「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代を超えて ポストフライボール革命 レッドソックスの戦略

フライボール
10 /16 2018


これまでの常識を打ち壊してフライボールを打ち上げろ、そにに打撃の革命的な大きな活路がある」とするライターたちによる論旨のコラムを目にして、2018年の5月、当ブログではあまりに内容が浅はかであると断じてきました。すっかり手垢のついた内容でもあり、メジャーにおける最先端にある考えではないことを「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」という記事で詳細に示しました。

何が駄目かというと、フライボールを全面的に肯定する実にペラペラな内容であり、そこにはフライボールを相対化し眺めるといった視点がまるで皆無であったからです。(もっともヤフコメ民やJ民などはフライボールの記事にすっかり色めき立っており、当ブログとは全く正反対の反応でした)

その記事のポイントを挙げるとすれば二つあります。

①フライボール率ではなく、打球速度こそが攻撃において重要なスタッツである。
②ライターが言うように無暗にフライボールを上げても必ずしも攻撃力が高まるものではない、フライボールに頼らない攻撃スタイルにも、深い焦点を当てるべきである。

打球速度の速い打球、ボールをハードヒットすることが何より大事であり、同時にホームランに頼らない攻撃スタイル、もっと簡潔に言えば、「スモールベースボールに新たな光を投じるべきである」と。グラウンドボールの中にもまたフライボールやラインドライブにもない見過ごされがちな長所は隠れており、さまざまな種類の打球に対しての細やかな目配りをし状況に適応することによって、より厚みのある攻撃が可能になる。フライボールにのみ目を奪われている限り、最先端のトレンドを読むことはできない。

そしてボストンの攻撃スタイルの根幹を成すのが、この2点であることはJDマルティネスの言葉や、コーラ監督の多彩な攻撃スタイルを見てもはっきりわかるはずです。己の誠実さというものに照らして偽りなく率直に話せば、シーズン開幕当初に行った個人的な分析結果に対する確かな手ごたえを与えてくれた唯一のチームこそが、ボストンでした。

ALDSでもヒットエンドラン、奇襲の単独スティール、積極的なダブルスティール、右方向への進塁打、意表をついた送りバント兼セーフティバント、外野飛球やボテボテの内野ゴロでの得点など、フライボールありきではないボストンの攻撃はヤンキースに比べて実にバリエーションが豊富であったと言えます。一方、ヤンキースは個々の打者が来たボールをフライボールで打ち返すといったものであり、ホームランが打てれば勝つが、打てなければ負けるというベースボールを実に単純なゲームへと変質させていました。

2014年当時、フライボールについてすでにオークランドが実践していたことを当ブログは分析しはっきり掴んでいました。快進撃を続けていた2014年8月まで遡ってオークランドの攻撃セイバー分析をしてみてください。数字がはっきり物語っています。かれこれ4年も前から出現したフライボールが今更、時代の最先端などということはあり得ないことなのです。

そして時代は必ず繰り返します。かつて流行し、古びてしまったものが装いを新たに現代に蘇ることは野球に限ったことでもありません。短期決戦になればなるほど、キャッチャーの捕球能力や隙のない走塁など細やかなプレーが、投手力や打撃力と並んで、勝負を分ける重要なポイントとなることが明らかになってきます。

ワイルドカード制が出来てからというもの連覇は少なくなった中、直近で3連覇したのはトーリ率いるヤンキースでした。オールドスクールのトーリの野球こそはまさしくスモールベースボールでした。そして短期決戦において何連覇もするチームが日本にもあります。それが隙のない野球の代名詞でもあったのが西武黄金期です。日米問わず、連覇をするにはするだけの運だけでも力だけでもない重要なキーとなるものがある。

リーグ優勝のみならず、短期決戦にも強く連覇するチームの特徴とは一体何なのか?

ワイルドカード制の時代において、安定して何度も世界一になろうと思うならば、セイバーメトリクス的に戦力を整えることはもちろん大事です。しかしそれだけでは絶対に何かが足りない。同じような戦力をもった強豪同士が戦う短期決戦において、相対的に相手を上回るにはどうすべきかを徹底して考え抜いていかなければならない

短期決戦を運次第などと言い、そこで思考停止している限り道が開かれるということはありえません。当ブログの一つの結論としてはフライボールが流行した今だからこそ、更に一歩前に出るには隙のないスモールベースボールが組織全体にまで行き渡っているチームへと戦略的に作り変えていく必要が出てくるというものです

メジャー全体のスタッツを見る限り、大きなトレンドとして「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代にメジャーは突入しています。野球の質感としては実に大味でありその典型は2018年のヤンキースであり、数年前のアストロズの攻撃スタイルなどまさしく「三振かフライボール(ホームラン)か」でした。しかしこれでは攻撃のボラリティ(変動性)が高くなってしまうという弱点が出てくるわけです。エースに対しては沈黙するが、ワンクラス落ちると大爆発するような上下動の激しい打線。あるいは出る確率が限られるホームランが出なくなった途端、不調の波に飲み込まれてしまうような打線。こうした攻撃のボラリティ(変動性)を排除し、攻撃力の安定性を確保するには、ボストンのように三振を減らすと同時に、フライボールのみならず同時にスモールな攻撃スタイルをいくつも持っていることが大きな強みとなってきます。アストロズもかなり近いを路線を取ってはいますが、スタイルを見る限りスモールベースボールに対する研究がボストンほどではありません。

出る確率が限られるホームランに頼るよりも、出る確率は遥かに高いシングルや四球を攻撃のベースにすること。それらをエンドランやスティール、チームバッティングと絡めながらスモールを駆使して攻撃に厚みを持たせながら細かく点数を刻んでゆくオプションを持っているチームの方が、攻撃のボラリティは当然低く抑えることができます。

どれだけ多くの得点を取れるかも大事ではあるが、必要な時に如何に高い確率で得点を刻めるかこそが特に、プレーオフに大事になるのであり、そのためにはフライボールだけでは余りにキメが粗過ぎる。

すなわちフライボール革命についてのエッセンスについて十分吸収しながらも「三振かフライボール(ホームラン)か」という時代にあって「K率を減らすべくボールにコンタクトし、インフィールドへハードな打球を数多く飛ばしながら、ホームランが出なくても得点できるスタイルを追求する」。

スモールの最も象徴的なシーンはワールドシリーズ第一戦、ボストン初回の攻撃だったと言えます。この初回を見た時、シリーズはほぼ決まったとその時点では私自身は考えていました。(その後、第四戦にピンチにもなってやばいと思うことも・・・笑)

(10/17 追記 
例えば、ALCS第三戦でHOUカイケル攻略に対してBOSはシンカー対策として、フライボールで引っ張り一発で仕留めるのではなく、全員がセンターから逆方向へ強い打球をライナー狙いに徹したチームバッティングをした。この繋ぎの意識、全体攻撃のスタイルにあるものとは、フライボールに拘らないハードコンタクトと同時にチーム全体で投手を攻略しようとする、まさしくスモールな姿勢です。)

(10/26 追記
1点差でボストンが追いかけたWS第二戦の6回2死ランナーなし。そこからBOSはどういう攻撃を展開したのか。逆方向右へのシングル、センター前シングル、四球、四球、JDマルティネス、逆方向ライト前シングルで3点を獲得してドジャースを逆転。ここからわかるのは一発で決めるのではなく、徹底したボストンの繋ぎの意識です。とにかくフライボールを打ちまくれと2017年にフライボールブレークを果たした申し子JD・マルティネスが一転、現在では無暗にフライボールは狙わないとしFB率をリーグ平均以下へ急降下させており、繋ぐ意識が大事とする発言をしたことからもわかるように、意識が2017年から大きく変容をして2018年のJDがあります。)

(10/30 追記
しかして最終戦のWS第五戦では一発攻勢で相手を寄り切る。フライボールもオプションのひとつに過ぎないという位置づけ。これこそがこれからのメジャーにおける攻撃トレンドとして徐々に出てくるでしょう。状況に関わりなく1点が欲しい場面でポンポンとフライアウトを打ち上げてチャンスを潰した典型的なフライボールによるLADの攻撃スタイルではボストンには野球の質において到底勝てない。)

三振全盛の時代にあって、2018年K率が最も低くかつ最も攻撃力(+wRC)が高かったチームは全30チームでどこか?調べてみました。

アストロズであり、ボストンである。共に同率2位と3位。昨年、アストロズの超攻撃革命・ポストフライボールを示す重要なスタッツとしてK率を当ブログでは挙げました。このK率をリーグ屈指のレベルまで戦略的にボストンとアストロズは引き下げています。3年前まではK率の最も高く、かつホームランを最も放っていたのがアストロズでした。まさしく「三振かフライボールか」を戦略の根幹に据えていたわけです。しかしそこに時代の最先端はない。ちなみに最も攻撃力の高いチームはホームラン記録を作ったヤンキースですが、K率の高さは平均を遥かに上回るものでした。フライボールの典型。

2018年の5月時点、ライターたちはスラッガーという雑誌を見ても、2017年版のJD・マルティネスよろしくフライボールの記事を得々と書いている。これが本当の意味での時代の最先端ではないことを、「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」では訴えたかったわけです。

例えばボストンの盗塁数はメジャー30チーム中全体で3位であり、勝負を決めるここぞという場面で、局面を変えるために足もからめた攻撃にも積極的であることがわかります。あるいは野村IDというスモールベースボールを深化させた考えがありますが、野村の得意技の一つに投球の癖から球種を読むという実にアナログなノウハウがある。アストロズなどは単にデータにおいて先進的なだけでなく、投手の癖を盗む専門のスタッフが在中し、その癖を見抜く無形の力によってワールドシリーズ第七戦、ダルビッシュは見事に粉砕されました。(ビデオによるサイン盗みとは一線を画するべき。投手の癖を見抜くはルール上問題ない)

デジタル(セイバーメトリクス)が進化していく程に、アナログ(スモールベースボール)なものは廃れるのではありません。

むしろその古さの中に埋もれているものへ光を投げかけ、現代に蘇らせることが戦略的には極めて重要になる。ただしソーシアのようなオールドスクール型はいささか時代遅れであると繰り返しツィートでも指摘したように、ソーシアのあり方を是とするのでもない。単に古ければ素晴らしいというものでもありません。あくまで、デジタルを土台としてとアナログなものを掘り起こし、新しい時代にマッチさせ戦略的にそれらを融合することが大事になる。それがコーラ率いるボストンにははっきり表現されています。

GM目線で考えるとは戦略的にベースボールを見つめるということではあり、端的に言えば上から目線で物事を思考するということになります。そうしたGM目線でライターたちの記事を読む時、最前線にあるGMたちの思考力とライターたちの差は歴然たるものがあると言わざる得ないのです。もし興味があればライターによる単純なフライボール記事とは一線を画した内容の「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」という記事を一度読んで頂ければ幸いです。

フォローしてくれた皆さんに必ず書くと約束した記事こそが、「JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える」です。

結論

戦略的であるためには、未来を透視する力をその根底に据えなければならない

流行のフライボール革命と伝統としてのスモールベースボール。こうした二律背反したものをセイバーメトリクスという技術を通して戦略的に統合する時代に突入することにおそらくなる。「一発を秘めた豪華さ」(数年前のアストロズ)に「キメの細かい野球」(黄金期西武や野村IDの如きスモールな要素)が付加されるボストンの攻撃スタイルがこれからのメジャーのトレンドになると予見してこの記事を終えたいと思う。

ドジャースやヤンキース、アスレテックスと同じように、もし2018年のボストンの個々の選手がフライボール攻撃を単純に打ち上げるスタイルのチームであったとしたら、ボストンは今よりも強く優れたチームとして機能しただろうか。

おそらくNOであろう。

セイバーメトリクスの重要な役割のひとつはチーム競技にあって、個々の選手の能力を統計的にフェアーに刳り取ってくるところにある。この個々がバラバラのままにフライボールを打ち上げているだけでは戦略的には駄目であり、「この個々の力を活かしつつもチームとして機能させ、状況に合わせつつ点を線にし、力を集約するにはスモールなベースボールへの原点回帰こそが肝であることをコーラははっきりとした認識していた」。そう私には思えてならない。

セイバーメトリクスを活用しつつも、スモールベースボールについてボストンはおそらく我々が想像する以上に、研究し尽くしている。ただし巨人のように馬鹿のひとつ覚えの送りバント多用は決してしないスタイルではある。送りバント=スモールではない。細やかさや奇襲性、確実性を攻撃力に付加していくところにスモールの本質がある。

JDマルティネスの進化の過程の中に、フライボールの未来が見える        

フライボール
08 /27 2018


この記事自体はほぼ2018年4月には確実に頭の中にあったものです。一部 現時点8月より加筆修正。今年になってOAKのフライボールも再び脚光を浴びていますが、過去のブログにも書いたように2014年の頃からOAKがフライボール革命を実践していたことを私自身ははっきり掴んでいました。

よって周囲がフライボールに熱中する2017年の終盤においては、アストロズの最新戦略を分析するにあたり「フライボールありきという考え方はガチで古い」という警鐘もいち早く鳴らしてきたのです。そしてそのアストロズのベンチコーチだったコーラがボストンへ就任して、早くもアストロズ流儀の新たな戦略を打ち出して成功しているようです。

今年の5月ツィッターでライターたちのフライボール礼讃記事について、その薄っぺらな記事の内容に批判をしました。今回はライターによるフライボール記事のいったい何が薄っぺらなのかを明らかにするとともに、フライボールというだけですぐに色めき立ったヤフコメ民やJ民と言われる人たちがなぜ時代遅れになってしまうのかその理由も明らかにしていきたい。

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スポーツライターT氏による「フライボールこそ攻撃力をドライブさせる重要なキーである」とする礼讃記事やS氏監修によるGetスポーツという番組における、「プロであればどのような打者でもフライボールによってホームランを量産し攻撃力をアップすることは理論的に可能である」とした論旨の番組を観るに、少なくない方々がフライボールについてミスリードされている可能性が高いと結論するに至り、ブログ「MLB 戦いの原理を求めて」を再開するにあたって、フライボールについて改めて考察を加えていきたい。

なぜこうした極めて筋の悪いフライボールを扱った記事や番組が巷に堂々と出回るかというと、その根本には<フライボール革命によってホームランという最大の攻撃イベントをはじめとする長打を増やすことが攻撃力を真にアップさせることに直結する>という単純な勘違いを彼らがしているからである。

ブログ第一弾目はフライボールの光と影をバランスよく見つめながら攻撃力の全体像をより重層的かつ立体的に捉える試みをする。

さて、ところでFIPを発案したことで有名なトム・タンゴというセイバーメトリシャンをご存知だろうか。トム・タンゴはこのフライボールと攻撃力の関係性について極めて重要なレポートを報告している。

そのトム・タンゴによるフライボール分析報告の第一のポイントとは、FB率増によって攻撃力が上がった選手でいる一方で、ほぼ同数の選手は攻撃力が下がっているという点にある。つまりフライボール革命がジャストフィットして攻撃力を大きく上げる選手とほぼ同じ割合で、フライボールによって攻撃力を下げてしまう打者が現実に存在しているということをトム・タンゴは報告しているのである。

ところが日本のセイバーメトリクスをリードしているアナリストの神事努が監修したGetスポーツや丹羽政善というジャーナリストが書いたフライボールの記事を読んだ限り、彼らは前者の攻撃力が大きく上がった選手だけを恣意的に取り上げ、あたかもフライボールはほぼ全打者に適応可能であり、かつフライボールこそが攻撃力を大きくアップさせる最大のキーとなる技術であるかのよう錯覚を読者に与えている。率直に言って、そうした極めて浅い分析に接したことが、ブログ再開の最大の原動力にもなったことを明言しておきたい。

三振を恐れず、2017年のようにボールがより高反発なライブボールへと変更され、フライボールが流行すれば、MLB全体でも歴史的なホームラン数をたたき出すことは道理には違いない。しかしホームラン数がアップすることは攻撃力がアップすることに必ずしも直結しない、そうした重要な事実をトム・タンゴはレポートしているのだ

より具体的に話をしたい。例えば典型的なラインドライブヒッターであったテシィエラというバッターはFAで満を持してヤンキースに超大型契約で鳴り物入りで入団した。FA直近2年は打率も300を超えながら本塁打も30本前後を打つような惚れ惚れとするような素晴らしいバッターであった。しかし狭いヤンキースタジアムを本拠地にした途端、テシィエラは戦略的にバッティングスタイルを一新し典型的なフライボールヒッターへと変貌させた。結果、テシィエラは本塁打王にも輝いたものの同時に打率は300を常に切るようになった。

そしてここが極めて重要なポイントなのだが最終的に本塁打を増やしタイトルも獲得したテシィエラのOPSはフライボールヒッターになって以降、明らかに落ちたのである。

フライボールによるホームラン数がアップすることは攻撃力のアップすること必ずしも直結しないことをテシィエラの例は教えてくれる。投手からすれば率を下げてまでホームランを狙うよりもラインドライブヒッターのままに30本塁打を放っていたテシィエラの方が数段嫌な打者だったはずであり、それはOPSの数字からもうかがい知ることができる。

更にトム・タンゴのリポートでは重要な観点を提出している。攻撃力と強い相関関係にあるのはFB率などではなく、打球速度であると結論されている。FB率などよりも攻撃力においてハードコンタクトの重要性をタンゴはセイバーメトリクス分析報告をしていた。このような重要な報告をアストロズやボストンが知らないわけがない。大谷翔平がゴロアウト製造機と化し4月開幕前にマイナーへ落とせ、メジャーで通用しないの大合唱の中で、多くのバッシングをしていた彼らと異質の見解を私はツィートで示した。

その概要はおよそ下記のとおり。

「多数の人がそうであるようにスプリングトレーニングの悲惨な大谷の打撃成績にのみ目を奪われてはならない。アウトの質に目を向けるべきである。大谷のゴロアウトの打球速度にこそフォーカスすべきであり、その速度はチームで1位2位を争うものである。メジャーの異質な環境に慣れてボールが上がり出せば問題なく、大谷翔平はメジャーという舞台でもそのパワーを遺憾なく発揮することをこのデータは意味している。慣れるためには数多くのチャンスを大谷へソーシアが与えるべきだが、問題は堪え性の無いソーシアがすぐに大谷を見切りをつけてしまうかどうかにかかっている。」と。

幸い大谷がすぐに結果を出したためにマイナー送りにはならなかったが、LAAのブルペン登板過多を見てもわかるように、ソーシアという人は堪え性がなく目先の一点、目先の一勝に目を奪われがちなスモールな傾向も明らかに持っている。尚、大谷の打球速度は現在においてもメジャー全体の上位3~5%以内に入るほどであり、打者としてのエリート性を存分に示すものとなっている。開幕直後の3連発が最大の分岐点だったように思う。

結果が出てから大谷は打者として成功すると思っていたと言うことは誰にでもできる。開幕直前、大谷二刀流がバッシングの最中に何と言っていたかこそが重要である。

さて、ところで打球種類はグランドボール(ゴロ)フライボール、ラインドライブと3種類にカテゴライズされるが、トム・タンゴのレポートにもあるように打球速度が攻撃力に一定の相関関係があることが結論されていることからも直感的にもわかるようにラインドライブが他の打球を圧倒して高い攻撃力を有している。

言うまでもなくゴロやフライには打球速度の遅いものから速いものまで速度に幅広いレンジがあるが、打球速度の遅いラインドライブは基本存在しない。

以下、比較優位という考え方を基に打球の3種に当てはめて少し掘り下げて考えてみたい。

データ元はBaseball-Reference.com

ラインドライブ  AVG 628 SLG 955 OPS 1583 BABIP 615 HR 595
フライ      AVG 211 SLG 676 OPS 887 BABIP 090 HR 2748
ゴロ       AVG 245 SLG 267 OPS 513 BABIP 245 HR 0

例えばフライボールはラインドライブに対して攻撃力における総合価値では負けても、ホームランという観点から眺めるならばゴロはもちろんラインドライブと比較しても最高の打球種であることがデータからも明らかになっている。

では、総合的攻撃力において3者の中で明らかに劣るゴロが、フライボールに比較優位から勝るべき点はあるだろうか。

BABIPという観点からすればゴロ245に対してフライボール90であり明らかにゴロが勝っている。イチローの打撃戦略の根幹をも成しているゴロのBABIPがフライに比べて明らかに高いという視点は持ってしかるべきだろう。少なくともイチローがフライボールやホームランなどにうつつを抜かしていたならば、本塁打も多少は増えていただろうが様々なヒット数にまつわる史上記録も生まれなかったし、殿堂入り確実なプレイヤーなどには絶対になれなかった。

無暗にフライボールに飛びつき「ゴロを転がせば何かが起きる」という考えを古めかしいと単純に切って捨ててはならず、この考え方にも一理はあるという点を見過ごしてはならない。

例えばシングルヒット1本あれば十分という状況はベースボールにある。そうした場面に限ればセイバーメトリクス的にも確率の低いフライを敢えて狙う必要などない。打者のタイプによってはラインドライブからゴロを意識したバッティングをすることが大事になるシーンは現実にあるだろう。言うまでもなくベースボールにはフライボールを狙うべきシーンとグラウンドボールを狙うべきシーンが当然あり、状況において最適な打球の種類は変わっていくものである。特に短期決戦で目先の一点を争うシーンでは選択すべき打球を的確にチョイスすべきである。

では、圧倒的に攻撃力において劣るゴロがラインドライブに比較優位から優る点はあるだろうか。

ふつうに考えればありそうもない。しかしある視点から眺めた時、ゴロがラインドライブに勝る点が一点ある。それがアウトの生産性というスモールな観点である。

LAAホーム9回裏同点、先頭打者が2塁打で出たケースをたまたま中継で観ていたことがある。次の打者はトランボであった。1点あればいいシーンであり、メジャーでもこういう場面ならばしばしば送りバントもあるが打者が打者であるだけにソーシアは打たせた。(正しい判断だと思う)結果は強烈な打球がライト真正面に放たれ、結果1死2塁となり、次の打者が深いセンターフライを放つものの、結局LAAは得点はできず、延長に入ってその試合をLAAは落としてしまった。

もしトランボがランナーをセカンドゴロアウトで3塁へ進めていれば、次の深い外野フライで試合に勝利という形で決着がついていたかもしれない。そしてこの1敗が1勝へひっくり返るだけで、プレーオフに出ることができるかどうかのレギュラーシーズンの大きな分岐点となるケースは、現実にある。2つのワイルドカードが制定されたメジャーでは162試合目まで争うことはもはや毎年の通例となっている。

(10/31 追記
WSシリーズ第三戦、延長同点無死、2塁でヌネスはどうしたか。セカンドゴロを狙って打ち、ランナーを進めて逆転に繋げた。あれこそがまさにスモールな発想であり、ゴロの持つ価値を知り抜いたボストンの打撃であったと言える。この意識の徹底ぶりは相当なものであり、ボストンがスモールについて相当研究し尽くしてきたことがいずれ明らかにされる時が来るだろう。)

アウトの生産性という観点からすれば、セカンドライナーよりもセカンドゴロアウトの方が攻撃力において優位となるケースがあるという点にこそ、当ブログはベースボールの奥深さを再認識する。日本にはフライボールをやたらに礼讃するライターやアナリストがいるが、彼らはフライボールに焦点を絞り視野が狭すぎる余り、攻撃力そのものの全体を見渡す視点が欠如していると言わざる得ない。

ゴロにもまたフライボールやラインドライブよりも比較優位な点が現実に存在するという重層的かつ複眼的な視点を失ってはならないことは改めて強調しておきたい。

フライボール革命そのものを否定するつもりも更々ない。フライボールによって成功するチームもあれば、躍進を遂げる打者も数多くいる。ただ光と影は不可分にして一体であり、現時点においてはフライボール率を上げることによって成績が上がる選手に比べて落ちる選手もほぼ同等の数だけいるという現実の全体像を正しく伝えることこそが、スポーツジャーナリズムというものではないだろうか。例えばSEAのゴードンがフライボールに目覚めて、攻撃力は大きくアップするだろうか。

勝利するためにチームとしての攻撃力を最大化するという文脈の中で、フライボール革命もまた的確に位置づけることが大事となる。様々な特徴を持つ選手を生かし、攻撃力を最大化すべくチームが勝利をするために必要な考え方を手に入れるためには、イニングや得点差も含めた状況に応じてゴロ、フライ、ライナーという3種類の打球の全体像を広い視野によって見渡すことによってそれぞれの長所と短所を把握することが欠かせない。スモールへの確固たる視座である。

雑誌やテレビでもっともらしくフライボールの内容が数字とともに取り上げられると、リテラシーなき多くの読者は過大にフライボール革命を表現するライターたちの記事をすっかり鵜呑みにしてしまっている。



ここからは、数か月前より現在までジャンプアップします。 

2018年8月26日。昨年までフライボール革命についてあれだけ熱弁を揮っていたDJマルティネスについてワールドスポーツに登場しているアナリスト・アンドリュー氏が分析を試みました。全く当ブログと同じ結論に至っており、以下アンドリュー氏が言いたかったことをまとめてみたい。

「(多くの日本のライターが主張するような)FB革命とはフライボールをどんどん打ち上げれば攻撃力が増すというような単純な理論ではない。現在2018年三冠王も射程に入っているJDマルティネスは昨年ブレークを果たした2017年に比べて打球角度が平均で5度落ちて、FB率43.1%→31.4%フライボール率を激減させているがwRC+は 166 → 181 へアップしている。

JDマルティネスは昨年のフライボールありきから更に進化し状況に応じてバッティングしているのである。


結論

テシェイラの例でも明らかなようにフライボールによってホームランや長打を数多く打つことは、必ずしも攻撃力アップを保証はしない

「フライボール率を大きく下げて更に躍進を果たしたフライボールの申し子JDマルティネス」。そして「フライボール率を上げて本塁打王まで取ったが、攻撃力そのものは下げてしまったテシェイラ」。こうした事象一切をライターたちによる単純な「フライボールによってホームランを量産し攻撃力をアップせよ」とする記事ではとても説明し切ることができない。だからライターによるフライボール記事の薄っぺらさについて、私自身は瞬間的にツィートでも反応したのです。もちろんゴロという打球の中にある貴重な価値に対しても細やかな目線というものはライターには一切ない。

「NYY時代のテシェイラはJDマルティンス同様、フライボールを減らし、ラインドライブヒッターへ戻るべきだった」

そう8年前にスタッツを眺めていた頃から、一貫して私自身は考えていました。

一方でフライボールを増やして更にスタッツを引き上げたムッキー・ベッツがいる。ベッツだけでなくマルティネスもすべてを網羅するような論理的にあらゆるタイプの打者を説明し切るだけの最先端のバッティング理論がフライボール革命を包括しながらトラッキングシステムというツールを通して完成へ向かって進化することになるはずです。成功例であるベッツだけを恣意的に取り上げてはならない。物事をもっと立体的に捉える力が必要となるということです。フライボールを如何に多く打つかではななく、おそらく各打者にとって攻撃力を最大化するフライボールの最適値を今後求められる時代に入っていくことなるでしょう。

ではそうした時代に突入するならば、次なる課題にはいったい何が立ち上がってくるのか。こうした問いを自ら打ち立てる力こそが、大事になる。

フライボールにフォーカスする余り、視野を狭ばめ全体像を俯瞰することができないライターたちが時代に遅れになってしまう最大の理由とは何か。それはおそらく彼らが歴史がどのように動いていくのか運動法則を知らないからであり、戦略家の目線で物事を捉える力に乏しいからである。ある一つのトレンドが出てきた時に、その流れに一緒に乗ろうとすることは大事ではあるが、真の戦略家は一歩先先んじるために皆と同じ方向を向くことやめて、他へ向かって歩き出すことになる。この視点が決定的に欠けている。フライボールを相対化する眼を持たなければ、次なるトレンドを読み切ることはできない。

時代の最先端を捉えようとする際の私的流儀、それは歴史の運動法則を学び、それを基礎に据えつつも「アストロズの戦略家ルーノウの如き目線でトレンドを捉え、更にその一歩先を予測せよ」ということになる。すでに昨年末において、フライボールはガチで古いと言ってきたのもその延長線上にあります。

ヤフコメ民やJ民などを見ている限り、ライターの記事で十二分に満足しており、それでは単に時代の流れに乗っているにすぎずアストロズの戦略家ルーノウ目線で未来を見つめている人はコメントを見る限りほぼいない。だから彼らもまた時代の最先端をキャッチしているつもりが、常に半歩、時代に遅れてゆくことになる。

「JDマルティネスの進化の過程の中にこそ、フライボールの未来が見える。」

歴史の運動法則を掴み、戦略家のGM目線で全体を俯瞰する力こそが、分析力の源泉になければならない。この力こそ、未来を深く透視するためには必須のツールである。






大谷翔平についてのスタンス

日本ハムOB・野球評論家・プロ野球ファン・日ハムファンから二刀流・大バッシングのまさしく四面楚歌だった新人時代から一貫して栗山監督及び大谷二刀流の擁護する立場を貫く。

メジャーに大谷レベルの選手いくらでもいるとした二刀流否定派・メジャー通による「ゴロゴロ大谷説」も日本ハム時代から一蹴。

当ブログのポリシー

「これは現代に繰り広げられる壮麗なサーガであり、神話という文脈の中で大谷翔平という選手を捉えなければ、その実相は決してわからない。」

写真は古代ギリシャの神殿。