIAを舞台にしたベースボールへの破壊活動である

ベースボールというものは公共財であることをオーナーが再認識するとともに、ステークホルダー全体に目を配るような経営スタイルを追求すべくMLB機構側がある程度のガイドラインを設定すべきではないか。ぜいたく税という名の金満チームへの規制だけではなく、タンキングという名の徹底したコストカットによる利益追求へ傾くスモールマーケットへの一定の規制も設けるべき時期に来ているのではないだろうか。

未来は可変的でもあり、作用があれば反作用あり、沈み込んだものもいつかは浮上する。沈み続けることもまた相応の難しさがある。しかし敢えてリスク承知で言うが、ジーターというGMがチームを指導する限り、MIAの勝利はなかなか覚束ないだろう

数年先の結果を見守るべきだという意見など、誰にでも言える。結果論で語るという的外れな揶揄も一部にあるようだが、常に未来に対しても旗幟鮮明をモットーにする当ブログとしては、もしこの予見が外れた際は、素直に謝罪をする。


2019年ドジャースの緊縮路線、その動きの裏にある戦略のキーポイントとは何か

戦略
01 /15 2019



これまでLADからアウトした主な選手の成績

グランダル 24HR OPS815 WAR3.6
マチャド  13HR OPS825 WAR2.4(LAD時代のみ)
ケンプ   21HR OPS819 WAR1.8
プイグ   23HR OPS821 WAR1.8

ウッド    9勝7敗 WAR2.6

チームWAR0.0で162試合をフィニッシュした時、52勝分に相当するとセイバーメトリクスでは設計されている。つまりWAR40.0を確保することがPO進出ということを目標にした時、GMがなすべき仕事の一つの目安となる。92勝できればギリギリでワイルドカードには引っかかると考えてもよい。

さてこれまでのLADの動きをみるとWAR12.2もの大戦力が流出した一方、INした選手はBOSから投手ジョー・ケリーWAR0.7、TORから捕手マーティンWARにしてわずか0.6にとどまっている。つまりこれらの意味するところは、LADの大幅な戦力をダウンを意味している。このままシーズンへ入って確実にPOへ歩を進めることができる計算に目処が立ってるとは到底言えない。

特に印象的なCINとのトレードは、完全なる不良債権であるベイリー28Mを引き受けつつ更に7Mを上乗せして、手に入れたのはCINチーム7位のプロスペクトに過ぎなかった。一方、ケンプ、ウッド、プィグ(3人合計の負担額は43M前後)はWARを見る限り、1WAR=8Mと計算すれば彼らの成績を見てもわかるようにふつうの優良債権であり、CINでも十分にローテや野手の主力を担う戦力であるとセイバーメトリクス的には認定される。

大型不良債権をLADに引き取ってもらい、かつ失っても惜しくないプロスペクトを差し出し、そのリターンとして経済的なリスクもほぼ皆無と言っていい大きな戦力を手に入れたCINにとっては、ほぼ一方的に勝利と言ってもいいトレードである。

LADとCINのトレード、間違いなく持ち掛けたのはLADからであり、ケンプとプィグを放出すべく譲歩に譲歩を重ねてウッドもプラスしてまでも、なんとかトレードをまとめたと見るのが自然である。

では、なぜこのような補弱のトレードをLADは実施したのだろうか。

ケンプ、ウッドについては前々から指摘しているようにチームケミストリーを重視するフリードマンの姿勢がはっきり示されたと言える。あるいは2019年にはFB革命による戦略がBOSのスモールな全員野球に木っ端みじんにWSでやられた反省から、小技や俊敏さ、状況に応じたシンキングする力も求める野球へ質の転換をする意図もあるのかもしれない。

またチームの目指すべき野球の方向性だけでなく、同時に財政的なチーム事情もある。

MLBにはデッドサービスルール(負債に関するルール)がある。LADオーナーサイドは球団を購入する際に多額の負債を抱えており、それを返済するため収入とバランスする毎年の支出(主に選手へのペイロール)をある程度抑制する必要性をMLB機構から迫られている可能性がある。MLB史上初のペイロール3億ドルを突破したLADにとって惜しみない投資によってチーム強化によるファンサービスも大事ではあるが、長期的に安定したサービスを提供するには財政の健全化を機構側から求められており、投資への回収をすべく債務を減らすことを義務付けられている。

あるいはデッドサービスルールの適用ではなく、単純に投資の回収を求めるオーナー側の意向に沿って、利益を求めて今しばらく贅沢税ラインを意識した窮屈な動きをしているのかもしれない。

いずれにしても内部の諸事情により、大胆な勝負に出ることができない緊縮の状況下にLADは置かれており、戦略上最大のアドバンテージであった分厚いデプスを薄くし補弱路線をせざる得ない現状がある。

WAR12.2の流出は単純かつ控えめに見積もっても10勝分の戦力がなくなったとセイバーメトリクス的には言えるのであり、つまり2019年のLADは7年連続の地区優勝を目標とはしつつも、同時にリスク管理としてワイルドカードを現実的に視野に入れなければならない状況にあると言える。

ではどういう動きをLADはすべきなのか。

NL2018年96勝1位MIL、2位95勝CHC、3位92勝LAD、4位91勝COL、5位90勝ATL

ALの東地区では100勝を超えるチームが2つも出たのも、裏を返せばBALが115敗などという歴史的な大敗を喫したからに他ならない。NL最下位のMIAでも97敗に過ぎない。89勝したSEAなども通常の年であればPO進出に大いにチャンスはあったものの、2018年に限ってはワールドカード枠にもほぼノーチャンスでシーズンを終盤を迎えることになった。

それをNLに置き換えるならばLADの立場からすれば中地区のMIL及びCHCの独走を阻止し、混戦になる動きをするのが戦略的にも理にかなっていると言えるのである。つまりLADが最低目標としてPO進出を設定し、ペイロールと同時に戦力をLADがダウンを余儀なくさせられる状況にあるならば、95敗も喫した最下位争いを繰り広げるCINへの主力級3人の戦力拡充することによって、結果的にCHCやMILの勝利数をダウンさせる狙いがCIN有利のトレードの裏にはある。

結論

ケンプ、プィグ、ウッドの放出は、チームケミストリー改善及び動かすことがほぼ不可能な制約条件であるペイロールの削減のみならず、ワイルドカードまでも睨んだ時、自分の戦力を低下を梃にライバルとして最終的に立ちふさがるであろうCHCやMILの勝利を削ぐための布石として行われた極めて戦略的なトレードである。

ここにLADが大幅な譲歩をしてまでも、NL中地区最下位であったCINこそがそのトレード先でなければならなかった最大の理由もある。

単にCINとのトレードだけを切り取ってみれば、LADのLoseと言っても過言ではない。しかしその1ディールの動きだけで勝った負けたと評価してもフリードマンの戦略的思惑がどこにあるかを把握することは難しいに違いない。LADのチーム事情や自他の戦力分析も勘案し、一連の動きの奥に潜み貫かれたある理念を洞察した時、フリードマンの戦略眼というものが明らかになるのである。





なぜマリナーズは今、再建期に入らなければならないのか、その理由について明らかにする

戦略
12 /09 2018


2018年マリナーズは89勝でレギュラーシーズンの幕を閉じた。NL西地区のドジャースも91勝で地区優勝を手に入れている。およそPOに出るためには20個の貯金を作れば、なんとかなると考えもいいだろう。

ということは2018年マリナーズはあと2勝積み上げれば、PO圏内に突入することを一般には意味している。であるならば、2019年に勝負を仕掛けるべきだろうという結論に至っても、決しておかしくはない。にもかかわらず、2019年にマリナーズが再建期へ入らなければならない確かな理由がいくつかあるので、これから縷々述べたいと思う。

まず、ピタゴラス勝率から導かれるマリナーズの2018年の実力は77勝85敗だったことがわかっている。クローザー・ディアスの大車輪の活躍を見てもわかるように、僅差の試合を悉くものにしてきたのが、マリナーズだった。一点差の勝敗は36勝21敗であり、ALで最高の貯金15個をを稼ぎ出している。

つまり2018年のマリナーズは運も良く、投打の歯車がかみ合い、巡り合わせにもよって89勝できたと考えるのが常道であり、裏を返せば来年も今の戦力を維持できたとしても2019年にPO圏内に入ることは難しいことをこの数値は物語っている。

更に問題は、AL西地区がメジャーで最もレベルの高い地区となっている点にも触れておかなくてはならない。同地区同士が戦っても1勝1敗であり貯金の増減はないが、その地区全体の貯金が大きいということは他の地区のチームと戦って西地区のチームが数多く勝ち越していることを意味している。

西地区全体の貯金は5チーム全体で61個も積み上げており、東地区の25個を遥かに上回っている。最強の地区にマリナーズは現在属しているのである。また西地区には現在、最強のチームであるアストロズが戦力を維持したまま、ここ数年は栄華を極める勢いであることは誰もが認めるところだろう。OAKもまた97勝と底力がある。

加えて、マリナーズのファームは目ぼしい選手がほぼ皆無であり、プロスペクトTOP100には一人も入っていない状況にあった。(もっとも数々のトレードによって現在は、入ってきたプロスペクトがちらほら100位以内入りしている)

つまりプロスペクトというトレードの駒がないということは、2019年の夏場の肝心なフラッグディールにおいて、有力な戦力を前線を供給することが難しいことを意味している。地力も弱く、最強地区に属し、ロジスティックも脆弱であるという客観的な情勢を見た時、ここはアストロズが最盛期にムキになって立ち向かうのではなく、戦力をためて期が熟するのを待つことが戦略的にも最良であると判断するのが妥当なのである。更に付け加えるならばエース、キングの力が著しく衰え、WARがマイナスを記録し全くあてにならないことも再建期に踏み出したダメ押しの要素になったに違いない。

ディアスもおそらく生涯を通じてもキャリアハイを出した今だからこそ、高く売り抜けることが可能となる。ショートのセグラについては、たしかにセイバーメトリクス的にも素晴らしい選手であり、コスパも抜群ではあるが2018年の夏、マリナーズの内紛でもわかるようにドミニカンの間に不穏の空気を作り出した張本人こそがセグラであり、とても中心選手にはなりえないとの判断から放出に踏み切ったのだろう。

結論

89勝という実績。ディアスは油に乗り切っている。セグラも数字的には頼もしい、こうした表層的な部分的な要素だけを並べて見ても正しい分析はできない。置かれている西地区の勢力図や自軍の戦力分析、ロジスティック、クラブハウス内のケミストリーの問題など総合的に勘案していかなければ、おそらく正しい結論にたどり着くことはできない。

マリナーズは今こそ、再建期に入るべきである。

大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。